美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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真実を知ったメロディアの冷静な眼差し

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 ザワザワとする周囲を気にせず芽依を抱えたまま食事が並ぶテーブルに向かうメディトーク。
 そのあとをフェンネルたちも続いた。
 最初は焦りキョロキョロとしていたが、ふと気付いたのだ、芽依が用意した盛装を着ているメディトークを。
 艶やかなスリーピース姿のメディトークはサイドの髪を少し切ったのか顔周りがスッキリしていて後ろの長い髪を緩く結んでいた。



(挿絵はイメージです)

「………………ああ、似合う」

「ん? なんか言ったか? 」

「すごい似合う。とりあえず、どうすればいい? この胸の高鳴りを」

「フェンネルでも齧っとけ」

「わかった」

「ダメだよね?! 」

 ギラリと眼差しをフェンネルに向けると激しく否定された。
 しかも抑える場所は腹だ。
 芽依の狙いどころをしっかりと把握している証拠である。

「なんか食うか」

 テーブルに並ぶ食事を見る。
 芽依には分からないが、メディトークの目には芽依が食べれる食事がどれかちゃんと見極めているのだろう。
 じっと見てから数個見繕い、フェンネルと騒がしく話している芽依の口にいきなり箸を入れた。

「んむっ! 」

 パクっと食べたのは焼き魚だった。
 油の乗った秋刀魚は濃厚な味と、少しの苦味を芽依に与えてくれる。

「………………お米がほしい」

 うっとりと口を動かす芽依をフェンネルが白米ー! と差し出してくれて有難く頂戴する。
 和食最高……と口いっぱいに秋の味覚を堪能していると、ハストゥーレは栗をガン見している。

「ハス君は栗食べたいの? 」

「あっ ……はい」

 照れたように頬を染めるハストゥーレにメディトークの肩をバシバシと叩くと、はいはい。と返事が返ってくる。

 あまりにも普通の4人に周りがバグっているようだ。
 ジリジリと近付くなか、流石だと言えるメロディアがユキヒラを連れてズンズンと近付いてきた。

「ちょっとメイ!! 」

「メロディアさーん! ヤバいよー秋刀魚たまらなく美味しい! 」

「あら本当? 1口……じゃないのよ!! ねぇ! 幻獣の王!! 」

 グイッと芽依を引っ張りメディトークたちから少し離れた芽依はヘラヘラと笑っている。
 渡された白米を、あーん……とメロディアに食べさせる暴挙をする芽依の頭を軽く叩いたメロディアは目をギンっ!と釣り上げた。

「あーん! じゃないのよ!! 」

 指さす先はメディトーク。
 煮込まれた鮭を食べていて、何やら考え込んでいるようだ。

「あー、役職幻獣の王らしいですよ。私はもう気にしないー」

「気にしなさい!! …………え、あのメディトーク? 加勢の幻獣の? 本当に? 」

「本当本当」

「蟻?! 」

「あっはっはっはっは!! 蟻! 蟻!! 」

「………………うるせぇ」

 呆れた様子で呟くメディトークに向かって芽依は秋刀魚ー! と言いながら走っていく。
 パクっ! と口に入れてくれたのは煮込まれた鮭でこちらも舌鼓を打つ。

「…………はらこ飯たべてみたい」

「なんだそれ」

「煮込んだ鮭の出汁……? 汁? でご飯を炊いて、その上に鮭とイクラを死ぬほど乗せた食べ物……? たしか。食べたことないけど」 

「え、美味しそう」

「えっ! はらこ飯食べたい!」

 フェンネルが食いつき、ユキヒラが身を乗り出す。
 それを見たメディトークが諦めたように笑った。

「あー、じゃあ明日作るか」

「「やったー!! 」」

「その服でジャンプすんじゃねぇ!! 」

 フェンネルと一緒に喜びジャンプをすると短いスカートがふわりと揺れる。
 それを見たメディトークが目を釣りあげて怒る様子を見てメロディアは、すん……と顔を無表情にした。

「…………あ、これメディトークだわ」

「多めに作るから昼前には来いよ」

 メディトークがメロディアに言うと、目を丸くして顔を上げた。

「…………え、行っていいの? 」

「お前の伴侶が食いたがってたじゃねぇか」

 不思議そうに首を傾げたメディトークに、メロディアの口がふにょりと笑みをつくる。
 そして、バシバシと腕を叩いた。

「なるほどなるほど! あんたは確かにメディトークね! 」

 ピンクと白の髪を揺らして笑うメロディアに眉を寄せて何言ってんだ……? と呟きながら、剥いた栗を芽依の口に放り込むメディトーク。
 次々と、ハストゥーレやフェンネルの口にも入れる甲斐甲斐しさに、間違いようもないわねぇ……と笑いすぎて出た涙を拭った。

「びっくりしたけど、納得したからもういいわ。まさかこんな近くに幻獣の王がいるとは思わなかったけど」

「……別に隠してたわけじゃねぇ。メイたちと静かに暮らすためだ」

「まあ、騒がれるものね。じゃあなんでこんな人がいる中でバラしたのよ」

「コイツが嫉妬して機嫌損ねたからご機嫌取り」

「ぐっ!! 」

 もぐもぐと食べ、飲み込んだ瞬間に頭を小突かれて、暴露された内容に喉を詰まらせる。
 慌てたハストゥーレに果実酒を渡されて、飲んだ芽依はメディトークを睨みつけた。

「嫉妬なんかしてない! 」

「へぇ? ミルディオーネに鬼の形相で言い返そうとしてたのに?」

「ベタベタ触ってたから気になっただけ!! 私だけじゃないからね!! フェンネルさんもハス君も不機嫌だったんだから! 」

「…………へぇ? 」

 慌てて弁解する芽依に、とばっちりをくったフェンネルとハストゥーレが目を丸くすると、メディトークは楽しそうに目を細めて2人を見る。

「相変わらずねぇ」

 くすりと笑うメロディアにメディトークは視線を向ける。

「…………別に幻獣の王とは言っても精霊や妖精の最高位と変わらねぇだろ。別に特別な訳じゃねぇよ。あんまりにも群がるからバレない蟻でいただけで深い理由はねぇ」

「まあそうだけど、それでも人外者の中では1番数が多い幻獣の頂点だもの。一目は置くわよね」

「いらねぇなぁ」

 クイッ……と酒を飲むメディトークを見上げてクスリと笑うメロディア。
 そして、いつの間にか芽依達3人とユキヒラで食事のテーブルを見て、食べているのを黙って見る。

「……アイツが喜ぶならいくらでもこの姿でいるさ。まあ、蟻の方が喜ぶがな」

「なんでよ、一般的にあんた格好良いじゃない。ユキヒラには負けるけど」

「惚気ぶっ込んでくるな……まあ、ちょっと悪戯しすぎたんだろうな」

「………………あなた、メイに何してるの? 」

 呆れた眼差しを向けられ、メディトークは考え込む。
 彼にとっては、普段としている事は変わらない。
 世話を焼き膝に座らせスキンシップをしている。

「いや、何もしてねぇな」

 疑わしそうな眼差しを一身に受けたメディトークだが、その発言を撤回することは無かった。
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