美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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ミルディオーネとメディトーク

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 ふわりふわりと空間に浮かぶリボンは、魔術の終わりと共に空気中に飛散した。
 それがその場にいる人や食べ物にキラキラと降りかかり祝福がかかっていく。
 地面が優しく照らされて、暗くなりかけていた周囲をほのかに照らしていた。
 祭壇に置いてある神楽鈴によく似た祭具をメディトークが鳴らすと、リィィィィンと高く澄んだ音がなる。

「………………はぁ、メディさん素敵だった。暗がりにほのかに光る祭壇にいる勇ましくも神聖で格好良いメディさんの黒光りの体がキラリと光って……イイ」

「っっ!! 」

 頬に手を当てて、ほぅ……と息を吐き出す芽依は恍惚とした表情をしていて。
 その隣には頬を赤らめたハストゥーレが激しく同意して頷いている。
 
 そうこうしている間に華やかな音楽が鳴り出し、広間では住民たちが手を触れ合って踊り出した。
 かと思えば葡萄踏みの準備がされて、足を浄化した女性陣が葡萄踏みを開始する。
 きゃあきゃあと笑い、滑る足元にたまにふらつきながらもスカートをたくしあげて太ももを晒す珍しい女性の姿に男性達は鼻の下を伸ばす。

「…………メイちゃんはダメだよ」

「もう太もも出てるよ?」

「あんな人前が可愛く笑いながら足を葡萄で汚して……なんて。だめ、許せない」

「……許せないかぁ」

 頬を膨らませるフェンネルに、くすりと笑う芽依。
 いつまでも可愛らしいこの人達をどうしてくれよう……と、腹部に手を当てるが着物に似た服は固く腹部の柔らかさがわからない。

「………………脱がすか」

「やめて?! 」

 真剣に話す芽依に慌てるフェンネル。
 まだ酒が入っていない芽依はにっこり笑って冗談と言うが、酒が入っていたら冗談ではすまないだろう。

『おう、待たせた』

「メディさん!! 」

 祭事の時に使用していた体に付けられた飾りを全て外したメディトークが芽依たちに合流すると、芽依は短いスカートの配慮をせずにメディトークにジャンプしてしがみついた。
 すいっ……とお尻の下に足をおき子供を抱っこするように芽依を抱えたメディトークは擦り寄る芽依を優しく見つめる。
 すかさずハストゥーレがひざ掛けを出してメイの膝にかけて、周りからの邪な眼差しを遮った。

「凄かったね、とっても綺麗でかっこよくて……メディさん素敵。さすが私たちのメディさん最高」

 手を握りしめて小さく上下に揺らす芽依に苦笑する。
 あまり目立つことを嫌うメディトークだが、芽依達が喜ぶならたまには良いかと頷き。
 芽依と同じような眼差しを送るハストゥーレと、にっこり笑うフェンネル。
 そんな3人を見ていたメディトークは、ふと朝に芽依が言っていた言葉を思いだす。

『…………用意した服、か』

 おめかししている芽依達を見て、メディトークが小さく呟く。
 それにフェンネルが、ん? と顔を向けると何かを考えていて。

「……メディさん? 何考えてるわけ? 」

『いや……コイツが服を用意していたからな……着るべきか? 』

「!! 」

 顔を擦り付けていた芽依が顔を上げて目を見開く。
 人型になれると知って初めて用意したメディトーク用の盛装。
 それを思い出して呟くメディトークに芽依たち3人は驚き言葉を無くす。
 彼は、人目に触れて騒がれるのを嫌がり通常の格好とわけている。
 それなのに、芽依の為にその姿を晒すと言うのだ。
 この4人で行動するのはもう知られている事。
 だからこそ、姿を変えて溶け込んでしまうと、その気安さから蟻のメディトークが幻獣の王だとわかってしまうのだ。

「で……でも……」

「騒がれちゃうよ」

 芽依とフェンネルがアワアワと焦りながら言い、ハストゥーレも眉を下げて見つめている。
 そんな3人に小さく笑ったメディトークは、まあ……いいか、と頷く。

 そして、芽依を下ろそうとした時だった。
 先程の豊穣と収穫の妖精がシャラン……と音を鳴らしながら近付いてきた。

「メディトークさま」

『あ? 』

 振り向きだいぶ下にある妖精の顔を見る。

「お疲れ様でございましたわメディトーク様。今日もとても素晴らしかったです」

 頬を赤らめて言う妖精、ミルディオーネはうふふ……と笑ってメディトークの黒光りボディに触れた。
 それにムッとして身を乗り出すと、直ぐにメディトークに体を支えられる。

「ねぇ。今日は私と一緒に回りませんか? 美味しいお食事を御一緒したいの」

 撓垂れ掛かるミルディオーネに口を開こうとすると、すぐさまメディトークの足が伸びてきて口を抑えた。
 開いた口にあてがわれて口を閉じれない。
 上目遣いにメディトークを見ると、ずれた帽子を直されて髪をすいてくれた。

『俺はコイツらと回るから無理だな』

「まあ! では御一緒してもよろしいかしら? 」

「んー!! (よろしくない!)」

 フーフーと怒る芽依に優しい眼差しを向けると、ミルディオーネは眉を跳ね上げる。

『コイツが嫌がるから無理だなぁ』

 クイッ……と顎を上げて芽依を見ると、怒り狂うキツイ眼差しがメディトークを射抜く。

『……んな顔すんなって』

 そう言ったメディトークがふわりと人型に変わる。
 その瞬間、たまたま見ていた周りの人達が目を見開き顎が外れるのではないかと言うくらいに口を開ける。
 ざわつき出した周囲からは悲鳴も聞こえてくるのに、当の本人は芽依しか見ない。
 
 まさか大勢の前で変わると思わなかった芽依達は目をまん丸にして、メディトークはクッ……と笑う。
 芽依の口に入っている指先を引き抜き、唇を拭うとポカンとした表情で見てきた芽依の額に頭を当てる。

「なんだよ、その顔」

「いや……だって……どうして? 」

「お前の機嫌が悪いからご機嫌取り」

「はぁ?! 」

 抱っこされたまま楽しそうに話すメディトークを睨みつけると、ミルディオーネは目を極限まで見開いていた。

「なぜ……ですの? まさか……幻獣の王……? 私の大好きな幻獣が……」

 よろり……と体を揺らしながらメディトークから離れるミルディオーネの顔色は悪い。
 そして、そんな……そんな……と言いながら走り去って行った。

「…………メディさんの姿にびっくりしたのかな」

「ちげぇ。あいつは昔から俺の蟻の姿が理想だって口説いてきやがったんだよ。蟻の姿以外に興味はねぇ」

「むっ……私の蟻さんなのに」

「…………そうだった。こいつも蟻の姿が好きだった」

 苦笑しながら芽依を見ると、無意識にメディトークの髪を触っている芽依は不機嫌に眉をひそめていた。
 同じく不機嫌を全面に出すフェンネルとハストゥーレもミルディオーネが離れた事でやっと笑みを浮かべたが、注目されるメディトークと抱えられる移民の民。そしてその奴隷。
 誰もが静かにしながらもこちらを見つめる驚愕の眼差しに気付いたハストゥーレは眉を下げてフェンネルと顔を見合せたのだった。
 
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