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揚げ物パーティ
しおりを挟む「……………………ポテト食べたい」
唐突に話した芽依の希望。
お昼休憩にまったりと座っていた時に呟いた言葉に、イケてる蟻が反応を示す。
『ポテト? 』
「うん、フライドポテト」
『芋か? 』
「いも」
それは、さつまいもを作りたくて手当たりしだいに栽培した多量の芋の事だ。
お腹もいっぱいで今? 今食べ物の話? となるが、元の世界では普通に食べていたポテトをこっちに来てからは一切食べていない。
厚切りホクホクもいいし、細長い切ってあるポテトも捨て難い。
食べたいな……と思ったら口からペロリと出てしまっていた。
メディトークは食後だぞ? とは言わず、ポテトか……と悩む。
メディトークもあの芋はどう処理しようか考えていた所だった。
『…………明日にでもするか』
「いいの? 」
『食いてぇんだろ? 』
「………………愛してる」
『安い愛だな』
ハンッと鼻で笑ったが、その頭を撫でる足はとても優しい。
こうして、急遽メディトークが揚げる揚げ物パーティが開始となった。
「あらぁ、野菜がいっぱい……いいのかしら」
「凄い畑……信じらんないですね」
「庭、な」
参加者として芽依の庭に来たメロディアに体調が回復したミチル、そしてユキヒラが話をしている。
いつもの移民の民メンバーに、今回はお昼ご飯もかねてアリステア達も来ていた。
アリステア達の姿に慣れないレニアスは恐縮しているが、ワクワクと銀髪を1本に結んでいるアリステアは揚げたてのポテトを口にして目をキラキラとしていた。
「ホクホクしてるな、美味い」
「美味しいですよね、流石メディさん」
「ピーマンの柔らかく苦味のある味がたまりませんね」
「お前、甘いの好きなのに苦いのも好きなのか」
「セルジオは竹輪の磯辺揚げですか? 」
ポテトだけでなく、色々な野菜や肉を揚げていくメディトーク。
アリステアの隣でポテトを食べていた芽依は箱庭から取り出した処理済みの魚を持ち、揚げてやる! とやる気満々でいたら後ろからハストゥーレに取り上げられた。
「ご主人様、私におまかせ下さい」
「え? 私やるよ。ハス君たまにはゆっくり休んでいっぱい食べて」
「いいえ、私はご主人様に尽くせるのが幸せなので」
「…………なにこの可愛い子」
「え? ちょっと僕は?! 」
「フェンネルさんも可愛いよー!! 」
飲み物を運んできたフェンネルが少し膨れながら言うと、芽依は声を張り上げて返事をした。
ここは相変わらず奴隷と仲が良い。
そんな様子をメロディアが目を細めて見ていた。
「凄いわねぇ、奴隷があんな満面の笑み。主人に甘えるなんてありえない姿だわ」
「あんまり奴隷とか興味なかったけど、そんなに奴隷って扱い悪いんですか? 」
ミチルが不思議そうにメロディアを見ると、頷いて返事を返す。
ここでミチルがレニアスではなくメロディアに聞くあたり、毎日見ているレニアスが如何にポンコツなのかが伺える。
少しずつ他人に聞く事を怖がりながらもし始めたミチルである。
あのシロアリの卵から、レニアスだけでなく心配してくれた移民の民の伴侶であるメロディアやメディトーク達に話しかけるようになってきていた。
その変化に芽依はにっこりするが、話しやすいのかメディトークへの距離感が1番近い事にこっそり気にしていたりする。
『メイ』
「……あー」
差し出された揚げたての肉を口に入れてくれるメディトーク。
下味がしっかりついた唐揚げだ。
美味すぎて頬が落ちそうだと、モグモグしていると、隣に来たミチルが芽依を見てから自分もと口を開けた。
レニアスが目を見開き、メロディアとユキヒラがあらぁ? と眉を跳ね上がる。
そんな様子をアリステア達も見ているが、メディトークは油の中でゆりゆら揺れるあらあげを皿に取りミチルに手渡した。
「…………あら」
『自分で食え』
ポンと出るメディトークの上の字を見てからミチルは笑って頷く。
