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販売開始
しおりを挟む『まったく、来たばかりで何してやがる』
「だってー」
あの酒に始まり、行く所行く所に美味しそうなリーグレアがあれば、それは買うだろうと芽依の箱庭には沢山の酒が備蓄されてホクホクする。
「帰ったらみんなで飲もうね」
「……………………なんで僕の腕を掴むのかな」
「え?あらあらあら、無意識」
じゅるり……と涎を垂らしそうになりながらモチモチのフェンネルの腕を思い出す。
甘く美味しいフェンネル、そういえば素面の時は味の違いとかあるのだろうか……と悩み、今度齧りついてみよう、と1人頷くとメディトークから視線が向けられた。
邪な考えがバレたのだろうか。
時間になり芽依のブースに行くと、ブース内を綺麗に片付けている最中であった。
ひとつのブースを2人で使うのだが、まだお相手は来ていないようだ。
「………………あ、次の人ですか?すいません!すぐ退きますので!!」
「大丈夫ですよー」
慌てて片付けをしている様子を見ていると、隣に来た知らない男性と肩がぶつかる。
「まだブース空いてないんすねー」
「…………え」
「まさか去年に続いて同じブースだと思わなかったっすよー!やっぱり運命かな?」
にっ!と笑ってピースをする男性を、んん?と見ると、確かに去年同じブースにいた人だ。
芽依の両肩に手を置いて笑う男性、メイナードに困惑すると、フェンネルが割り込んできてハストゥーレによってメディトークの足の間に押し込められた。
「はい、僕達のメイちゃんに軽々しく触らないように」
「なんすかあんたら!俺はあの子に…………え、あんた犯罪奴隷っすか?」
目を見開くメイナードに、フェンネルはだからなに?と言うが、芽依のイラつきスイッチを連打するメイナード。
「えぇ?!やめてくださいよ、犯罪奴隷とかあぶなっ!!えー、こっちは白?!なんでこんなに振り切った奴隷買ってんの?メイちゃん!!」
「メイちゃん言うな」
目を座らせて言う芽依がチラリと2人をみるが、知らない人に言われても気にしないフェンネルは飄々としているし、ハストゥーレは心配そうに芽依とフェンネルを忙しなく見ている。
「………………うん……とりあえず、うちの子達は最高に可愛い」
『お前なぁ』
明け渡されたブースに入ると、メイナードがずっと話しかけて来て、煩わしくなったメディトークが芽依をヒョイと持ち上げて背中に乗せた。
そしてわざわざ立ち上がり、芽依を離したメディトークは、メイナードに向かって鼻で笑うという素晴らしい煽りをしてから商品を並べ出す。
「くぅーー!!なんすかそれ!!」
「君なんかがメイちゃんに話しかけるなってことだよ」
「あんただって!犯罪奴隷がなんで主人と気軽に話してるんすか!」
「そんなの、メイちゃんが僕の事大好きだからに決まってるでしょ?」
「……………………フェンネル様、ご主人様は私の事も…………」
「うん、メイちゃんはハス君も大好きだよ」
メイナードを放置して2人でフワフワと話だし、もう、かーわい!と頭の中を花畑にしている芽依。
メディトークのツルツルボディを撫で回して、止めろと止められる相変わらずな様子を、1年越しに見たメイナードはギリギリと歯噛みした。
「………………いつの間にか人数が去年の倍の数になってるし、なんなんすかー…………………………なんなんすか?!」
ズラリと並べるクリスマスケーキに、リーグレア。
そして、果物とドライフルーツ。
半分しか使えないからこそ厳選した商品、ケーキとリーグレアだけは忘れてはいけないと、芽依も降りて準備にはいる。
そんなラインナップに目が飛び出そうな程に驚くメイナードは、瑞々しい果物の詰め合わせを見た。
「く…………果物……」
庭への打撃が激しい為に、野菜と同じく不足している果物。
それが芽依のブースの3分の1を締めている。
「メイちゃんこっちにケーキとリーグレア置くよ、栗はどうする?」
『目玉商品だから正面に置いとけ』
「では、こちらに」
それぞれ確認しあい、場所を決めて置いていく4人を呆然と見ているメイナード。
去年と同じくただ驚くしないのだが、そんなメイナードの前を早足で通り過ぎるおば様。
「メイちゃんメイちゃん!!良かった、居たのねぇ 」
「あ、おばさん!カナンクルおめでとう」
「あらまぁ、おめでとう!メイちゃんを見ると何だか元気がでるわ」
ふくよかだった体付きは少しほっそりしていて栄養が足りていないのが一目瞭然だった。
他にも元気の無い客が多いようで芽依は眉を下げる。
「その後お変わりはありませんか?」
「そうさねぇ、領主様がかなり配給をして下さるから思っていたよりも体は大丈夫だけれど、やっぱり好きなものを食べれないのはストレスになるね」
「……そうですよね」
「それよりメイちゃん、これ良いのかい?こんなに果物出して……」
「毎回は無理ですので不定期にはなりますけど、果物販売しますよ。良かったらどうぞー」
果物を手で示しながら、試食用に用意したカップも準備する。中身は魅惑の栗ペーストだ。
「これ、今回の試食で、リーグレアです。栗ペーストになりました」
「………………えぇ?リーグレア?これがかい?」
差し出されたカップを見て首を傾げるおば様は芽依を見ると、満面の笑みで見てきたので、疑う事無く口に入れた。
今更芽依の出す試食に躊躇する人は居ない。
おば様は小さなスプーンを口に入れた瞬間、トロンと目を細めてカップを見た。
「まぁまぁ、何これ……美味しいわ……5つ頂戴!果物の盛り合わせ2つと、ケーキ1つ…………まぁ、リーグレアがまだ2種類あるわね、迷うわ……」
眉を寄せてテーブルを見るおば様の大きな声に誘われて芽依のブースには客が集まり出す。
このおば様は本当に客引きが上手い。
悩みに悩んでリーグレアを1本ずつ買い、あとはドライフルーツでコンプリートだが、不思議そうに見たドライフルーツは買うことなくブースを離れていった。
そこからは客足も増えて用意していたものが飛ぶように売れるのだが、やはりドライフルーツはなかなか手に取られなかった。
「うーん、興味無いかな」
「興味無いっていうか、見た事ない萎びた何かに見えるから……ちょっと避けちゃうかなぁ」
「…………まじか」
まさかの誤算がここに来て発覚されて愕然とした。
初めての失敗かもしれない……と芽依は眉を寄せて沢山並ぶドライフルーツを睨み付けたのだった。
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