美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

文字の大きさ
上 下
365 / 588

人形祭り5

しおりを挟む

 舞台の中央に、2体の人形が寄り添うように座っている。
 その周りに円のように小さな人形たちがずらりと並び、並びきれない人形は2重3重と重なっている。
 2年分の人形は思ったよりも多い。

 ソルテティアとエルランニュートが円の外に立ち、神楽鈴に良く似た魔術具を持つ。
 他の白い着物をきた人達は舞台の外にいて、小さな神楽鈴を持っていた。

 リーン……チリンチリン……リーンリーン

 舞台の外から2種類の鈴の音が響き出すと、神楽を踊るようにソルテティアとエルランニュートが舞を踊って鈴を鳴らす。
 それに合わせるように、中央の人形から地面を這うように魔術陣が広がっていった。
 白と青、緑に黄色と様々な色が糸のように魔術陣を通っていって、その度に中央の人形の真っ白な肌が色付いていく。
 そらして、短時間で魔術陣が完成した。

 すぐさまソルテティアとエルランニュートか舞台から降りると、ゆっくりと中央の2体の目が開く。

「………………人間みたい」

「うん、この人形のモデルは人間だったから、余計にそう見えるよね」

「……だった? 」

「うん。もういないよ」

 それは、もう生きていないという事で。
 人形を制作し始めてからこの人形祭りまでの約2年半の間にこの人形のモデルは亡くなったようだ。
 このモデルの家族はどんな気持ちで今、この人形を見ているのだろう。

「…………それでも……」

 それでも、こんなにも美しい。
  
 立ち上がった2体の人形は、ドレスを翻して空中から光の粒子を集めて武器を作る。
 巨大な鎌を握りしめ、微笑む2体の人形は美しく優雅だ。

「あ……」

 魔術陣が全て色鮮やかに輝くと、浄化される人形達はゆっくりと立ち上がった。
 目を瞑っている人形たちが目を開ける。

「これね、見てるだけなのに椅子がないでしょ? 」

「うん」

 参列している人達全員が立ってこの人形祭りを見ていた。
 ゆっくりと魔術陣が消えていくのを見ている参列者は何故か戦闘態勢に入っているように見える。
 年嵩のいった淑女の皆様も、ドレスのスカートを握りしめているのを見るとシャリダンの麗しい女性だろう。

「え? なに? ………………え?! 」

 ブォン……と音が鳴った。
 振り回される鎌が空を斬り風を巻き起こし赤と黒のドレスが翻る。
 鮮やかにジャンプしたり走ったりと舞台の上を縦横無尽に駆け回る2体の人形。
 それから逃げる小さな人形たち。

「………………祭り? 」

「うん……果てしなく人形の喧嘩祭りに近いけどね」

 胴体を真っ二つに切られ、ポワン……と可愛らしい音を鳴らしながら消えていく人形たち。
 ただ、黙って切られる訳じゃない。
 ドレスを着た金髪の人形は、逃げ時にわざと後ろを向き自分のスカートを捲った。
 レースとフリルたっぷりのドロワーズを見せつけ突き出したおしりを小さな手でペンペンと叩くと、巨大人形は憤怒の顔をする。

 また、呪具として使われていた人形達は様々な飾りを身に付けている。
 魔法を操る杖だったり、剣だったり、ナイフだったり。
 殺傷能力の高いものは魔術の際に使用するらしく、人形とセットで用意する事もあるのだ。
 だから、この人形たちは。

「うるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 」

「誰が消えてやるものかぁぁぁぁあ!! 」

 血眼になって武器を振り回し応戦するのだ。
 中には喋る個体もいる。
 ジャンプして剣を向ける騎士姿の人形を巨大人形が蹴り飛ばすと、参列者の方に飛ばされる。

 ぎゃあ!! と女性の声が響いたあと、離せそこの御仁よ! と人形の声が響いた。

 沢山いる人形は、全て切れない為、合間合間に人形を吹き飛ばす。
 それを、ドレスコードを纏った紳士淑女が楽しそうにボコり始めるのだ。

「……………………えー……うわっ! 」

「ほらほら、見逃すと当たっちゃうよ」

 びゅん! と目の前を物凄くスピードで投げ飛ばされ消えていった人形。
 人を5人巻き込んで地面に倒れている。
 しかし、すぐさまムクリと起き出してブンブンと杖を振ると魔術が展開された。

「なぜ?! 」

「魔術も使えるよー」

 フェンネルが直ぐに指を鳴らして杖を持つ腕を凍らせた。
 魔術を止めた人形は、ブンブンと腕を振り氷を剥がそうとするがなかなか上手くいかないようだ。

 周りを見ると、小さな人形は楽しそうに暴れている。
 ぶわりとスカートを翻し剣を振るう人形と、小さな子供の姿の妖精が鍔迫り合いになっていたり、キュルンと可愛い顔をして背中にナイフを隠し持つ男の子がシュミットによって切り伏せられたりしている。

 かと思えば、少し大きめの女性の人形に二アが押し倒され、腹に座る女性がナイフを掲げている。
 面倒臭そうに見ている二アがそっと鎌を出そうとした時、素晴らしい速さのゴボウが飛んできて人形を串刺しにした。
 さらに2体巻き込み、団子のように刺さっている

「私の天使に無礼はゆるさん」

「ナイスコントロール」

 パチパチパチと拍手するユキヒラとミチル。
 そんな2人のところに歯をギザギザにした人形が来たが、メロディアが足を高く上げて蹴り飛ばす。

「あ、メロディア。ドレス姿なんだから足を上げるのはちょっとはしたないよ」

「あら、ごめんなさいね」

「…………あの凄まじい蹴りを見たあと、はしたないで片付けるユキヒラさんが凄い……というか、この飛び交う人形たちのどこが、ちょーっとこっちに来るなの……ガンガン行こうじゃないの」

 至る所で戦いが勃発していて、目を丸くする。
 人形祭り=喧嘩祭り、理解した。

 同時に人形が数体飛ばされてきた。
 巨大人形が、まさかの鷲掴みをして豪速球をしたのだ。
 これには目を見開いてしまう。
 直線上にいた18歳くらいの外見の男性が巻き込まれて吹き飛ばされてきた。

「ぎゃ!! 」

 メディトーク達は人形を捌きつつ芽依の安全をと守っているが、急に来た人形よりも大きな生身の人からは難しかった。
 酷く驚き泣いているその人は、守られていたはずの芽依の場所まで何故か細やかな動きで人形やメディトーク達を避け、芽依を巻き込んで転んだのだ。

「あっ結婚してください」

「何故?! 」

 
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

皆さん、覚悟してくださいね?

柚木ゆず
恋愛
 わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。  さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。  ……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。  ※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

処理中です...