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道中での会話
しおりを挟む青の間から転移門を通りペントランの転移門に出た芽依たち。
ふわりと吹く風に目を細め、メディトークの足につかまっていた芽依は揺れたベールを直す。
ふたつの巨大な門に挟まれた場所に出てきた芽依たちは、去年同様に身分を証明する魔術で確認されてからペントランへと足を踏み入れた。
「………………ふぁー」
街中はカナンクル用に飾り立てられ夕暮れに迫る空の鮮やさも相まって美しい景観に息を飲む。
道の端に並ぶ巨大な木、オージンは去年よりも質が良いらしく大ぶりで壮観だ。
華やかに飾り付けられたオージン同士に煌めくチェーンが付けられ、キラキラと輝きぶつかっては星を散らす。
「カナンクルは本当に綺麗」
「夜になるとまた雰囲気が変わるのもいいよね」
後ろを歩くフェンネルの穏やかな声に頷いて、アリステアを先頭に教会まで向かう。
あの優しすぎる領主は今日のミサに合わせて神聖な服に身を包んでいる。
水色の長衣に身を包み、腰紐で結んでいる。
肩から掛けられた布には魔法陣のような刺繍が描かれていて、流れる髪をそのままに風に吹かれてサラサラと揺れていた。
その美しい姿を見る為に、街の人たちはわざわざ雪が降る中、出てきてアリステアを見つめるのだ。
「アリステア様好かれているね」
『あいつほど領民に優しい領主は居ねぇだろうな。穏やかな気質だが、引き締め纏める力もあり緊急時も迅速に対応し自分達より領民を優先する』
「領主だから、領民を大事にするのは普通じゃないの?」
『貴族と同じで長く統治してるとその分使える権力や財は多くなるだろ?そうすりゃよ、周りより自分の富を優先するやつも出てくんだよ。領主になりゃそれなりの寿命がある。アリステアの500年統治だって、周りから見たら長くはねぇよ。だからこそ、感覚は鈍るもんだ。俺たち人外者より人間は強欲で傲慢だからな』
アリステアの500年を果てしなく長いと思っていたが、この世界ではそうでも無く、至って普通のようだ。
だが、アリステアの気質からこのドラムストは年間通して他領や他国よりも穏やかで豊かである。
その為、他からの移住が毎年増えていると言う。
芽依の落ちた先がアリステアが居るドラムストだったのは僥倖だった。
今までの領主たちを見ていてわかるが、この世界は等価交換と契約が強く根を張るからこそ何かがあればそれでどうにかしようと考える節がある。
ギルベルト然り、収穫祭に来てた領主達や他国の賓客然り。
勿論、全てがそうでは無いし、堅実に守り回していく国も有るのだが、それはやはりひと握りだ。
そんな自分勝手に権力を握る可能性の高い領主という役職がある為に、国の息がかかる貴族が領内にいるのだが、優しく良心的なアリステアからしてみれば話の通じない相手と対等に話をしなくてはいけなくて、毎回胃を痛めている。
「………………そっかぁ」
『全部が悪いわけじゃねぇ、等価交換によってどっちにも利益が生じるからな。お前だって、ハストゥーレが来た事に後悔なんかねぇだろ?』
「それはないよ」
『だろ?だから悪いわけじゃねぇんだ。お前が言ったように自分の抱えられる量を見極められるんならな』
「なるほど……ねぇ、そんな領主は変えちゃダメなの?」
『そんな簡単じゃねぇだろ。上が変われば全てが変わる。良くなるかもしれねぇし、悪くなるかもしれねぇ。それに、領主として育てる時間も必要だし、何より沢山の人外者から好かれる人間はそれ程多くはねぇんだ。仕事面にしても力を蓄え寿命を伸ばし健やかな長い統治をする為の人材がみつからねぇ。居たとしても、そいつの気質や性格、向き不向きがあるからな。領主の選定は難しいんだ。性格が悪くても長く良い統治をするヤツもいれば、長くなるほど性格がひねくれるやつもいる。領主になったばかりの心根で統治するヤツのが少ねぇ……その結果がアイツらみたいな領主が出来るってわけだ』
「……不毛だなぁ」
『どこもそんなもんだ。だからお前が来たのがドラムストで良かったんだ、メイ』
「そうだね、メディさんたちにも会えたし。私はそれだけで満足」
ふふ……と笑って見上げ、メディトークを見ると、真っ黒な瞳が少し細めて口端を上げる。
ワサワサと歩く足を器用に動かして芽依を撫で付けたメディトークはふわりと抱き上げて背中に乗せた。
『動きが遅いから少し休め』
「ありがとう」
まだ教会まで距離があるにも関わらずゆっくりと進む道中。
コートを着込んでいるが、ドレスが積もる雪に触れて裾を汚す可能性がある。
メディトークは芽依の足元を確認し、ローヒールであるのも気にしていたのでこれ幸いと背中に乗せて安全を確保したのだった。
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