美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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大型幻獣の洗浄方法

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 幻獣には様々なタイプがいて、メディトークや蛟のようなツルリとした見た目や鱗に覆われた物、そして1番分かりやすいのがもふもふふわふわとした毛皮の持ち主だろう。
 その種類の、所謂長毛は特に汚れを巻き込みやすく汚れやすい。
 犬猫に姿が似ていたら、ゴロリと体を地面に横たわらせて背中をガスガスとかいたり、ゴロンゴロンと寝返りをしたりもする。

 それだから余計に汚れるのだが、この世界は至る所に魔術が重なり合い作られている為、それは壁だろうが床だろうが様々な場所に滲み浸透している。
 その為、何年何十年……何百年と体を擦り付けている幻獣はその体に様々な魔術を貼り付けている。
 それが重なり合い、相性の悪い魔術も不可抗力で重なるので呪いのようにじわじわと体臭が臭くなるのだ。
 その悪臭は日に日に酷くなり、周りにも影響を与える。
 呪いと同じような効果が現れ、悪臭を吸い込むと幻獣の嬉しくない習性が周りの人間や人外者に現れるのだ。

 すなわち、人外者や人間が体を地面等に擦り付けて悪臭を漂わせるという二次災害が起きるなんとも残念な光景が出来上がるのだ。
 フェンネルが嫌がったのは、悪臭もそうだがそれを嗅ぎすぎて地面に体を擦る自分を想像してだった。

 そうならないように、定期的に幻獣は体を洗わなくてはならないのだが、小型中型は自宅で出来なくは無いが、大型となっては難しい。
 しかも、風呂嫌いが多いのだ。
 しかし放置は絶対に出来ない、昔、どこかの国で洗浄を滞った幻獣が大量にいて国の八割が体を擦り付ける地獄絵図が起きた事があるようだ。
 そんな事がドラムストであってはいけない。

「…………そ、それでこの大きな洗浄機なんだね」
  
「そう、そしてここを囲う魔術は周りに悪臭を流さない為だよ」

『嫌がって悪臭が漂い出してから来るヤツらも多いからな、洗浄機周辺は大体こんな臭いが常にしてる』

「メディさんは大丈夫なの? シャワー、浴びる? 」

『いらねぇ! 風呂くらいひとりで入れるわ! 』

「お……おぉ……失礼しました…………常にここがこんな臭いなら修理中で毎日いる人は大変だね」

 芽依がギャンギャン騒いでいる幻獣と押さえ込んでいるのを見ながら言うと、フェンネルが遠い目をした。

「……メイちゃん、連れてきた付き添い人がひとりで大型洗浄機に入れれない人が多いから、必ずスタッフが5人は駐屯していて、さらに外回りのスタッフが複数人いるんだ」
 
 そんな恐ろしい言葉を聞いて、芽依は恐怖に震えてメディトークの足にしがみついたのだった。




「はい!! 動かないでくださーい!!」

『離して離して離して離して離して』

 大根の桂剥きで体を固定された巨大な狼の隣にゼイゼイと息を吐く付き添いの人。
 キラキラ輝く羽は色あせてヘニョヘニョになっている。

 そんなすぐ隣には、ぐわん!と音を鳴らす真っ白な洗浄機があって、真っ白な洗浄機を覆い隠す程の魔術の形跡が帯状になってぐるぐる巻きになっている。
 芽依達が来てすでに2時間が経過し、待たされている幻獣の恐怖は既に限界突破してる。
数体は逃げていき連れてきた人達は慌てて追いかけていく姿も見られた。  

「ま……まだなのか?」

 大型ではないが、中型に入るには窮屈で更に暴れるからと大型を愛用している人外者が家族の巨大ウサギを押さえつけながら聞いてくる。
 鋭い歯を剥き出しにしてぎゃおん!と叫ぶウサギに、これはウサギじゃない……と震えながら首を横に振った。

「もう少しです!」

「早くしてくれ!!」

 洗浄機からピョコンと顔を出す爽やかな笑みを浮かべている男性の朗らかな返事に叫ぶ人外者。
    その時、悪臭を振りまき逃げる巨大ウサギに別の犬に似た幻獣が体当たりした。
 それによって拘束から逃れたウサギがギ
 ラついた目で洗浄機から逃げようと走り出した時、作業していた男性が汗を拭きながら顔をあげた。

「お待たせしました、終わりましたよー」

 はぁ、と息を吐き出し、持っていたタオルを凄まじい勢いでぶん!と、投げると、ウサギと犬にあたりギャン!と悲鳴を上げて倒れる。
 重さのある幻獣が、ペラペラのタオルに殴り飛ばされる異常事態に目を丸くすると、すぐさま2人の幻獣を鷲掴み洗浄機の方に引き摺ってきた。

