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愛おしい人を堕とす為にとめどない愛を垂れ流す
しおりを挟む思う存分項や首筋に喰いついて、最後には諦めて力を抜いていたシュミットを押さえ付け恍惚とした表情を見せていた芽依は、満足そうに唇を舐めた。
項に広がる噛み跡には血が滲んでいて、もはやアイスを優しく噛むよりも熱烈に喰いついていたのはすぐに分かる。
「………………あー美味しい……なんでフェンネルさん達みたいにすぐに噛める距離にいないんだろう……」
「………………」
「なんですぐに噛める距離にいないんだろう」
「2回言うな……もう降りろ」
うつ伏せで寝転ぶシュミットが芽依の腕を引っ張り上から下ろすと、勢いが付いてベッドから転がり落ちた芽依。
床に座り見上げる芽依をベッドから見下ろすシュミット。
ちょっといたたまれないのか、すぐさまベッドに引き上げたシュミットに芽依はうひひ……と怪しく笑う。
「…………怪我は? 」
「ないで……いや。あります。足痛いからもう少し噛んで……」
「やめろ? 」
ガッ! と顔面を掴むシュミットに、またうひひ……と笑う。
もう身内かという程に好き勝手する芽依にため息を吐く。
だが、憎めないらしいシュミットは手を離してスルリと髪を撫でた。
そうすると、まるで猫みたいに目を細める芽依。
「…………ん、シュミットさんが1番撫で上手」
「1番? 」
「1番……あー、なんですぐ手の届く場所に居ないんだろうなぁ」
「しつけぇ」
おでこをペシリと叩かれ、あぅ……と声を漏らす。
「いや、結構真面目に。私メディさんたち3人以外に家族に迎えたいって思ったのシュミットさんだけですよ」
最初から出会っていたセルジオじゃなく、噛む対象になってるシャルドネじゃなく、天使と愛で崩れ落ちるニアではなく。
なによりもメディトークたちのように離しがたく常にそばにいて捕まえていたいと思ったのはシュミットだった。
その想いがシュミットの素質から来るものなのか、それとも芽依自身が選び抜いたのかはわからないが、どうしても手を離したくないと魂が叫んでいる。
「………………お前、それはメディトークたちの前で言うなよ」
「なんでです? 」
「人外者は所有するものを大切に守る代わりに周りへ目を向けることを許さない。今のあいつらなら、友人としては許すだろう。だが家族として迎えたいなんて言ってみろ、ぶち殺されるのが目に見えてる」
「私が? 」
「なんでだよ。俺がだ」
そう言われて、以前のフェンネルを思い出した。
狂うきっかけとなったのは、友人の伴侶である移民の民が他へと懸想したことがはじまりだ。
だが、それは過去のこと。
「シュミットさん。私は不謹慎かもしれないけど皆が好きで皆を愛してる……愛してる?! 」
「自分で言って照れんなよ」
「んん!! ……純愛とか綺麗事なんかないもっとドロドロとした執着愛だって理解してますけど、今更手放せない。それごと抱き締めてこぼしたりしないようにギュッとしたいんです。そこに、どうしてもシュミットさんを捩じ込みたいんです。どうしても」
奴隷として招き入れたパピナスやメフィストは同僚として大切にしたい気持ちがある。
だが、メディトークたちのような気持ちはどうしても生まれず、抱き締めて愛する対象にはならなかった。
腕の中の人数を増やしてこぼれ落ちる危険を犯すことは絶対しないと誓った。
だが、会う度に、触れ合う度に溢れる親愛、家族愛、溺愛……ありとあらゆる愛情がシュミットに向かう。
キスを拒むことはなかった。
それを嫌だとは思えなかった。
それは、笑顔で可愛い大好きとハストゥーレに迫り唇を奪った芽依の気持ちと変わりはなくて。
つまりは、そういう事なんだろう。
「…………うん。でも、私は……私はシュミットさんが好きみたいです。メディさん達と同じくらい抱き締めて側にいて、隠してしまいたいくらいに……私は貴方が好きなんです」
その溢れ出る感情は、人外者が移民の民へと向ける歪んだ愛に酷似していて。
人外者だからこそシュミットはそれを理解してしまう。
向かい会って座る2人。
グイッと体を寄せて目を覗き込むように見る芽依の顔を、またシュミットが抑える。
「………………やめろ。そんな目で見るな」
