美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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緊急事態

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 芽依の庭での戦闘では、討伐は出来ずとも撤退をさせることは出来た。 
 前半戦でも数を減らしたが、ミチルが囲まれた時はまだシロアリの数も多いと思っていたのだが、女王から見たら少なかったのだろうか。
 
 あまりにも酷く残酷な仕打ちに芽依はメディトークの足に体を寄せて手を回すと、別の足がゆっくりと体を労わるように支えてくれる。

 どうやら卵を植え付けられたのは囲まれた時に出来た傷かららしく、小さな卵は少量ずつ栄養を奪っていっていたようだ。
 そうしてじっくりと卵を育て、半月前に大きくなった卵は急激に栄養を搾り取り始めた。
 こうなると、苗床となったミチルが干からびるか、育ちきり腹を食い破るかのどちらからしい。
 むしろ、ここまで良く生きていたという状況らしくミチルは今必死にシロアリ孵化に必死で抗っているのだ。

「………………ミ……ミサに出席している場合じゃないんじゃ……?」

 芽依はメディトークを見上げると、首を横に振った。

『いや、むしろミサに出るべきだ。ミサの祝福には穢れや災いを排除する類の物も含まれている』

「よくミサまで頑張れたよね」

 移民の民をよく思わないフェンネルですら関心していて、それ程の苦痛をミチルは半月も耐えた事になる。
 眉をギュッと寄せてミチルに触れようとすると、フェンネルに止められた。

「待ってメイちゃん。体調不良の理由がわかったから、豊穣や成長を促すメイちゃんは触れない方がいいよ。卵が活性化しちゃう」

「そ……そうなんだね……でも、そうしたらどうすれば……ミサが終わるまで時間かかるよね」

『それは何とかなるだろうが……』

 メディトークが言葉を濁し芽依を見る。
 既にヒビが入ってる卵は、いつ孵化してもおかしくないらしい。
 そんな状態でミサに出て、人が多くいる中もし何かあったら大変な事になる。

「………………もし、もし孵化したらミチルさんはどうなるの?」

『…………死ぬな』

 食い破る際にミチルの体は餌となるようで、体の内側は食われるのだとか。
 それは苦痛では優しすぎる表現ではないか。

「そ…………そんな」

「メイちゃん、僕達3人がミサの間付きっきりになるなら、なんとかなるんだよ…………ただ、そうなったらメイちゃんを守れないんだ」

 それはメディトークたちが1番避けなくてはいけない事。
 彼らの1番は芽依であり、何よりも側にいて助けるべきは芽依だと理解している。

 だが、同じくミチルを1番に思うレニアスは、助かる術を知る3人をそのまま逃がす筈がない。
 なにより、ミサに来ている以上、その場で孵化したら全てが台無しになり芽依にも危険が迫る。
 生まれたばかりのシロアリがどんな動きをするのか分からない以上、ミチルをそのままにもしておけないのだ。
    ミサを行なうこの場所だけでなく、ドラムスト、更にはその他の地域にも広がりかねない。

「…………アリステア様に話したらどうかしら、誰か人員をこちらに寄越してくれるんじゃない?」

 メロディアがメディトークに言うと、思案してから頷いた。  
    事は、芽依達だけで判断していい話では無い。
    

『…………そうだな、その方が良さそうだ』 

    すぐさまアリステアへの連絡にレニアスが走り出し、ミチルの体調はハストゥーレが常に見る事になった。
 ギュッと足に力を入れて芽依を抱くメディトークを見上げると、不安そうな芽依の顔を見て、フッと笑ったメディトークが頭を撫でた。

『心配すんな、何とかなる』




 こうして、すぐさまアリステアを呼び寄せ話をする頃には他の移民の民や伴侶たちにミチルの状態が周知された。
 心配よりも、またあのシロアリの脅威が押し寄せるのかと顔を歪ませている人達ばかりで芽依はギリ……と奥歯をかみ締めてしまうのだが、そんな芽依の手をミチルが握る。

「…………ごめ……ね、さん……にんを……かり、て……」

 息も切れ切れに何とか話すミチルの握り返そうとすると、そっとハストゥーレによって手を離された。

「………………大丈夫、大丈夫だからミチルさんは自分の体を心配して」

「…………あり……が……」

 ニコッと無理に笑ったミチルは、ガクンと力が抜けて椅子から落ちそうになりメディトークが抱えて支えた。
 メディトークに寄りかかり話しかけるミチルを心配しながらも、ツキン……と胸が痛み顔を俯かせた。

 一刻の猶予もないのかメディトークに抱えられたミチルは運び出されて芽依はその後ろ姿を見ていると、隣に来たアリステアが芽依を見た。

「…………メイ、すまない。大切なミサの時にあの3人を離してしまって……だが、あの状態のミチルを助ける最適な人材があの3人しかいないのだ」

 眉を寄せて言うアリステアに芽依は悩みに悩んで口を開く。

「あの3人でないといけないんですか?ここにはこんなにも沢山の人や人外者がいるのに……」

「ミチルは移民の民だ。簡単に人選してしまうと、後々面倒になる可能性があるし、なによりセルジオとシャルドネに止められたのだ」

「………………そうなんですね」

「かわりにオルフェーヴルがくる。シーフォルムから何かあったとしても対処するから安心してくれ」

「………………はい、よろしくお願いいたします」

 頭をゆっくりと下げて礼をするが、芽依は3人がいない事に不安と不満が渦巻いていた。
 ミチルの命が危ない、このミサにも危険が迫っている。
 それは分かっているけれど、その対処にメディトーク達3人でないといけないのか。
 芽依の大切な3人以外でも対処は可能ではないのかと、芽依は自分の狭量さにため息が出たのだった。


