美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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 人型のメディトークによって朝食を食べ終わった後、庭へと出る時にはメディトークは蟻に戻っていた。
 芽依は目をキラキラさせて背中に乗りひゃー! と喜んでいて、やれやれと苦笑される。

『なんだよ、お前は蟻の方が好きなのか? 』

「どっちも好き!! あぁ……癒される」

『………………お前さ、俺の本体はこっちなんだが、分かってんのか? よくこの姿が好きって言えるよな……なんで蟻で癒されるんだよ』

「何言ってるの? 私が好きになったのは蟻のメディさんだよ? この黒光りツルツルボディ、暑くなってきたから、この冷たさがまたいいよね……暖かい時と冷たい時の差はなに? 」

『………………………………へぇ。好きになった、ねぇ? 随分熱烈だな、そんなにしがみついてきて。なんだ伴侶になるか? 』

「んなーーーーーー!!! 」

 真っ赤になった芽依は背中を叩き続ける。
 ペチペチペチペチペチペチペチペチ
 そんな芽依をクックッと笑うメディトークは満足そうで、そんな2人を雪の下野菜を抱えたフェンネルがにっこり笑って見ていた。

「なにあれ、かーわい」






 午後から芽依は、フェンネルとハストゥーレを連れて街へと出てきた。
 今日は蟻の衝撃を受けたので、3人で街に繰り出してみたのだ。色々落ち着く為だが、気分は高揚しているまま。
 今日の目的は食べ歩きだが、メディトークから芽依の食べる物を事前に指示されている。
 その管理はご主人様自らではなく奴隷2人。
 無類の酒好きと食い意地の張った芽依に全てを任せたら、夜には腹痛で動けなくなっているだろう。
 現に、2人の目を盗んでワインを嗜みフェンネルが眉を寄せている。

「メーイーちゃん!! 勝手に飲んだら駄目! 没収!! 」

「あぁ!! フェンネルさぁーん!! 」

 取られたグラスに入っていたワインはフェンネルによって一気飲みして店先に返した。
 今日は市が開催されていて、闇市ではないのでフェンネル達も参加出来るのだ。
 攫われたりする危険が低い、平和な市の為皆が穏やかに笑って見て回っている。 
 とは言っても、様々な魔術の弊害等はそこかしこにあって。
 ここから逆側の一番端では竜巻が起きている。
 すぐに消えるよ、とフェンネルが言うが、あれは以前セルジオと見たあのパンツなのだろう。
 同一のパンツではないかもしれないが、なんて迷惑なパンツなのだろうか。

「ご主人様、何をお買い求め致しますか?」

「海鮮系が減ったから、あったら欲しいなぁ」

「海老食べたい」

「よーし、見つけたら買おうね」

 フェンネルがお強請りする。海老、以前ハストゥーレもお強請りした海老は人気だ。
 買うしかない。

「ここからここまで全部下さいってやってみたい」

「うん、いいよ」

「………………そんな笑顔で言わないでよフェンネルさん。やらないから」

「え、やっていいのに。いくらでもお金出すのに」

「…………この金銭感覚バグめ」

「えー? 」

 ニコニコ笑って首を傾げるフェンネルは、芋もちのお店を見つけ6パック購入。
 ゼノやサエのお土産も入っている。

「メディさんが蟻の姿でずっといるのはやっぱりバレたくなかったからかなぁ」

「うん、王はあまり畏まったものは好きじゃないよ。跪かせたり、敬語なんかもあまり好まなかったからね。メイちゃんにそうして欲しくなかったのかな」

「アリステア様と契約して私の庭に来てくれてるけど……それはどうなんだろう」

「それは契約で間違いないと思いますが、もしかしたらそれすらもメディトーク様の手の平の上だったのかもしれません」

「たしかに契約と名が付いて庭にいるならメイちゃんのそばにいるのも自然だよね」

 3人は、メディトークの話に矛盾点がありそうな場所を話す。
 ディメンティールとアリステアとの契約は、どちらも芽依の保護でそばに居る時間を1番長くする配置にしている。
 アリステアの契約で庭に。それ以外ではディメンティールでの契約内容でやはり芽依を守る。
 芽依にとってどちらもメディトークが1番近くにいて守られる位置にいるのだ。
 そしてそれだけ親密ならば婚姻してもおかしくない。

「………………じゃあ、メディトーク様の豊穣の祝祭の手伝いは……」

「この流れだとアリステアにメイちゃんの庭の管理と保護をさせる契約を決定させる下準備かなぁ。その為に数年単位で祝祭の手伝いをして信頼を勝ち取った事になるけど……それを考えたら凄いよねぇ」

「…………あ、そうか。忘れてたけどメディさんの種族的なのって、加勢だよね」 

「あーなるほど。人を助ける事に特化した種族か。この系譜は姿が固定されていないから蟻が本体でも可笑しくないんだよね。契約も頼み事だから、メディさんに凄く相性がいい」

「ディメンティール様がメディトーク様に頼んだのも頷けてしまいますね。加勢だからこそ重複する内容の契約を別人から同時に受けられます」

 様々な事がわかり紐解いていく。
 そんな前から、メディトークは芽依の為にこの世界の下地を作ってくれていたのだ。
 最初は契約だけの関係だったのに、今では至れり尽くせり甲斐甲斐しく世話をするメディトークの優しい眼差しは契約だけが理由じゃないのはよくわかる。

「本当に頭が上がらないなぁ」

「今では僕たち皆、メディさんが居ないと駄目だよね」

「………………私はご主人様がいて、フェンネル様とメディトーク様がいて幸せで……今でもこの生活が夢ではないのかと思えてしまう時があります」

 穏やかに微笑むハストゥーレ。
 家族になって見せてくれた笑顔は美しく穏やかだ。
 ふわりと羽が光る。
 羽の周りにふわりと弧を描くように舞う光の粉を見てフェンネルは目を見開いてから嬉しそうに笑った。

