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内緒の果物
しおりを挟む珍しくメディトークの自室で1冊の本を見ている芽依。
知らなかったのだが、ズラリと並ぶ庭関係の本が部屋にある本棚にギッシリと並んでいた。
それはもう開かれていないようで、かなり昔から有る物のようだ。
古びてはいるが、管理は行き届いている。
「………………メディさんって、庭についてなんでも知ってるわけじゃなかったんだね」
『俺は元々庭関係を司る幻獣じゃねぇからな』
「どうして庭を作るようになったの?」
『お前…………知ってんだろうが。アリステアとの契約だ』
「いや…………うーん、メディさんって加勢の幻獣なんだよね……だから庭関係の手伝いとして収穫祭の手伝いしてるんでしょ?…………なんで引き受けたのかなって思って」
『……………………まあ、色々あんだよ』
「………………そっか」
少し言いにくそうな雰囲気を感じてそれ以上は聞かなかった。
芽依に会う前は沢山の時間があって色々な人との出会いもあったのだろう。
保護者のようにそばに居てくれるメディトークだって、メディトークの1部に過ぎないのだろうなと分かってはいるのだが、なんとなくモヤモヤしてしまう。
『…………なんだ』
「なんでもない」
座るメディトークの足をグイグイと押して隙間を作り、そこに体を無理矢理入れる芽依。
隙間を開けて入りやすくしてくれると、モゾモゾと入って足にしがみついた。
『…………なんだ甘えた、工場の相談じゃねぇのか』
「相談だよ、なんとなくモヤモヤしただけ!」
『何のモヤモヤだ?』
「……………………私、メディさんの知らない事多いなって思って」
『なんだよ、彼女きどりか?』
クク……と笑ったメディトークに芽依は頬を膨らませる。
そんな頬を器用に撫でると、その足に手を当てた。
「………………なんか、嫌だっただけだよ」
『……………………もう俺も……アイツらと同じようなもんだろ、俺もお前の持ち物みたいなもんだ』
「メディさんが?」
『ああ、だから別に嫌になる事ねぇだろ』
クイッと顎を持ち上げられて頭上にあるメディトークの真っ黒な瞳を見た。
「……メディさんがね、たまに人間の姿になったらいいのになって思っちゃう」
『………………なんで』
「そうしたら、隙間なく抱き締めてくれるのになって……」
硬い甲羅のような体にぶつけるように芽依からしがみつくのではなく、包み込まれるように柔らかな男性の体でギュッと抱き締めて貰えたら幸せだろうなと考えた事は1度や2度ではない。
そんな苦笑して言う芽依を見下ろすメディトークは目を細めて、顔を上げさせた状態のまま近付いていった。
そして耳元で囁くように口を開く。
「…………………………いつかな」
耳を抑えて目を丸くする芽依を、離れたメディトークが見て、また笑った。
「い…………今、今…………しゃべ…………」
『気のせいじゃねぇか?』
口の端を上げて笑うメディトークに、芽依は顔を真っ赤にした。
それほど耳元で聞こえた甘く低すぎない声が芽依好みで、腰が砕ける……とメディトークの足に二つ折りになる様にブラリと引っかかったのだった。
元々予定していた工場の相談、それは果物を加工する工場だった。
野菜にも利用出来る為、是非に欲しかったものだ。
『…………果物を乾燥させてドライフルーツとはな、面白い事を言う』
「元々私たちの所にはあったんだよ。あとね、野菜を乾燥させて備蓄してた」
『野菜を?』
「小さくなるから場所も取らないし、お湯で戻すと量も増えるから。生野菜みたいには使えないけど、栄養も凝縮されてるんだよ。野菜炒めなんかにも使えるし、麺類とか汁物に入れるだけで簡単に食べれるの」
『……………………今回みたいな時用に在宅保管に向いているな』
「うん、普段使いにも勿論出来るから、使いながら貯めていけばいいんじゃないかな。魔術があるから賞味期限なんて関係ないし……」
『しょうみきげん……?』
「あー、うん。そもそも概念が無かった」
こうして芽依の話を聞いて色々試すのは、随分と久しぶりな気がした。
最初の頃に良くしていた2人きりの商品開発を思い出してメディトークは思わず、ふっと笑う。
「……ん?どうしたの?」
『いいや、なんでもねぇよ』
カナンクル当日、販売内容はカナンクル用のケーキとリーグレア。
そして、果物とドライフルーツに絞る事にした芽依達。
カナンクルでの販売は、人数が多いためブースを半分に分けて別の人と利用する事になる。
カナンクルに向けて用意している為、人が殺到するからだ。
野菜は元々売れないにしても、肉類や乳製品もある為カナンクルでよく使われる果物を中心に今回は販売をする事に決めたようだ。
こうして、ドライフルーツもしっかりと準備した芽依は、当日を迎える事になるのだった。
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