 芽依を控え室に残してミチルを運ぶメディトーク達は足早に指定された部屋へと向かう。
 そこはミサを行う大広間のすぐ隣で、司祭が休憩に使う小部屋であった。
 もし何かしらが有れば、沢山いる人外者や魔術に長けた人間がすぐ隣にいる。
    更にミサの祝福によってミチルの安定を測るには良い場所のようだ。

 この部屋には専用の裏通路があり、司祭や業界関係者は祭事の際この道を使う。
 それにより、大広間に集まる人達が異変に気付かないようにしているようだ。

 そんな小部屋の椅子にミチルを座らせて、その前にメディトークが座り込む。

「…………大丈夫なんだよな……卵だなんて……そうだ、呪いって」

 メディトークの隣で同じように座り、ミチルを見ながら不安からかずっと喋り続けているレニアス。
 水色の髪を振り乱し、ベビーフェイスは今にも大粒の涙を流し零しそうだ。

「卵の事だよ。周りにバレないように呪いが掛かってる」

「……くそっ」

 眉を寄せてミチルの手を握るレニアスをちらりと一瞥してからため息を吐き出した。
 芽依以外の移民の民は好きでは無い。
 でも、芽依の友人だからこそ手助けした方がいいんだろうな……とハストゥーレを見た。

「……ハス君、君が1番体調の変化に気付きやすいから良く見ていてね」

「かしこまりました」

「あーあ、メイちゃん不安じゃないかな」

『……早く終わらすぞ』

 2人が頷き、レニアスを後ろに下げてフェンネルが座った。
 椅子にぐったりと座るミチルの後ろにハストゥーレが立ち、首筋に両手を当てるとゆっくり目を瞑る。

『……やるぞ』

 片手をそれぞれ握ったメディトークとフェンネルはミチルの表情を見る。
 これは、シロアリが残した侵食の魔術であり呪いである。
 卵の状態の変化を逐一確認し、卵の弱体化と消滅、あるいは取り出す必要があるのだ。
 この時ミチルに直接長時間触れる必要がある為、対処する人外者を見極める必要がある。
 呪いを無効化するかわりに、ミチルを喰う対価を欲しがる人外者が出てくるからだ。

 肌に触れ旨味を味わい力に触れる。
 卵という狂気が無くなり、そばに居るのは位の低い人外者の伴侶だけ。
 繊細な技術を必要とする、この呪いの対処にあたる人外者は必ず高位となる必要があるのだが、セルジオ達はミサから離れられない。
    そしてなにより、状態を見ながら各方面から様々な魔術を重ね合わせる必要があるので、そのバランスを上手く取り、タイミングを測れる関係性を持つものが好ましい。
 
 だから、この対処にはメディトーク達が適任であったのだ。
 芽依に気持ちを傾ける3人だからこそ、おいそれと芽依の友人に手を出すことは無い。

 メディトークとフェンネルはハストゥーレの力を借りて隠された体内を調べる。
 勿論2人だって自力でいくらでも調べる事は出来るが、既に猶予はない。
 調べる事に長けているシャルドネが居たら1番なのだが、ハストゥーレも同じ森の妖精で得意なものだ。
 お互いの得手不得手を補い、既に始まったミサの聖歌を聴きながら体内を探っていった。

 ミサの聖歌が始まり神聖さが増す。
 ふわりと甘やかな香りが充満していくのを感じながら、卵を見つけた二人は眉を寄せながらもその呪いの掛けられた卵を少しずつ剥がしに掛かった。

「うぅ…………!!」

「ミチル!」

 周りから見たら苦しむミチルを取り囲み、首に手を当て両手を握られているように見えるが、3人は卵の状態を見ながら鎮静の魔術を掛け成長を著しく下げつつ、ミチルからの剥離を行っていた。
 あまり刺激を与えないように、孵化しないように細心の注意を払いながら。
 卵を凍らす事も考えたが体内に巣食っている為、無闇に凍らせたらミチルの体内も凍り付く。
 フェンネルは体温調整をしつつ、生命活動が維持できるギリギリまで体温を下げてシロアリの動きを鈍らせた。

 ミサからジワリジワリと流れてくる祝福が体力を削り体温を低下させたミチルの状態を保ってくれる。
 眉を寄せるハストゥーレは小さく口を開き息を吐き出すと、手から力を流して卵のひび割れに這うように鮮やかな色のツタを巻き付かせるとメディトークの顔が渋くなった。

「………………ハストゥーレ」

「申し訳ありません。ですが、卵の孵化が早まっております」

「そ…………そんな!!」

 ひび割れた卵の範囲がグッ……と広まり、それを抑える為に封じの魔術を込めたツタを這わせたようだ。

 体内に侵食され巣食う場合、簡単に切って終わりといかないのが厄介な事だった。
 その巣食う物自体を体から引き剥がさない限り、依代となった人物は助けられない。
 時間の問題となるのだ。

「……無理やりに引き摺り出すには卵がもろすぎるかな、でもこのままだったら孵化しちゃうよ、どうする?」

『…………守護を掛けて強化、そしてミサの祝福が完成したら一気に引きづり出すしかねぇな』

「シロアリに祝福かぁ……まあ、仕方ないか」 
  
  嫌だなぁ……と呟きながら冷やしている力に守護を載せる。
 同様にハストゥーレもツタに守護を乗せて卵の強化を行った。

 メディトークも同じ様に守護を乗せながら残してきた芽依を重い小さく息を吐き出したのだった。



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