「………………どうしよう、ハス君! 嬉しい、どうしよう」

「ご主人様……? 」

「ハス君! 君の羽が光ってるよ!! ほら、綺麗な緑色」 

「え…………あ……」

 驚き後ろを見ると、ふわりと舞う緑の粉が風と一緒にふわりと揺れて消える。
 だが、次から次へとキラキラ現れ普通の妖精と同じように煌めいている。


「なんとこれは珍しい!! 白の奴隷の羽が光っている!! 」

 3人できゃあきゃあ喜んでいると、不躾に話しかけて来た男性。
 明らかに奴隷商人だろう後ろに6人の奴隷を連れている。

「やぁ、私はカリオストの奴隷商人です。是非その白を売ってもらえないかね? 言い値をだそう!! 」

「…………カリオスト? 」

「他国だよ、此処からはかなり遠いから何度か転移してきたんじゃないかな」

「君は移民の民だね。いやぁ、移民の民が奴隷など初めて見るよ。そうか、君が有名な移民の民なのか、貴重な体験ばかりしてしまうなぁ。気分がいい! これは大盤振る舞いしてやりますよ! 」

 そう言ってハストゥーレに手を伸ばすと、フェンネルが直ぐに間に入って守った。

「………………ん? どいてくれないかな? ………………君はまさか、犯罪奴隷? ということは……」

 暑さが酷くなってきた最近、服装はシンプルで薄く動きやしいのを選んでいた。
 その為、首元は開いていて奴隷紋が良く見える。
 穏やかでいて堂々としているフェンネルが奴隷だとは思わなかった商人は真ん丸にした目でフェンネルを見ていた。
 ドラムストでは犯罪奴隷は羽を封じられているのは有名。だからこそ、フェンネルが羽を輝かせていることにも驚いている。

「まさか、君は凄いな。ドラムストの犯罪奴隷は羽が光らない筈なのに……2人を買う為の金はすぐには無理か……なぁ、取り置きをしてくれるかい?  必ず買うから」

 自分が買う事を信じて疑わない商人を冷めた目で見ていた。
 芽依はにっこりと笑う。

「これはあれかな? 戦争かな? 」

「うん、違うよ。落ち着いて」

 奴隷商人が芽依に交渉しているのは人通りの多い場所で芽依を知る人は多い。
 この様子を見ている、特に常連客達は家族へ向ける芽依の重い愛を嫌という程知ってるので相手の奴隷商人を哀れんだ目で見ている。

「とりあえず、先に白を…………」

「はい。うちの子に触らないで、近寄らないでぶっとばすよ。あなたに選択肢を差し上げましょう。大根様で腹を殴りますか? ゴボウ様で尻を叩きますか? 」

「メイちゃん、お上品にお尻って言って」

「お尻を力の限り折れるまで叩き串刺しにしますか? 」

「あ、増えてる」

「串刺し……」

 そっとハストゥーレの手首を掴んだ芽依は自分の大切なものだと分かるように引っ張り抱きしめ、フェンネルを後ろに隠した。
 にっこり笑って口を開く。

「私の大切なものは絶対あげない。2人に触れたら許さないから。本当にこの世界は人を物みたいに簡単に扱うな。ぶっ飛ばしたくなるよね」

 シュン……と大根を出して笑っていると、周りの人たちは奴隷商人のそばに行く。

「あんた、悪いこと言わないからメイちゃんに絡むな! あの子はとてもいい子だけど、あの2人に手を出す人に容赦ないから」

「あの子に手を出すとデカい蟻も出てくるから」

「それだけならいいけど、領主様とその周りも出てくるから! 」

「貴方が言ってる奴隷2人も、普通の奴隷じゃないから手を出したら駄目だよ!」

 早口で捲し立てる周りの人達に芽依は眉を寄せる。

「なんだか私の方が危険人物じゃない」

「ぶふっ」

「あ! フェンネルさん笑った! 酷い! 」

「いやぁ、言い得て妙だなって」

 クスクスと笑う麗しいフェンネルの周りに氷の花が咲くと、奴隷商人は勿論後ろにいる奴隷も目を見開いた。
 今ではまた少しずつ流通し始めた氷花で、希少なものだ。

「…………あれが、奴隷に優しい主人」

 虚ろな眼差しの奴隷がポツリと呟いた。
 既にフェンネルの話は他国にまで広がり、その奴隷の主人となる移民の民、芽依も有名になりつつある。
 なによりも奴隷を家族のように愛して守る慈愛に満ちた主人だと。
 実際は、2人を奪おうとする相手を殴り倒す苛烈な人物だが。

「…………やはり君が花雪なのか。確かに美しい……この手に抱きたいものだ」

 奴隷商人が夢うつつで呟いた瞬間、芽依はギラリと睨みつけ大根を振り上げた。

「おっと! 」

「離して! こいつフェンを邪な目で見た! 今すぐ潰す!! 」

 見られたフェンネルが芽依を止める。
 後ろが抱きしめ、ギリギリと爪を立てて大根を握る手をハストゥーレが上から抑えた。

「………………何をしてるのかな? 」

 苦笑気味に響く声に全員が顔を向けると、オルフェーヴルと数人の騎士達。
 芽依が怒り狂っていて、目の前には奴隷商人の姿。
 賢いオルフェーヴルとその騎士たちはフェンネルとハストゥーレを見てから頷いた。
 なるほど、また家族絡みか、と。

 
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