芽依はモグモグしながら黙って見ていると、芽依の食事の進行を見ながら揚げているメディトークは揚げたての肉を大皿に移して次は手羽中を揚げだした。
ジュワッと良い音をたて、唐揚げとは違う香ばしい香りを漂わせる。
飲み込んだ芽依を見ていたメディトークは、チラリとフェンネルを見ると既に冷やしていた果実水を用意して芽依に渡す準備をしていた。
「はい」
「あ、ありがとう」
ニコッと笑ったフェンネルは、次に動いているハストゥーレの口に無理やり果実水を流し込んでからアリステア達の方に飲み物を運んで行った。
無理やり無言で口に飲み物を入れられたハストゥーレは驚きむせて涙目になり、それを見ていた芽依は無表情で指を交差させてハートマークを作りセルジオに頭を叩かれている。
「痛っ! 」
「苦しがってるのを見て喜ぶな」
「セルジオさん見て! あの涙目でフェンネルさんを目で追うハス君の可愛さ!! 」
「……………………しょうもない主人の奴隷になったもんだな」
「しょうもない?! 」
なんてこと! と叫びそうな芽依を呆れながら見るセルジオ。
アリステアは苦笑して林檎の果実水を飲むと、今までにない爽やかな酸味と甘みのある林檎の味わいがした。
「…………ん? 飲み口がスッキリしているな」
「それメイちゃんの庭の林檎で作ったのだよ」
「メイのですか? とても美味しいですね」
「あ、良かったメイちゃん喜ぶ。今度リンゴ酒作るって張り切ってたよ」
「リンゴ酒ですか、いいですね」
「シャルドネ好き? リンゴ酒」
「ええ、メイさんの林檎でしたら美味しいお酒が出来そうですね」
「間違いないね」
3人で笑っていると、焼き場の方でユキヒラが飲み物を零したらしくメロディアとレニアスの服を汚していた。
平謝りするユキヒラに笑顔のメロディアと困ったようにチラチラとミチルを見るレニアスは大丈夫だと手を振る。
「着替えようにあちらをお使い下さい」
「ちょっ! えぇ?! さっきまで無かったわよね!! しかも待って! あれ、リンデリントの家じゃないの……」
愕然とかつて村長の家だったリンデリント産の家を見るメロディアとレニアス。
その声にアリステア達も反応して凄まじい速さで家を見る。
美しく整えられた家が芽依の庭に佇んでいて、目を見開く。
「………………メイ」
「みんないるから、休憩スペースにいいかなって」
「凄まじい休憩スペースを出すんじゃない!! 」
「あれ? 怒られた……」
「………………恐ろしくて休憩出来そうにありませんね」
珍しく引き攣るシャルドネにあれぇ? と首を傾げる芽依は、いつの間にかメディトークに持たされた手羽中の唐揚げを口にした。
「………………あ、うんま! やば! うんま!! 」
カッ!と目を見開いた芽依は、手羽中をセルジオの口に無理やり入れて食べさせる。
ムグッ! といきなり突っ込まれた肉に眉を寄せながら食べ骨を出したセルジオは、走っていってハストゥーレの口に肉を入れている芽依をジロリと見る。
飲み物だけじゃなく、食べ物も無理やり口に入れられたハストゥーレは目を白黒していた。
喜んでいる! と満足そうに頷いた芽依の隣に揚げ物一時中止したメディトークが行き、呆れながらも肉でベタベタになった芽依の手を濡れたタオルで丁寧に拭いていく。
ついでにハストゥーレの口も拭くメディトークに、大人しく拭かれるハストゥーレ。
相変わらずな芽依達を見たメロディアは笑い、レニアスは信じられないとポカンとしてしまった。
そこには自分の伴侶のミチルもいるのだ。
いつの間にか用意されているお米の上に揚げたてを乗せてミニ天丼を作ったミチルがアリステアに手渡し食べさせている。
美味しさに目を輝かせるアリステアに声を上げて笑うミチルはとても楽しそうだ。
賑やかなその雰囲気をまだ信じられないと見ているが、このパーティは種類を変えて今後も開催されることを知らないレニアスは、次第にその雰囲気になれていき楽しく過ごせるようになるまであまり時間は掛からなかった。
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