美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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攻めるメディトーク(挿絵あり)

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 朝食を終えて少ししてから庭に来た芽依はポカンと口を開いた。
 いつもならまだ庭の手入れをしている筈のメディトークが椅子に座って読書中である。
 無駄にかっこいい椅子に座って読んでいたメディトークは、芽依が来たことに気付いて本から顔を上げた。
 本に指を挟んで閉じたメディトークはゆるりと笑って手招きする。



(挿絵はイメージです)

「おはよう、メイ」

「おはよう……え、なんでこの姿で? 」

 呼ばれたから近付いたら、腕を取られ、スルスルと下がり手を握る。
 ゆるりと笑うメディトークはご機嫌な様子だ。

「いや、たまにはゆっくりするのもいいかと思ってよ。最近庭の手入れや外出なんかで忙しかっただろ?」

「確かに」

「座るか?」

 ぽんと膝を叩いたメディトークに芽依の目が死ぬ。
 何故選択肢が膝の上なのだ。

「椅子は?」
  
「いらねぇだろ? 」  

「いるよね?! 」

 髪が逆立ちそうな気分で言い返すが、メディトークは終始楽しそうだ。
 クッ……と喉の奥で笑うメディトークに呆れたような顔を向けると、腰に腕を回されて引っ張られた。

「あんまりこの姿にならねぇんだ、たまにはゆっくりしてぇだろ。黙って座れよ」

「膝に座ったらゆっくり出来ないと思うぅぅ」

 肩に手をかけてなんとか距離を取ろうとするがビクともしない。
 楽しそうに口の端を上げるメディトークの意地悪な笑みに、目を釣りあげて頭突きをすると、掴んでいた手を離しておでこを撫でた。

「いてぇだろ」

「………………そこは自分のおでこを撫でようよ」

 そう、撫でているのは芽依のおでこである。
 なんで……と力が抜けた瞬間に体を引っ張られて膝の上に座った。

「ハストゥーレが苺のムース作ってたから後で食うか」

「うちの子万能すぎる……」

 どんどんデザートの腕を磨くハストゥーレの満面な笑みを思い出し、頬を両手で抑える。
 さらに、いい顔でお酒ー! と新しく作ったお酒を掲げているフェンネルが容易に頭に浮かんで、さらにペラリと体を揺らした。 
 まるで紙人形になったようにヘニョヘニョしている。

「うちの子尊い……」

「何を考えてるか手に取るようにわかるな」

 笑いながら言うメディトークを見上げると、サラリと髪を揺らして首を傾げた。

「ん? どうした? 」
  
 甘ったるい眼差しに、優しい声色。
 いつからか明らかに変わった芽依を見る眼差しが蕩けるように甘い。
 それは巨大な蟻だからこその感情表現かと思ったら、人型でもかわらない、むしろ砂糖が追加されている。

「………………わたし、あまったるくないからね」

「あ? 」

「蜂蜜を食べる蟻みたいな目をしてる」

「どんな目だよ! 蜂蜜食べる蟻の目をそもそも見たことねぇわ!」

「私もないわ!! 」

 はっ! と目を見開いて言う芽依に脱力して肩に頭を乗せるメディトーク。
 こいつは……と小さく囁いた声が聞こえた。

 少し肌寒くなってきた外気温に、くっつくメディトークの体温は心地よくて、思わず隣にある頭にすり着いた。
 目を見開いたメディトークはチラリと芽依を見るが気付いていないようで、とろりと目を細める芽依を見ていたメディトークは、ギュッ……と抱きしめてきた。

「んっ?! 」

 びっくりして目を見開くと、吐息が耳を掠めて肩を竦めた。

「………………あー、喰いてぇ」

「やめてもらえます?! ぎゃ! 噛んだ!! 」

 耳を甘噛みされて叫ぶ芽依にクッ……と笑うメディトーク。
 この甘い雰囲気を物陰から見守る2つの影。

「よし! もっとだ!! いけいけ!! 」

「フェンネル様! そろそろご主人様にお渡ししてもいいでしょうか!! 」

 腕を振り回して応援するフェンネルに、興奮気味なハストゥーレが前よりも増えたエンゲージリングの雑誌を見せる。
 それを見たフェンネルを真剣に見てから首を横に振った。

