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2度目の収穫祭(挿絵あり)
しおりを挟むめっきり涼しくなり、風が冷たくなる。
そんな秋も深まるこの季節、準備を続けていた収穫祭の日が訪れたのだ。
街中では、収穫祭が近づくにつれて皆浮き足だちソワソワとしながらも笑いあっている。
心做しか距離感がバグっているのか異様に距離が近い人達も続出していた。
今日も可愛らしく着飾った女性は蕩けるような笑みを浮かべているのではないかと、想像もたやすかった。
そんな会場には芽依も行く。
メディトークは加勢の幻獣として儀式に参加するが、芽依達移民の民は特別何かをしなくてはいけないといったことはない。
まったり収穫祭を楽しみ、来年の実りを願うだけだ。
去年同様に可愛らしいフリルの沢山着いたエプロンドレスが用意されているのだと思っていたら、どうやら今回は違うらしい。
可愛らしいワンピースは膝丈上で、この世界では珍しく足が出る。
豊穣祭では、ぶどうを踏みジュースやワインを作る昔ながらの製法がここにも生きていて実演する場所があるのだとか。
去年は無かったそれは、ぶどうが豊富な今年は実装されるようだ。
「…………んふふ、可愛い。でも、久しぶりのスカート丈恥ずかしいなぁ」
(挿絵はイメージです)
ヒラヒラと揺れるスカート姿を鏡に移した芽依は珍しくベールではなく帽子をかぶっている。
可愛らしい服装は童顔な芽依によく似合っている。
今日は庭の家で準備をしていた芽依の所に巨大な蟻が現れた。
『メイ………………』
「あ、メディさん」
くるりと振り向きメディトークを見ると、真っ黒な目が上から下までじっくりと見つめる。
薄く透けている黒いワンピースは首やデコルテ、腕がうっすらと見えていて可愛らしい笑みを浮かべる芽依に近付いた。
「ん? 」
『……ああ、いいな。似合ってる。フェンネルたちから離れるんじゃねぇぞ。合流するまで静かにしてるんだ、わかったか? 』
「うん……メディさんの服も用意したけど着れないの残念だね」
『……そうだな』
ふわりと芽依の髪を触って、ふっ……と笑ったメディトークは行ってくる、と、部屋を出ていった。
今日は残念ながら儀式を芽依達と見れないメディトーク。
芽依は眉を下げてその後ろ姿を見送ると、トボトボと帽子を持って部屋を後にした。
「うわぁ……メイちゃん可愛い!! どうしよう、可愛すぎて見せたくないんだけど……」
いつもと違ったきっちりと固めの生地の服を着ているフェンネルが振り返り芽依を見る。
いつもの飾り気ないシャツではなく、刺繍でふんだんに飾られた白と黒の服は襟元が交差した着物のようになっている。
鮮やかな模様が入っているその服に、芽依と同じく用意されている大きめの帽子を手にしていて、すでに女子より女子力が高い。
キリッとした見た目だったフェンネルは、日に日に目尻をタレ下げ優しげに微笑む。
(挿絵はイメージです)
「うわぁ……どうしよう……フェンネルさん綺麗過ぎて噛むに噛めない……」
「うん、噛まないで? 」
「夜、夜になったらその服脱がせていい? あーれーってしよう? 」
「うん、何言ってるのかな? 」
「大丈夫、大事に大事に齧るからね」
「噛るのから離れよっか」
口に両手をあててキラキラとした眼差しを向ける芽依に、困ったように笑うフェンネルはそれでも愛おしい相手を見る柔らかな眼差しを向けていた。
今日は茶畑組も勿論収穫祭に参加だと用意をして既に庭を離れていて、今日は自由にどうぞとパピナスも可愛らしいワンピースと帽子を芽依は用意していて、既に外出している。
一緒に行くかと聞いたが、皆様の邪魔をしたら轢き殺されるのも本望です! と、過激な発言を頂き、ソロ活動を自ら願い出たパピナス。 相変わらずである。
メフィストはどうするか? と聞いたら面倒そうに顔を歪めていた。
だが、祝福を受ける為に顔を出すと後から参加するようだ。
衣装を準備するつもりだったが要らないとすげなく断られ、帽子だけ準備をした。
芽依の庭メンバーは、全員帽子での参加である。
「時間は夕方からだよね」
「うん、でも祝祭用の食事はもう食べれるから結構集まってると思うよ。そんなに早くないし、もう行く? 」
「そうだねぇ、ハス君の準備が終わったら行こうか」
カウチソファに座ってまったりと待つ。
ハストゥーレは、明日に引渡し用の羊の準備である。
今日が豊穣祭で、持ち帰りもあるというのにヘルキャットは羊を所望している。
相変わらずの羊好きの大食らいである。
彼女にとっては羊は好物だが、おやつ感覚なのだろうか。
以前の箱庭に映し出された羊丸ごとあむあむして、羊がぴきゃー! と泣いていたのを思い出す。
「…………羊、少し多めに買おうかな……」
「市場的には羊の需要は微妙だから迷っちゃうよね」
くすり、と笑うフェンネルに頷く。
庭の様子を思い浮かべると、最初メディトークと2人で始めた庭は広大になり、飼い始めた家畜たちも数が増えた。
レアと呼ばれガガディの子供も増えて、少量ではあるが毎月出荷出来るまでになった。
この世界に来て困惑はしたが悲観しなかった芽依は、今も逞しく成長して日々生きている。
「ん? 」
「んーん、大好きだなって思って」
「え、突然の告白……」
白い雪のような肌をほのかに赤らめて笑うフェンネルも最初の儚げな様子はなく、鮮やかに微笑む。
この世界で1番綺麗な妖精だと思っているフェンネルが嬉しそうに笑うのだ。
無表情で感情の無かったハストゥーレが可愛らしく笑うのだ。
巨大な蟻が過保護になり、艶やかな黒髪を揺蕩い微笑むのだ。
芽依がこの世界に来てまる2年が経過した。
長いようで短いこの時間を育んだのは無駄じゃなかったと、今隣に座るフェンネルの美しく微笑む顔を見て、芽依も笑って穏やかな気持ちに身を委ねた。
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