美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

文字の大きさ
上 下
396 / 588

愛おしい人を堕とす為にとめどない愛を垂れ流す

しおりを挟む

 思う存分項や首筋に喰いついて、最後には諦めて力を抜いていたシュミットを押さえ付け恍惚とした表情を見せていた芽依は、満足そうに唇を舐めた。
 項に広がる噛み跡には血が滲んでいて、もはやアイスを優しく噛むよりも熱烈に喰いついていたのはすぐに分かる。

「………………あー美味しい……なんでフェンネルさん達みたいにすぐに噛める距離にいないんだろう……」

「………………」

「なんですぐに噛める距離にいないんだろう」

「2回言うな……もう降りろ」

 うつ伏せで寝転ぶシュミットが芽依の腕を引っ張り上から下ろすと、勢いが付いてベッドから転がり落ちた芽依。
 床に座り見上げる芽依をベッドから見下ろすシュミット。
 ちょっといたたまれないのか、すぐさまベッドに引き上げたシュミットに芽依はうひひ……と怪しく笑う。

「…………怪我は? 」

「ないで……いや。あります。足痛いからもう少し噛んで……」

「やめろ? 」

 ガッ! と顔面を掴むシュミットに、またうひひ……と笑う。
 もう身内かという程に好き勝手する芽依にため息を吐く。
 だが、憎めないらしいシュミットは手を離してスルリと髪を撫でた。
 そうすると、まるで猫みたいに目を細める芽依。

「…………ん、シュミットさんが1番撫で上手」

「1番? 」

「1番……あー、なんですぐ手の届く場所に居ないんだろうなぁ」

「しつけぇ」

 おでこをペシリと叩かれ、あぅ……と声を漏らす。

「いや、結構真面目に。私メディさんたち3人以外に家族に迎えたいって思ったのシュミットさんだけですよ」

 最初から出会っていたセルジオじゃなく、噛む対象になってるシャルドネじゃなく、天使と愛で崩れ落ちるニアではなく。
 なによりもメディトークたちのように離しがたく常にそばにいて捕まえていたいと思ったのはシュミットだった。

 その想いがシュミットの素質から来るものなのか、それとも芽依自身が選び抜いたのかはわからないが、どうしても手を離したくないと魂が叫んでいる。

「………………お前、それはメディトークたちの前で言うなよ」

「なんでです? 」

「人外者は所有するものを大切に守る代わりに周りへ目を向けることを許さない。今のあいつらなら、友人としては許すだろう。だが家族として迎えたいなんて言ってみろ、ぶち殺されるのが目に見えてる」

「私が? 」

「なんでだよ。俺がだ」

 そう言われて、以前のフェンネルを思い出した。 
 狂うきっかけとなったのは、友人の伴侶である移民の民が他へと懸想したことがはじまりだ。
  
 だが、それは過去のこと。

「シュミットさん。私は不謹慎かもしれないけど皆が好きで皆を愛してる……愛してる?! 」

「自分で言って照れんなよ」

「んん!! ……純愛とか綺麗事なんかないもっとドロドロとした執着愛だって理解してますけど、今更手放せない。それごと抱き締めてこぼしたりしないようにギュッとしたいんです。そこに、どうしてもシュミットさんを捩じ込みたいんです。どうしても」

 奴隷として招き入れたパピナスやメフィストは同僚として大切にしたい気持ちがある。
 だが、メディトークたちのような気持ちはどうしても生まれず、抱き締めて愛する対象にはならなかった。
 腕の中の人数を増やしてこぼれ落ちる危険を犯すことは絶対しないと誓った。

 だが、会う度に、触れ合う度に溢れる親愛、家族愛、溺愛……ありとあらゆる愛情がシュミットに向かう。
 キスを拒むことはなかった。
 それを嫌だとは思えなかった。
 それは、笑顔で可愛い大好きとハストゥーレに迫り唇を奪った芽依の気持ちと変わりはなくて。
 つまりは、そういう事なんだろう。

「…………うん。でも、私は……私はシュミットさんが好きみたいです。メディさん達と同じくらい抱き締めて側にいて、隠してしまいたいくらいに……私は貴方が好きなんです」