「まだだよハス君。メイちゃんきっと構えちゃうから、もう少し堕ちてからにしよう! 」

「わかりました……もう少しですね」

 静かにじっと2人を見るフェンネルとハストゥーレ。
 髪をよせて首筋に顔を埋めているメディトークをワクワクと応援している。
 芽依の様子を見ても嫌悪感は無いと、またいけいけ!と腕を振り回す姿は、メディトークからも見えている。
 イチャついていると見せかけて笑うのを必死に耐えぷるぷると震えているのをフェンネル達は気付けなかった。

「…………え、幻獣の王様……? 」

 休憩中のメディトークに変わって、搾乳した瓶を持つ美女、パピナス。
 浅黒い顔に金髪が眩しい、異国の女性は目を限界まで見開いていた。
 椅子に座り、芽依を抱き込む幻獣の王。
 滅多に姿を表さない彼が、なぜ自分の主を抱きしめているのか混乱している。
 搾乳した瓶を、驚きで落としたパピナスの隣に走り瓶をキャッチするハストゥーレに、フェンネルは小さく拍手する。

 しかし、そんなフェンネル達に目を向ける事も無く、震える体でパピナスは芽依達の元へ走って行った。

「えっ?! 」
  
「どこに行かれるのですか?! 」
  
 止めることが出来ず見送ったフェンネル達も慌てて向かうと、芽依を引っ張り背に隠したパピナスが震えながらメディトークを見ていた。

「げ……幻獣の王よ、彼女は私の主人で移民の民です! どうか、どうか喰べないで頂きたいのです!! 」

 明らかに自分よりも高位の存在で、気分を害すれば一瞬で首と胴が離れるだろう。
 それを理解した上で、パピナスは芽依を守るために行動した。
 フェンネル達は目を見開き、メディトークは楽しそうに笑う。

「……………………お前は俺を知っていて、メイを奪うのか? 」 

「………………お許しください、どうかご主人様を諦めてくださいませ」

「…………それは無理だな、なら、お前はどうする? 」

 芽依の手首を掴む力が強まった。
 静かにパピナスを見ている芽依はにっこりと笑う。

「…………すぐにでも、連れて逃げます」

「逃げ切れるとでも? 」

「私を盾にして、逃げて頂きます」

 ブルブルと震えるパピナスの背中を優しく芽依が撫でた。
 それに困惑しているパピナスは芽依を見ると、優しく笑っていて更に混乱する。

「いいこだね、パピナス」

「…………え? 」

「幻獣の王はメディさんだよ」

「……………………メディトーク……様」

「うん」

「同姓同名、ではなく? 」

「うん。蟻だよ」

 数秒停止。後に起動したパピナスは、青ざめ泣きながらジャンピングスライディング土下座をして地面に額を擦り付けた。
 
「……………………………………はぁぁぁぁ!! 申し訳ありませんんんんん!! 私は、なんて勘違いををを!! どうぞこの身に鞭打ちを!! 罰してくださいご主人様!! 王様!! 」

「落ち着いてーー?! 」

「くっ……緊急時のコイツの対応がわかって良かったじゃねぇか……自分よりも高位だろうが、メイを守ろうとする」

「それは!当然の事でございます!! 」

 ばっ! と顔を上げて言うパピナスに全員が笑った。

「ありがとう、でもね危ないことはしなくていいよ。メディさんみたいな人から守るなんて命がいくつあっても足りない」

「おい」

 指さされたメディトークの目が細まり、頭に拳骨が落ちてきた。
 頭を抑えている芽依を横目にメディトークはパピナスを見る。


「喰うつもりは今はねぇよ。喰うんなら、こいつが堕ちた後だ」  

「………………………………なるほど、理解いたしました」

 にやりと笑うメディトークに、パピナスは晴れやかな笑みを浮かべた。
 痛みに呻く芽依は、この会話を聞いていなく、フェンネルとハストゥーレに慰められヨロヨロとしがみつくだけだった。
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