美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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収穫祭用の食材選別

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 夏の暑さがだいぶ穏やかになってきて、そろそろ秋に差しかかる時期がやってきた。
 読書の秋、食欲の秋、収穫の秋。
 芽依の好きな季節である。

 芽依は食卓に並ぶ炊き込みご飯やミネストローネ風のさつまいもスープ、肉を大胆にカリッと焼いたサラダ巻き等を見つめている。
 庭は潤い美味しいご飯が毎日食卓に並ぶこの幸せをかみ締めて、芽依は手を合わせた。

「いただきまーす!! 」

 具沢山の炊き込みご飯は味が染み込み絶品で、相変わらず蟻はおかわりをよそってくれる。
 差し入れで渡したゼノ達も喜び、メフィストも毎日出てくる美味しいご飯に目を見開きながらも食べていた。
 メフィスト同様、パピナスも自室で1人食事をとる為寂しいかな? と思ったが、今まではご主人様と緊張の中食べていたらしく、今は天国です!こんなに幸せで不安になるので蹴ってください!! と言われたから大丈夫だろう。
 …………大丈夫、なんだよね? 蹴ってくださいって言われたけど、大丈夫だよね? 

 そんな食欲の秋。
 芽依は新しくきのこが欲しいなぁ……なんて呑気に思っていた。
 まさか、収穫祭の話がこんなに早く来るとは思ってもみなかったのだ。






「収穫祭の奉納品の野菜ですか」

「ああ、去年に引き続き頼めるか? 今年はそれなりに集まりそうだから、芽依にだけ負担させる訳ではないからな」
  
 にっこり穏やかに笑うアリステアは、今芽依の庭の外にある椅子に座っていた。
 安心からか笑みが零れていて、アリステアが来るからと村長の家も出している。
 
 なにやら大きな仕事が一段落したようだが、次に始まる祝祭の準備に忙しかったのだそうだ。
 収穫祭はまだ先なのだが、その野菜は早くから準備しないと足りなくなったりする危険がある。 
 落ち着いたとはいえ、また他国等から厄介な話も来るかもしれない。
 それを聞いていたメディトークはふむ……と悩む。

「どんな野菜がいいですか? 質より量? それとも希少なものをドン! と出します? 」

「希少なものをドン…………? 」

 希少なのにドンとなるくらいの量があるのか? と首を傾げるアリステアに、ハストゥーレはすかさずお茶請けを追加して進める。

「どうぞ」

「あ、ああ、ありがとう」

 未だに慣れない白いの奴隷の光る羽を数秒見てから出されたお茶請けが入っている器を見る。
 そんなアリステアを見てから、キラキラと輝く羽が風に揺れるのハストゥーレの控えめな笑顔を見ていると、ハストゥーレも芽依を見た。
    照れたように赤らめた顔をお茶請けを運ぶために持っていたお盆で隠した。可愛い。

 ちょうどお茶請けに用意されたお煎餅を1口食べた所で、アリステアは目を丸くする。

「…………これは? 」

「お煎餅ですよ」

「………………お煎餅」

 初めて食べる甘じょっぱいお煎餅をマジマジと見るアリステアは気に入ったのか、パリン! と音を鳴らして食べた。

「美味いな」

「フェンネルさんが作ってくれたの」

「何で出来てるんだ? 」

「お米」

「米?! そうなのか……」

 フェンネル様が……と呟きながらパリパリ食べていると、それを見ていたメディトークが煎餅を1枚持って閃いた。

『今回、奉納用とは別に作るか? 料理』

「え? 」

『毎年、翌年に食料不足になると困るから沢山用意はするが、その大量の食材の消費が大変だと結構話が上がってんだよ。そりゃ、奉納用で時間停止してねぇ野菜やらなにやらが山ほどありゃ、破棄にもなるわな』

「裏路地の炊き出しとかは? 」

「奉納用は豊穣の妖精ディメンティールに捧げられるものだから、豊穣を願う人しか食べれないんだ」

 出されても、物理的に食べられないらしい。
 口に入れる事が出来ないのだとか。

 様々な事を諦めた人が集まる裏路地で生活する人達のほとんどが、豊穣を願い生活する余裕はないだろう。
 それを願い、働き、イキイキと生活する人に豊穣の妖精ディメンティールが微笑むのだ。
 何もしない人に、この厳しい世界で豊穣祭の祝福は得られない。
 せめて少しでも、その場を脱出する努力が見られるなら、また違うのだが。

「…………なら、その野菜ってどうしてるの? 」

「その場にいる人達で持ち帰り、祝福を得るのだ。だが、多ければ多い程に来年の収穫を約束されているから、そもそも量が多くさばききれない」

 なんとも割に合わない祝福である。来年の豊穣を約束させる為に収穫したものを腐らせてしまうとは。
 それは、豊穣の祝祭に許される行為なのか? と首をかしげる。

『……でだ、今回は奉納として料理も含めてはどうだ?それなら参加者がそのまま食えるし、持ち帰り量も減るだろ』

「奉納分の中から料理するということか」

「じゃあ、あとは誰が作るかかな」

 うーん、と悩む芽依。
 流石に当日も忙しいメディトークに丸投げは出来ないし、芽依達が出来るのは食材提供だけである。
 それに量も多い。
 カテリーデンに出す量どころではないのだ。
 ここはアリステアにおまかせ。権力である。

「ああ、それは任せてくれ」

 にっこり笑うアリステアにホッと息を吐いた。
 これで、食材系は何とかなりそうだ。 
 あとは、豊穣と収穫の妖精との打ち合わせとなる為、当日まで芽依がすることは無い。

「…………これだけは、作ってくれないか? 」

 アリステアが言いづらそうにお煎餅を持って言うと、芽依は小さく笑った。

「フェンネルさんに聞いてみますね」

「…………頼む」

 気に入ったらしい。



 それから、フェンネルにお煎餅作成の要請が来ていると話すと、300枚の枚数に悲鳴を上げていた。
 可哀想だが可愛くてたまらなかった。
 とりあえず、齧ろうとおもう。
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