 いい笑顔のそのスタッフが手際よく洗浄機の中に嫌がり暴れる幻獣を押し込みボタンを押す。
    その手際は慣れていて迷いがない鮮やかなものだった。

 シャワワワワワワワ……

 四角い洗浄機は窓があり家族が安心出来るように中が見えるようになっているのだが、四方八方からお湯が吹き出て幻獣の体に掛かる姿が見える。
 その後、泡が一斉に幻獣にかかり、現れたブラシが無遠慮に身体中をゴシゴシしてしまう。
 大きなものから小さなものまで様々なブラシで全身を洗うのだが、嫌がり身体をひねって避けてもブラシは追いかけてくる。
 上手に手足を上げさせたり、羽の有る幻獣は羽も広げられるらしい。

 阿鼻叫喚の洗浄機の中でガシガシと洗われ、すすがれていく姿をポカンの見つめた。
 トリートメントもかけられ、最後は乾かすぞと暖かな風が前から後ろにウィンウィンと流れていきペッショリと濡れて半分ほどの体積になっていたのが、乾きふわふわモコモコに変わっていくと、見た目が大きくかわるのだが、その幻獣は子鹿のように足をぷるぷるさせて絶望した眼差しで自分の家族を見つめていた。
    そんな悲しい姿であるが、芽依はこの洗浄機を黙って見つめてしまう。

 ガシガシと洗い、トリートメントをして乾かし綺麗にするその洗浄機は、まさしくガソリンスタンドにある洗車の大きな機械ではないか。

「……わ、わぁ…………」

「あー、やっと終わる」

 家族の男性は息を吐き出して、逆側にある出口に向かっていった。
 恐怖にフルフルしている巨大なウサギは出口で男性を見つけて目を見開き、一目散に走っていって、細い男性にしっかりと乗り上げてしがみついている。
 しおしおとした様子に、おぉう……おぉう……と泣き声が聞こえてきていて、抱えた男性はフローラルな香りがするふわもこのウサギを抱いたまま公園に戻って行った。

 ご褒美のおやつタイムが待っているらしい。

 次にも捕まっている犬な幻獣を乱暴に洗浄機に投げ入れすぐさまボタンを押す。
 起き上がり逃げようとしたが、無常にも目の前で扉が閉まり絶望的な顔をしていて、すぐさまずぶ濡れとなっていた。

 そんな凄まじい様子を見てしまった芽依は青ざめると、洗浄機が動き出したと知った幻獣達がさらに荒ぶりだし、巨大化した蛟に数体一気に巻き付き拘束されたのだった。

「いやぁ、今日は楽だなぁ、ありがとう」

 にこやかに笑うスタッフの人数は5人。
 みんなタオルをぶん投げて逃げる幻獣をシバキ倒し無理やり洗浄機の中に入れられる。
 そうしないと逃げるので、試行錯誤した最終案がこれのようだ。
 これに変わってから洗浄が楽になり連れて来る人達に感謝されているらしい。
 打たれ強い幻獣は、タオルの攻撃に目が回りそのまま連れて行く非常な洗浄機のスタッフには並々ならぬ恨みと恐怖を持っているのだとか。

「ねぇメイちゃん……洗浄員ってね、アリステアが試験をさせて選び抜かれたスベシャリストらしくて…………すっごく強いの」

「…………うん、よく分かった」

「おーい、はぐれ見つけたよー」

 同じTシャツを着て外から引っ張ってきた女性が手を振り、5人のスタッフが、おー!と返事を返す。
 並んでいる1番前に入れられた猫族は、にゃーー!!!と叫び女性を引っ掻くが、女性は笑いながら元気だねーと、自分よりも数倍大きな幻獣を押さえ付けた。
 一人暮らしや、家なしの幻獣は自分から洗浄機には来ないので、街を見回る洗浄員が見付けて引き摺ってくるのだ。
 目撃情報をもらいつつ毎日15~20人程のはぐれ幻獣を見つけてくる優秀な洗浄員達なので、はぐれ幻獣達は洗浄機と幻獣の描かれた黄色いTシャツを着た人物にとても警戒していた。

 その後、壊れていた洗浄機が稼働した事で洗浄出来ずに待っていた、いつもよりも多い幻獣達は、笑顔のスタッフに容赦なく綺麗に洗われ半泣きで帰って行った。
 芽依達は落ち着くまで脱走する幻獣を取り押さえて列に並び、洗浄員に渡すを繰り返す。

 凄まじい洗浄機の様子に芽依達の瞳から光が消えて、怯えて泣く幻獣達を笑顔の洗浄員に渡すという心が死にそうな仕事を夕暮れ時期まで行う事になったのだった。

「お風呂好きはこまめに来るから困らないんだけど、お風呂嫌いはどうしても毎回こうなんだよねー」

 また外から連れてこられた臭う幻獣を押さえつけて笑う洗浄員の凄さに震えながら頷いた芽依は、洗浄機を見る度にこの初めての衝撃を思い出すことになるのだった。
 
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