「どうして……? 」
「惑わせたいのか」
「惑わされてくれるんですか? 」
座るシュミットの足に手を置いて、シュミットの手を掴んで離し嬉しそうに幸せそうに笑みを浮かべる。
家族3人は、惜しむことのない愛を最初から芽依に与えていた。
奴隷として、強制的に家族になったとしても芽依の魅力に飲み込まれて虜にされた2人とはちがう。
契約から始まったメディトークの愛とも違う。
初めて、芽依が心の底から欲した人外者。
「………………どうしても、欲しいんです。私に貴方をください」
そんな懇願をする芽依に、シュミットが堕ちるのも仕方ない事なのだろう。
キスからもたらされた強烈な感情や感覚をまだ体は忘れていない。
「………………俺は嫉妬深いぞ」
「ドンと来いですよ。私、家族を手放す事は絶対しません。愛してますから……愛っ」
「だから、なんでそこで照れる」
すり……とシュミットが頭を擦り寄せるように額同士を重ねる。
ゼロ距離に近い2人は見つめ合ったまま囁くように話す。
「………………アイツらみたいに、お前を優しく包むような愛し方は出来ないかもしれないが、いいのか? 」
「んふふ、どんな愛し方をしてくれるのか今から楽しみですね」
「…………アイツらにも嫉妬するかもしれないぞ」
「それごと抱き締めて慰めてあげます」
「お前が作る物を際限なく欲しがるぞ」
「どうぞお好きに」
「………………仕事で離れる事だってある」
「帰ってきてくれるでしょう?」
何を言ってもめげずに手を伸ばし続ける芽依をシュミットは眉を下げて見た。
どう言っても引かない芽依はシュミットの内部に手を伸ばし全てを絡め取ろうとする。
それは抗えない欲で。
「………………そんなに、俺が欲しいのか? 」
「はい……どうしても……貴方が欲しいんです。貴方の全てを」
今思えば、収穫祭の時にシュミットを噛んだ時思ったじゃないか。
全てを食べたいと。喰らい尽くすくらいにシュミットを食べたいと。
もう、隠しようもなく溢れ出た感情はとめどなくシュミットに向かう。
家族に引き込む為に、相手を堕とす為に言葉を止めなかった。
「………………いい、わかった。やるよ、俺を。ただし、家族以外に目を向ける事は許さない。わかったな」
「………………ふ、ふふふ……はい。 わかりました …………ああ、よかった……貴方を貰えた……やっと、私のもの」
首に手を回してギュッと抱き締める芽依を諦めたように笑って腰に手を回すシュミット。
今年最後で最大の収穫をした芽依は目を細めて笑う。
「……収穫祭って大事」
「ん? 」
「収穫祭頑張った甲斐がありました。シュミットさんっていう今年最大の収穫ができましたから」
「俺を野菜と一緒にすんな」
体を離して笑った芽依が口を開いた。
「…………シュミットさん。私は芽依といいます。これからよろしくお願いします」
「………………お前は本当に……」
移民の民が名前を名乗るのは相手に名前を預ける事になる。
それは呪術的な繋がりが出来て守ることも出来るが、その大半は呪いや魔術の媒体に使われてしまう。
だから、移民の民は伴侶などの信頼出来る人にしか自ら名前を名乗らない。
それを芽依はシュミットに名乗った。
幸せそうに笑みを浮かべる芽依を困ったやつだな……と笑ったシュミットは芽依の頬を手で抑えた。
「………………不用意に名を名乗るな、バカ」
「シュミットさんだからですよ? ………………いたっ」
「………………帰るぞ」
無言で芽依の頬をパチンと挟むように叩いてから立ち上がった。
そんなシュミットを見上げると、髪の隙間から見える耳が赤く染まっていて、にんまりと笑う。
「はーい」
名乗りは、信頼の証。
それを移民の民から向けられたのは勿論初めてだ。
しかも、熱烈に自分を欲して望む。
顔に熱が籠るくらい仕方がないだろう、とシュミットは芽依を見ることなく歩き出すが、その腕を掴み指を絡める芽依をチラリと見る。
えへへ……と甘やかに笑う芽依は、やっと手に入れた愛しい存在を離すものかと絡めた指に力を込めていた。
「あ……」
「はい? 」
「…………俺が死なないようになんとかしろよ? 」
「あ……お、おまかせあれ……」
「不安しかねぇな」
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