美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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無茶ぶりな依頼内容

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 問題ばかりだったカナンクルが終わり数日が経過した。
 しんしんと降る雪は今日も止むことは無さそうで、たくさんの人の靴底を付けていく。
 そこにひょっこり顔を出した小さな幻獣が踏み潰されて、仲間が怒り狂い襲いかかる出来事が頻発しているのだが、それもこの時期に良く起こる事なのだ。

「…………あ」

 雪を踏み締めているのとは違う感触に芽依は足を上げられなくなった。
 何か、踏んだ……と動かせない足を見つめると、ニョキニョキと顔を出す細長い何か。
 皆ギザギザの歯をガチン!と鳴らして芽依を見ている所、これは確実に一匹踏み潰したようだ。

「…………す、すみません」

 ギラギラと見るニョロニョロの生物は勿論許してはくれない。
 一斉に飛びかかる親指サイズのニョロニョロに芽依は遠い目をすると、隣にいるシャルドネに持ち上げられた。

「いけませんよ、あっちに行きなさい」

「すみません、不注意で踏み殺してしまいました」

「いえ、足を付けるギリギリに現れやすいので仕方の無い事ですからね」

 ふわりと笑って穏やかな声色で話すシャルドネは朝から爽やかな笑みを浮かべている。
 いつもフワフワとした服を好んで来ているシャルドネだが、流石にしっかりと着込んでいて普段肌が見える程の薄着を好むシャルドネが上下ぴっちりと着込みコートにマフラーと防寒対策がされていて、ビーズの涼やかな音が鳴る髪飾りが外されている。
 緩く結ばれた緑色の長髪は、普段とまるで違う姿に別人にも見えそうだ。

 細い体躯のシャルドネに抱えあげられ、足元でシャーシャーと威嚇する白とピンクのシマシマしたニョロニョロはまさかのミミズらしい。
 この世界のミミズは肉食で、仲間の犠牲を利用して襲いかかりパクッ!とやっちゃうようだ。
 小さな小さなミミズなのに、なんていう獰猛な生き物なのだろうかと、この冬に初めて遭遇した芽依は慄いていた。

「小さな幻獣ですからね、小さな子供なんかは危ないのですが私達は大丈夫ですよ」

「私でもですか?」

「ふふ……メイさんはお一人で外出はしないでしょう?」

「…………まあ、そうですね」

 スカートの裾が汚れると、基本的に冬での徒歩には神輿のような高さのメディトークの背に乗る事が多い。
 メディトークの場合は、沢山ある足で仲間事踏み潰す為一切の被害がなく、フェンネル達は楽だーと笑みを浮かべている。

「それで、森に行けばいいんですよね」

「ええ、メイさんには御足労頂いてしまいますね」

「全然かまいません。久しぶりにシャルドネさんとゆっくりお話出来ますし」

「おや、嬉しい事を言ってくれますね」

 ふわりと笑ったシャルドネに笑い返した。
 今日の2人の行先は、ガヤとシャリダンのすぐ側にある森である。
 獰猛な幻獣が暮らす場所で、薬草や山菜等を取る、又は狩りをするシャリダンの勇ましい住人達以外は森にはいるのに許可が必要な場所。
 浅い場所はあまり危険は無いが中に入れば入る程、自我を失った幻獣が縄張り争いをしている。

 今回シャルドネと共に芽依が来たのには理由がある。 
 領主であるアリステアからの依頼でシャルドネと共に来たのだが、その内容があまり見ない大きな幻獣が暴れている為、調査をして欲しいとの事だった。

 他の幻獣とも衝突していて、森を破壊しかねない暴れ方らしい。
 あのシャリダンのムキムキお爺さんが怪我をしたくらいなのだ。

 芽依はそんな内容の依頼にすぐさま首を横に振ったのだが、幻獣の確認はほぼシャルドネであって、芽依の本当の理由はその幻獣のすぐ近くにある幻のきのこの収穫であった。

「メディさん達はダメなんですか?! 」

『あまり刺激を与えない方がいいからな、今回はシャルドネと行ってくれ』

 微笑むアリステアに絶望して床に崩れた芽依に目を丸くして見ていたアリステア。

「………………わたし、戦えないんですよ。 何かあった場合シャルドネさんの負担になります」

「…………いや、 メイは弱くはないだろう」

「なんとことを言うんですか、か弱い乙女ですよ! 」

「そ……そうだろうか」

 芽依は弱りきったままアリステアに少し声を荒らげるが、自然界に生息する幻のきのこは5ヶ月に1回採取出来る祝福を持つきのこである。
 採取する量も少ない為、採取の時に恩恵のある芽依に取ってきて欲しいのだそうだ。

「…………くっ、なんで私に収穫の時、数が増えて品質向上の素敵な恩恵があるのっ!」

 シャルドネに抱えられながら泣き言を言う芽依に苦笑して目を細めるシャルドネを見つめ返した。

「私はメイさんと森の散歩も楽しいですよ」

「これを素敵な散歩と言い切れるシャルドネさんが素敵すぎて泣きそうですよ! 」

「光栄ですね」

「(……褒めてることになるのかな)」

 こうして、庭持ちへの仕事として依頼された芽依はシャルドネと共に幻のきのこを取りに森の奥へと向かっていくのだった。
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