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採取以外の初依頼
しおりを挟む蛟の出現によりドラムストを守る為に張り巡らされた魔術、更には魔術式が組み込まれている機械全てが壊れ現在復興に目まぐるしく走り回っている。
蛟出現の日に、1番大切なドラムストの外をぐるりと巡らせる外部からの侵入を阻止する魔術の帯を張り巡らせているものと、領主館の周りに同じく張り巡らせている魔術の再興を優先した。
街中にある店や商業施設にもそういった魔術は必ず巡らせていて、その準備や継続、綻びがないかの確認は各自店や商業施設が義務付けられている。
それは勿論芽依達も同じで、不可侵と干渉や視覚に関する魔術が掻き消え、ドーム型に庭を区切っていた魔術が消えて全て丸裸な状態になった。
周りに点在する庭も同じ状態で、全てが見渡せる様子に、フェンネルがすぐさまドーム型の魔術を巡らせて芽依の庭を隠したのだった。
これは流石に庭を持ち運営していたフェンネルは早く、誰よりも先に動きメディトークを驚かせていた。
他の壊された魔術を全てなおし、芽依に施された祝福や守る為の魔術を確認して結び直したメディトーク達は一安心と息を吐き出した。
芽依がきのこの収穫を行い蛟を捕獲してから4日後、年末まであと数日の事だった。
今日も飽きもせず豆泥棒を大根でホームランした芽依の元にセルジオから連絡がくる。
芽依は首を傾げながらもメディトークとフェンネルを連れて領主館に戻りアリステアの元へと向かったのだった。
「どうしたんですか?アリステア様」
そう言う芽依たちの手には大きな木箱が複数乗せられていて、手土産ですと、テーブルにドン!と置いた。
それを見て嬉しそうに笑ったアリステアがわざとらしく咳払いをして誤魔化しながら芽依を見るよ。
「芽依、蛟ときのこの件助かった、ありがとう。それでな」
話し出したのは蛟の爆発的な魔力が広がりドラムスト内の魔術の要を尽く破壊した事についてだ。
領主館や街の守護に関わる魔術の基盤は整えたようだが、街中の魔術はまだ完全には直っていない。
それにより、街中は今大混乱に陥っているようだ。
「……それでだな、メイ達には洗浄機の起動が出来るようになるまでと、稼働後も手を貸して欲しいのだ」
国に保護をされている以上、国やドラムストの緊急時に力を貸す事も契約に結ばれている為アリステアは芽依に食材以外にも頼むことが出来るのだ。
同じく今、芽依以外の移民の民もアリステアの指示で起動に時間の掛かる機械や、その他対応に適している場所へと派遣された。
「え……ちょっと待って、洗浄機ってどこの?」
「………………大型を頼みたい」
「…………うわぁ、さいってい……」
「対応出来る人材が足りないのだ」
眉を寄せて言うアリステアに、メディトークもあまり良い反応はしていない。
芽依は首を傾げて何がそんなに嫌なんだろうと見上げると、青白い顔をしたフェンネルが芽依を見る。
「…………洗浄機って知ってたっけ?」
「ううん、知らないよ」
「…………うん」
各町に複数ある洗浄機。
これはドラムストだけではなく、別の領地や王都、他国にまで普及されている四角い洗浄機である。
大きさは3段階に分かれていて、その中でも大型は1番利用者が多く、1番手がかかる場所だ。
蛟の件で被害があった場所の1つだが、ここは毎日利用者が現れる場所の為、使えない日が何日もあると利用者も周囲も困るものである。
「で、洗浄機って何を洗浄するんです?私たちは何をすればいいんですか?」
「洗浄機はな、幻獣を洗うものなんだ」
「………………は?幻獣?」
「うむ、幻獣だ」
「いや……え?」
メディトークを見ると、俺は使わねぇぞと文字が輝く。
正しく幻獣であるメディトークは遠い目をしながら否定するのを見て芽依はあまりよろしくない物なのだろうかと眉を下げてアリステアを見た。
「や……ヤバいものなんですか?」
「いや! ヤバくはないぞ! これは無くてはならない物だ。幻獣の……特に獣に近い種族は必須なものなのだが、特にそういった幻獣は洗浄機が嫌いな者が多くてな……」
「嫌い……」
「…………暴れるんだ」
手を組み机に肘をついて、真剣な顔で話すアリステアをじっと見ていた芽依だったが、いまいち事の大変さを理解していなかった。
「あれはねぇ、戦いだよね」
はぁ……と息を吐いたフェンネルに芽依は眉を寄せる。
アリステア、メディトーク、フェンネルの微妙な反応に芽依は不安感を煽られると、どうやら誰かが来たようだ。
コンコンコンコン
軽やかなノック音がなり、アリステアが扉を見ると、静かに開いた扉の向こうにはシャルドネが穏やかに微笑んでいた。
「おや、少し遅かったようですね」
「シャルドネか、どうだ?頷いてくれたか?」
「ええ、この通り」
『あー、あの時の子だー』
「え? あー、蛟」
シャルドネの足元から小さくなったままの蛟がにょろにょろと現れて芽依の足元にくる。
そしてその周りをご機嫌に回ったあと、くるりと両足を挟んだまま落ち着いて止まった。
「メイ、あの時保護をしたこの蛟なのだがな、やはり可笑しい派生の仕方をしている為に従来の蛟と違う所が多々あってな。それで、色々調べる為に領主館預かりとなったのだが……その、メイを気に入ってしまってな。側に居たいと言っているのだ」
「あらぁ…………」
足元を見ると、舌をチロチロして左右に揺れている。
にょろりと動き、芽依の体を伝って目の前まで体を伸ばしてきた蛟に目をぱちくりさせると、また頭を左右に揺らした。
『庭してるんでしょ? 私がいたら土のランク上げれるし、色々便利だよ。お買い得だよ』
『…………なんだこのミミズは』
『ミミズじゃないよ、蛟だよ』
『あぁ? 蛟だ? どう見てもミミズだろうが。メイ、変なもん拾ってくんな』
『変じゃないよ、失礼だなぁー。絞め殺すよー? 』
『あぁ? 皮剥ぐぞコラ』
「ちょっ……ちょっと、喧嘩やめて……」
『あ? 誰の味方だお前は』
「味方って……フェンネルさぁーん! 」
「はい! おいで! ぎゅーしてあげる! 」
『やめねぇか! 』
現れた蛟にメディトークの眼差しがキツくなる。
強さで言えば十分なのだが、同じ巨大な幻獣であるからかお互いの眼差しは厳しめだ。
芽依はえー……と呟きアリステアは目を丸くしていた。
穏やかなメディトークがこんな反応をするとは思っていなかったからだった。
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