 その溢れ出る感情は、人外者が移民の民へと向ける歪んだ愛に酷似していて。
 人外者だからこそシュミットはそれを理解してしまう。

 向かい会って座る2人。
 グイッと体を寄せて目を覗き込むように見る芽依の顔を、またシュミットが抑える。

「………………やめろ。そんな目で見るな」

「どうして……? 」

「惑わせたいのか」

「惑わされてくれるんですか? 」

 座るシュミットの足に手を置いて、シュミットの手を掴んで離し嬉しそうに幸せそうに笑みを浮かべる。
 家族3人は、惜しむことのない愛を最初から芽依に与えていた。
 奴隷として、強制的に家族になったとしても芽依の魅力に飲み込まれて虜にされた2人とはちがう。
 契約から始まったメディトークの愛とも違う。

 初めて、芽依が心の底から欲した人外者。

「………………どうしても、欲しいんです。私に貴方をください」

 そんな懇願をする芽依に、シュミットが堕ちるのも仕方ない事なのだろう。
 キスからもたらされた強烈な感情や感覚をまだ体は忘れていない。  

「………………俺は嫉妬深いぞ」

「ドンと来いですよ。私、家族を手放す事は絶対しません。愛してますから……愛っ」

「だから、なんでそこで照れる」

 すり……とシュミットが頭を擦り寄せるように額同士を重ねる。
 ゼロ距離に近い2人は見つめ合ったまま囁くように話す。

「………………アイツらみたいに、お前を優しく包むような愛し方は出来ないかもしれないが、いいのか? 」

「んふふ、どんな愛し方をしてくれるのか今から楽しみですね」
  
「…………アイツらにも嫉妬するかもしれないぞ」

「それごと抱き締めて慰めてあげます」

「お前が作る物を際限なく欲しがるぞ」

「どうぞお好きに」

「………………仕事で離れる事だってある」

「帰ってきてくれるでしょう?」

 何を言ってもめげずに手を伸ばし続ける芽依をシュミットは眉を下げて見た。 
 どう言っても引かない芽依はシュミットの内部に手を伸ばし全てを絡め取ろうとする。
 それは抗えない欲で。

「………………そんなに、俺が欲しいのか? 」

「はい……どうしても……貴方が欲しいんです。貴方の全てを」

 今思えば、収穫祭の時にシュミットを噛んだ時思ったじゃないか。
 全てを食べたいと。喰らい尽くすくらいにシュミットを食べたいと。
 もう、隠しようもなく溢れ出た感情はとめどなくシュミットに向かう。 
 家族に引き込む為に、相手を堕とす為に言葉を止めなかった。

「………………いい、わかった。やるよ、俺を。ただし、家族以外に目を向ける事は許さない。わかったな」

「………………ふ、ふふふ……はい。 わかりました …………ああ、よかった……貴方を貰えた……やっと、私のもの」

 首に手を回してギュッと抱き締める芽依を諦めたように笑って腰に手を回すシュミット。  
 今年最後で最大の収穫をした芽依は目を細めて笑う。
  
「……収穫祭って大事」

「ん? 」

「収穫祭頑張った甲斐がありました。シュミットさんっていう今年最大の収穫ができましたから」

「俺を野菜と一緒にすんな」

 体を離して笑った芽依が口を開いた。

「…………シュミットさん。私は芽依といいます。これからよろしくお願いします」

「………………お前は本当に……」
  
 移民の民が名前を名乗るのは相手に名前を預ける事になる。
 それは呪術的な繋がりが出来て守ることも出来るが、その大半は呪いや魔術の媒体に使われてしまう。
 だから、移民の民は伴侶などの信頼出来る人にしか自ら名前を名乗らない。
 それを芽依はシュミットに名乗った。
 幸せそうに笑みを浮かべる芽依を困ったやつだな……と笑ったシュミットは芽依の頬を手で抑えた。

「………………不用意に名を名乗るな、バカ」

「シュミットさんだからですよ? ………………いたっ」

「………………帰るぞ」

 無言で芽依の頬をパチンと挟むように叩いてから立ち上がった。 
 そんなシュミットを見上げると、髪の隙間から見える耳が赤く染まっていて、にんまりと笑う。

「はーい」



 名乗りは、信頼の証。
 それを移民の民から向けられたのは勿論初めてだ。
 しかも、熱烈に自分を欲して望む。
 顔に熱が籠るくらい仕方がないだろう、とシュミットは芽依を見ることなく歩き出すが、その腕を掴み指を絡める芽依をチラリと見る。
 えへへ……と甘やかに笑う芽依は、やっと手に入れた愛しい存在を離すものかと絡めた指に力を込めていた。

「あ……」

「はい? 」

「…………俺が死なないようになんとかしろよ? 」

「あ……お、おまかせあれ……」

「不安しかねぇな」
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...