美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

文字の大きさ
上 下
225 / 588

美味しいフローズンヨーグルトケーキ

しおりを挟む

 ハストゥーレの不安感はまだ落ち着かない為、細心の注意を払いながら買い出しに出掛けて無事に帰宅。
 そしてさっそくケーキ作りに取り掛かる事にした。

「ご主人様、ヨーグルトケーキを作るのですよね」

「うん、まずは何もしないヨーグルトで作ってみようかな」

 ずらりと並ぶ食材を見てから、芽依は作業を始める。
 エプロンをして手を洗い、いざ!と開始するが、とことん料理スキルを持たない残念さをここでも発揮する。

「…………あ」

 砕いているビスケットが飛び散り、ほぼ床に落下。

「………………ああ」

 溶かしたバターを混ぜ合わせる時に、固まった生地がボールから飛び出す。

「……………………あ!!」

 固めるためのゼラチンを溶かしている時、零してコンロの火を消す。
 ベタベタになるので、慌ててハストゥーレが後片付けをした。

「……………………ご主人様、私が作っても宜しい、ですか?」

「……是非にお願い致します……」

 大人しくヨーグルトを手渡す芽依に、穏やかに微笑んだハストゥーレが頷いた。

「はい、喜んで」

 そうして、芽依が作るよりも何倍も良い手際で言われた通りにヨーグルトケーキを作ってくれるハストゥーレ。
 甘さの分量などは、今はとりあえずこれくらいだろうか?と目分量ではあるが食べられない味にはならないだろう。
 たまたま用事があり立ち寄ったフェンネルにケーキを冷やしてもらい、時短を手に入れた芽依はケーキを切り分けて3人で味見をする事に。

「………………あ、美味しい」

「ごめんね、冷やしすぎたよね。所々シャリシャリしてる」

「フェンネルさん、私のもう少し凍らせてくれるかな?」

「え?凍らせちゃうの?」

「うん………………うん!フローズンケーキ!美味しい!!ほら、あーん」

「………………あ、本当だ。これいいねぇ、溶けたあとは食感が変わってプルンプルン。これはこれでいいかも」

「はい、ハス君もあーん」

「は…………はい」

「………………………………女子力ぅぅぅ」

 芽依の差し出したケーキを食べたハストゥーレは、髪が落ちないように抑えながら小さな口を開き、芽依のフォークに刺さるヨーグルトケーキを食べた。
 目を伏せて、口に手を当てモグモグする姿はまさに美少女かと言う程の女子力の塊だ。
 そんな姿に打ちのめされる、性別女性の芽依は完全に敗北している。

「今回のカナンクルのケーキ?」

「うん。でもこれだけじゃ味気ないよね」

「………………二層にしてはいかがでしょうか?別のお味のヨーグルトケーキを重ねて」

「いいね、輪切りにしたフルーツを間と上に入れたら華やかにならないかな?」

 2人がじっとケーキを眺めながら案を出す。
 ヨーグルトは果物と相性いいしね、とフェンネルが言うと、ハストゥーレも頷いていて。
 顔を突合せて、ヨーグルトケーキのレシピを話し合う2人は、やっぱり私の天使に違いない……と満足そうに何度も頷いた。

 こうして、ヨーグルトケーキの上にイチゴ味のヨーグルトケーキを合わせる事が決まった。
 一番上と、間に様々な輪切りのフルーツを入れ、切り分けると断面が美しい層になる。
 これを3人で試作して、当日までに限定300個を作る事に成功するのだ。

 ちなみに、芽依の大切なもう1人の天使用にはぶどう尽くしのケーキが別に作られていて、特別感が漂っている。
 ハストゥーレは小さく頬を膨らませた後、はっ!としたように戻ったのだが、そのぶどう尽くしのケーキを見る眼差しは可愛らしいハストゥーレなりに必死に険しくしているようで、それがまた可愛いとフェンネルの腰を折る勢いで締め付けておいた。

 販売用はこちらのデザインで決定。
 次に、路地裏に住む方たちへの無料配布の分だ。
 1人あたりホテルのケーキバイキングのような小さなケーキなのだが、その量はかなり多い。
 シロアリによる食糧難で死者は出ているのだが、今回はカシュベルだけでなく、その他の街にも配布する為1年前よりも数が多いのだ。
 ヨーグルトの消費はかなりのものになるが、そのヨーグルトの在庫は箱庭から溢れ備蓄部屋にも並んでいた。
 カテリーデンでの販売頻度がグッと下がったからなのだ。
 
 こうしてアリステアへの差し入れにも最近登場する温かトロトロヨーグルトは、フローズンヨーグルトケーキに変貌してカナンクルケーキとなったのだった。

「やば、美味しすぎてフォーク止まらないんだけど。私フローズン派」

「僕はどっちも好きだなぁ」

「………………私も、フローズン好きです」

「メイちゃんに合わせたでしょ。今合わせたでしょ!!」

「そ、そんな事はありません……」

「顔そらした!」

「違います!」

「……………………仲良しかわゆい。酒5杯はいける」
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

(完結)相談女とお幸せに!(なれるものならの話ですけども。)

ちゃむふー
恋愛
「私は真実の愛に目覚めたんだ!ミレイユ。君は強いから1人で大丈夫だろう?リリアンはミレイユと違って私がいないとダメなんだ。婚約破棄してもらう!!」 完全に自分に酔いしれながらヒーロー気分なこの方は、ヨーデリア侯爵令息のガスパル。私の婚約者だ。 私はミレイユ・ハーブス。伯爵令嬢だ。 この国では、15才から18才まで貴族の令息令嬢は貴族の学園に通う。 あろう事かもうすぐ卒業のこの時期にこんな事を言ってきた。 できればもう少し早く言って欲しかったけれど…。 婚約破棄?大歓迎ですわ。 その真実の愛とやらを貫いてくださいね? でも、ガスパル様。 そのリリアンとやらは、俗に言う相談女らしいですわよ? 果たして本当に幸せになれるのかしら…?? 伯爵令嬢ミレイユ、伯爵令嬢エミール2人の主人公設定です。 学園物を書いた事があまり無いので、 設定が甘い事があるかもしれません…。 ご都合主義とやらでお願いします!!

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

処理中です...