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まさかの真実に驚愕
しおりを挟むあれから小部屋ではミチルの状態を細かく見ながら卵の孵化を抑え続けていた。
静まり返った室内に次第に聞こえてくる聖歌にフェンネルの口端が持ち上がる。
視線をずらす事はしないが、聖歌が聞こえてきたらあと少しだと集中する。
沢山の声が重なり合う聖歌に、響くベルのとオルガンの音色。
ミサならではの神聖な雰囲気と重なる聖歌によってカナンクルの祝福がキラキラと空気中に現れ出ている。
小部屋にいる人達にも見えていて、緊張と常時魔術を使うメディトーク達の体に降り注ぐキラキラとした粒子。
その祝福を受け、苦しみ呻いていたミチルの荒い息は少し落ち着き息を細く長く吐き出した。
「………………少し落ち着きましたでしょうか」
そんな様子に目を細めてもうすぐ完成する魔術の重なりにより起きる祝福を今か今かと待ちわびている時、大広間がざわつき始めた。
カナンクルでのミサでは起きるはずもない喧騒にメディトークは思わず振り向くと、次第に響く叫び声に立ち上がりそうになった。
「ま……待ってくれ! 離れてしまったらミチルが!!」
「君が伴侶を大切にしているのと同じように、僕達が何よりも大切なのはメイちゃんなんだよ! 」
フェンネルが声を荒げた時、祝福が降り注いだ。
青白い頬に少し赤みが浮かんできたミチルを見たハストゥーレがツタで卵をグルグル巻きにする。
「今なら卵を引きずり出せます、如何いたしますか?」
この卵を出すのは芽依の命令でもある。
ハストゥーレは見えない芽依の現状に憂いながらも、この状態を放置も出来ないと目を彷徨わせる。
「メディさん、行ってきて。メディさんが離れた瞬間に引きづり出す。そうしたらこの移民の民の負担も少ないはずだよ。メイちゃんが心配だからお願い」
『…………わかった、頼む』
頷いた時、パチィィィインと何かの音が鳴り響き、ぐわりと波のように魔術の波動が小部屋を覆った。
3人は目を見開き大広間を見たあと、タイミングを見計らいメディトークがすぐさま離脱した。
メディトークが離れた瞬間、フェンネルの髪がゆらりと動き空気を孕み雪の結晶が煌めきだし、室内に雪の華を咲かせてフェンネルの眼差しは鋭くなった。
3人で抑え、卵を取り出す筈が1人欠けることになる。
それぞれをバランス良く保っていた物が崩れる事で、卵をゆっくり出せた筈が出来なくなったのだ。
ハストゥーレが卵のヒビ割れを抑えミチルの体と卵の様子を見て、フェンネルが卵をじんわりと冷やし鎮静と支配をする。
そして、そのどちらもをサポートして卵を抜き取るメディトークだったのだが、その役割をフェンネルが担う事になったのだ。
メディトークが居なくなった瞬間、サポートが途切れた事で卵の孵化がまた進む。
それを阻止するのに、この場をフェンネル優勢にする為、雪と花、粉の場を作り雪の華を作る。
鈍る卵を確認してハストゥーレが頷くと、フェンネルは更に力を込めて一気にハストゥーレのツタごと、腹部からえぐり出したのだった。
「ミチル!! 大丈夫か? ミチル……ミチル…………」
この時、ハストゥーレは細やかな魔術操作をして腹部から出す一瞬を半透明にして体を傷付けない措置を行っている。
腹部から繋がるツタはまだ内部にも留まっている為、沢山のツタがミチルの腹部の表面からズルリと出ている状態だ。
そのツタの先には、フェンネルの両手から、はみ出すくらいの大きな卵が床に落ちていてザワザワとざわめき動いている。
すぐさまフェンネルが一気に凍りつかせピキリと音を立てて動きを止めた。
寒さに弱いシロアリだ、これで完全に死んだだろう。
真っ白だった卵が薄汚れた茶色に変わり、完全に死んだか確認する為にハストゥーレが中を見ると、顔色を悪くして口元を抑えた。
「ハス君?」
「…………大丈夫です、死んでおります」
