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新しい仲間とカテリーデン2
しおりを挟む販売は順調に始まった。
秋になってきたこの頃、体を温める用に使われやすい野菜や肉が飛ぶように売れていく。
少量だけど食べ切れる量を選んで上手に買う買い物客に頭が下がるおもいである。
しかも、これから豊穣祭があって野菜が無料で手に入る。
沢山買う必要が今は無いのだ。
「お、これも頼む」
「はい、どうぞ」
デレっ……と鼻の下を伸ばしてパピナスを見る客。
デコルテが見える服装だから目線が集中してしまうのだ。
これがフェンネルやハストゥーレへ向けられる眼差しなら既にブチ切れているのだが、家族としては受け入れていないパピナスだから、心配そうに見るだけに留まる。
それを少し意外そうに見られていた。
「メイちゃん……あれ、いいの? いつもなら怒り狂っているよね? 」
芽依と同い年くらいの女性が心配そうに言ってきた。
常連だからこそ、そんな芽依に違和感を感じている。
奴隷は大切にされると思われているからこそ、見ているだけで一切注意しない芽依に恐る恐る声をかけてきたのだ。
「………………うーん。パピナスは奴隷だけど……」
「……やめてくださいませ」
困ったように言った時、被せるように聞こえたパピナスの声に振り向いた。
基本的に家で囲われる赤の奴隷は人前にでない。
だから、美しい赤の奴隷を目の前で見た客たちは勘違いをした。
見せびらかす為に外に連れ出された赤の奴隷は、客寄せとして使われる。
新しい赤の奴隷が手に入り、以前の赤の奴隷は外を客をとるのだ。
ある程度話は聞いていたが、契約では夜の仕事は免除されている。何かあっても拒否が認められていた。
また、パピナスは家族ではなくあくまでも奴隷である為、メディトークたちは手出しはしない。
それは、芽依が主人であるからだ。
従うよう言われてはいるが、あくまで主人は芽依である。芽依以外、こういった事に口を出せない。
嫌がるパピナスの声に反応した芽依が振り向いた先には、腕を掴まれ相手をしろと迫る低俗な男性だった。
客では無さそうだ。一切商品を見ていない。
護衛兵がゆっくりと帯刀している剣に手を掛けているところを見ると、いつでも間に入ってくれるようだ。
そんな相手に、どう対応するべきか迷っているパピナスは芽依を見る。
『随分とうるせぇ羽虫がいやがるな』
「まったくだよね」
2人で話した内容を聞いたパピナスは目を見開き相手の手を鷲掴んだ。
騒ぐ男性に目を向けず、芽依を見続けているパピナスは次第に顔を青ざめさせる。
そして、ブンっ!! と風を切る音と風圧を感じた。
「申し訳ございません!! 私ごときが羽虫を呼び寄せてしまいまして!! 死んでお詫び致し」
「ません! やめて! 」
パピナスによって投げ飛ばされた男は、勢い良く前のブースに突っ込んでいた。
販売中の売り子の悲痛な叫びが響き、ハストゥーレがアワアワと芽依の服を引きながら焦っている。可愛い。
「やはり、私が来た事でご迷惑が……」
そう言いながら、呆然としている客を引き寄せ販売を始めている。
凄まじいスピードで袋詰めをしているがどれも丁寧で、崩れそうな桃や葡萄などはしっかりと保護されている。
金額計算も早く間違いが無いので、料金ケースの中は売上金がどんどん増えといってる。
先程の騒動の後なのに、パピナスは怖がる素振りもなく接客をしていて、むしろ驚いた客が恐る恐る注文をしている。
どさくさに紛れて試食を2つ目を取ろうとする客の手を容赦なく叩いた。
「ああ……でも、ご主人様に羽虫と見下されるのはゾクゾクしてしまいます……」
「一言も言ってないからね?! 」
そんな軽口のような会話をしつつ、長蛇の列を捌くパピナスにメディトークはへぇ……と口端を持ち上げた。
「貴方……大丈夫? あの……怖くなかった? 」
心配そうに話しかける客に、パピナスは綺麗に笑った。
「はい、大丈夫です。恐怖で言ったらメディトーク様の方が断然恐ろし……」
『ほぅ? 言うようになったじゃねぇか』
「はぁぁぁ!! 申し訳ございません!! ご主人様ぁぁぁ!! 」
『俺はてめぇのご主人様じゃねぇ!! 』
「…………おぉ、なるほど。パピナスが来るとこうなるのか。フェンネルさんは男女関係なく誘惑して、ハス君は天然培養の最強でメロメロにして、パピナスは……なんか……色気が爆発して……うん。賑やかだね!」
『あきらめてんじゃねーよ』
あはははは……と笑いながら、男が投げ飛ばされたブースに向かう。
自分のせいじゃないが、奴隷がしたことは主人のせいだ。
「ごめんなさい、弁償します」
「あ……いや、そりゃ助かるけど……あなたの所も被害者でしょ」
「投げ飛ばしたのはうちの……奴隷ですから」
どんどん販売しているパピナスをチラリと見てから言うと、カテリーデン付きの警備員がくる。
先程の帯刀してる騎士である。
「失礼、カテリーデン内の揉め事にはこちらで対処いたします。ジェシカ様、 ダメになった分はこちらで弁償いたしますので」
「あ、あぁ助かります!!」
「そのための保証金ですから」
「保証金……」
ふむ……と考える芽依をチラリとブースにいるメディトークが見ていた。
「保証金ですか? 」
ブースでの持ち時間が終わり、予定にしていた美味しい肉探しを始めた芽依たち。
先程の気になる事を聞いてきた芽依に、ハストゥーレが答えてくれる。
「利用規約に書いてある保証金ですね。年1回定められている保証金をカテリーデンに支払う事で、カテリーデンの販売中に起きた争いに仲介や賠償をしてくれるます」
「え、そうなんだ。それって皆?」
「いえ、任意です。それなりにまとまった金額ですので販売開始すぐには難しい人もいますので」
「そうなんだ……」
『販売者や客だけじゃなく、人外者や貴族に絡まれる可能性もあるからな。カテリーデンは領主館直轄だから、ある程度融通が効く。人外者はともかく、貴族には抵抗出来るから、余裕があるやつは保証金を支払って安全を買ってるな』
「…………うちは? 」
「勿論支払い済みです」
『まあ、自力で対応出来る場合はカテリーデン側も放置する事あるがな』
「…………職務怠慢」
『……ちなみに、保証金の支払いはしてると前に言ったはずだがな』
「えっ!! 」
先程のブースが破壊された女性は保証金を払っているようだ。
カテリーデン側からの保証は勿論、男からも損害賠償をしっかり請求すると強かに言っていたので大丈夫だろう。
芽依たちは最初の予定通りになかなか良い肉を厳選して購入、夜にはパピナスやメフィスト、ゼノとサエも呼んでの盛大なしゃぶしゃぶ大会が開催された。
準備された肉や野菜を食べつつ、酒を嗜む。
嗜む量から逸脱しているが、いつも通りの晩餐に、こちらもいつも通りなフェンネルを噛みメディトークを珍味の如く楽しんでいた様子をメフィストは目を鋭くして見つめていた。
完全に研究対象を見る目であった。
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