ふい……と顔を背けて答えたハストゥーレが見たのは、この卵にぎゅうぎゅう詰めにされた小さなシロアリ達が歯をむき出しにして卵を破ろうとした状態で凍りついていたからだ。
狭い為に押し潰されているシロアリもいて、あと数秒遅かったら卵は孵化してミチルの腹部を食い破り外に飛び出していただろう。
そうなると、多大な被害が出ると同時に移民の民を最初の餌としたこのシロアリ達は強い力を持って生まれている事になる。
泣きわめきぐったりとするミチルを抱きしめるレニアスを横目に凍りついた卵を放置してフェンネルとハストゥーレは小部屋から飛び出し芽依の安否を確認しに行ったのだった。
腕を組み片足に体重をかけて立つ精霊が、芽依を連れていったメディトークを見る。
立ち振る舞いはとても様になっているのに、その格好はパンダのふわもこパジャマなのが残念な所である。
「……………………メディさん」
『怪我はねぇか』
「大丈夫……精霊さんが助けてくれた」
『助ける?アイツがか?』
パジャマ姿でステッキを取り出しくるりと回す精霊は、今更自分の姿に気付いたのか、舌打ちして一瞬で着替えを済ませていた。
白シャツにベージュのネクタイとタイピン、深い紺色の細身のパンツに紐がオシャレな革靴を履いた精霊は、ふわりと羽を動かした。
いつも思っていたが、服を着た状態で羽の付け根はどうなっているのだろうか。
「………………ああ」
小さく肯定した精霊に、メディトークはチラリと後ろを見るとオルフェーヴルはアデリーシュと話をしているのを見て目を細める。
オルフェーヴルはかつてのアデリーシュの伴侶であるが、様々な要因によりアデリーシュだけがシーフォルムに行ったのだ。
険しい顔で話すオルフェーヴルに眉を下げて話すアデリーシュとため息を吐くカゲトラを見てから舌打ちしたい気持を抑えて精霊を見る。
『……そうか、それは助かったが、なんでコイツを助けたんだ? お前にとっては知らねぇ移民の民だろう』
「知らない、ね。そうだったら良かったんだがな」
『なに?…………メイ!!』
「きゃあ!!びっくりした!!」
呆れたように芽依を見る精霊を見たメディトークが、押さえ込んでいる芽依に怒鳴った。
どういう事だ、テメェ!と怒るメディトークにはわはわと慌てて、手をブンブンと振る。
『なんでシュミットを知ってやがる!!』
「いや!あの…………」
「誘いの鈴で俺の家に来たんだよ、2回」
『……なんだと、しかも2回だ?』
「まあ……だからあの時誘いの鈴の事を聞いてきたの?」
ひょこっと顔を出したメロディアに芽依はチラチラとメディトークの様子を見ながら頷いた。
『…………お前な、殺されても文句言えねぇんだぞ』
頭が痛いのか目を強く瞑っているが、芽依を抑える足には更に力が入る。
ぐえ……と圧迫に耐えられない芽依は苦しい声を上げた。
「メディトーク……コイツの貞操観念をもう少し養わせろ。男のベッドに入った状態でしがみついて来たぞ。別の意味で食われ……」
「ぎゃーーーーー!!」
『………………あ?』
あんまりな内容を言い出した精霊、シュミットに叫ぶと、数段低くなったメディトークの声が上から落ちてきた。
「そんな事ないよ! 着地地点はベッドだったけと! しがみついてなんか!」
「ほお……? 自分から手を回して足も絡ませて来たのにか?」
「黙ってよーーー!! 」
半泣き状態で叫んだ芽依に、ゆらりと後ろから現れたフェンネルとハストゥーレが芽依の手を掴む。
「………………どういう事メイちゃん、一緒に寝たってなに? 僕だってまだ寝てないのに!! 」
「寝てない寝てない! そして一緒に寝る約束してないよね? 」
「ご主人様……そちらの精霊に心を差し上げたのですか……? 」
「違うよー! 泣かないでー! 」
別な意味でカオスとなったこの場にシュミットは呆れたような眼差しを向けていたのだった。
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