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カナンクルのお酒
しおりを挟む今日も寒さから身体を震わせ体温を上げる。
しかし寒いのは今だけで、庭のチェックや手入れ、収穫が終われば室内作業だ。
今日からはカナンクル用限定ケーキの準備と、カナンクル限定のお酒、リーグレアを作るのだ。
去年のカナンクルではリーグレアの存在を当日まで知らなかった芽依。
その為作る事は出来ず様々なリーグレアを購入するだけで終わってしまった初めてのカナンクルに後悔していたのだ。
今年こそは作ってみせる!
そう意気込んでいたのに、まさかのシロアリ被害で存在を忘れていた芽依は絶望した。
しかし、この世界は芽依を見捨てたりはしなかったのだ。
真っ黒なサワサワ歩く芽依にとって神様に等しい巨大蟻が、巨大な樽を何十個とワインを作る工場に運んでいるのを見たのは3日前。
丁度リーグレアの存在を忘れていたとメディトークに話に行こうとしていた時だった。
「…………それ、何に使うの?」
『あ?リーグレアだろ』
「つ!作れるの?!」
『………………まぁ、今からが作り時だからな』
「なんと!…………まさか通常作る時期がこんなにギリギリだったとは」
うむむ…………と悩みつつ中に入っていくメディトークの後を追いかけた。
邪魔にならない端の方に樽が並んでいて、芽依を手招きする。
どうやら箱庭が使いたいらしく、2人で箱庭を覗き込んだ。
「何使うの?」
『そうだな…………葡萄酒は作るだろう、林檎に蜜柑……苺、お前梨も作ってたのか…………お、栗もあるじゃのぇか』
「栗のお酒?」
『飲んだ事ねぇか。じゃあ今年は栗も使うか』
そうして選んだのは、葡萄、林檎、栗の3種類。
今回はこの3種類を使って3つの酒を作りカナンクルのカテリーデンで販売をするのだ。
勿論野菜の販売は中止だが、その他については禁止されていない。
「…………ねえメディさん」
『なんだ?』
「お野菜販売はだめなんだよね」
『駄目だな』
「……………………果物は?」
『……………………………………言われてないな』
「……………………………………言われてないね」
箱庭を見せると様々な果物が箱にギュウギュウ詰めに描かれいて、下に個数が書いてあるがその数はとても多く、種類別に植えている量も多い。
「………………カナンクル限定で売っても良いと思う?」
『禁止は、されてねぇな』
芽依の提案にメディトークもニヤリと笑う。
「あのさ、メディさん。こんなのってどぉ?」
ボソボソと相談する芽依に耳を傾ける。
ふむふむ……と頷きながら聞くメディトークはニヤリと笑って言った。
『………………お前、そりゃ工場が必要だ』
「……………………そうかぁ」
『ただし、その工場は需要の関係でかなり安い』
ニヤニヤと笑うメディトークに芽依もニヤァ……と笑い、コソコソと頭を突合せたながら話をする。
そして箱庭で芽依の現在の庭の位置を確認して、あれこれと話している2人をフェンネルとハストゥーレが顔を見合わせて首を傾げた。
「…………何を話しているのでしょうか」
「なんだろうねぇ…………なんか、企んでそうな顔してる」
「ご主人様がウキウキした顔をしております」
「うん、ウキウキしてるねぇ……カナンクルも近いしなんかしようとしてるのかな」
フェンネルの言葉にカナンクル……と呟いたハストゥーレをチラリと見る。
カナンクルはハストゥーレが芽依のところに来る事が決定した日だ。
もうあれから1年が経つ。
「…………1年、です」
「ハス君がメイちゃんの所に来てだよね」
「はい」
「僕は、メイちゃんの奴隷になって初めてのカナンクルかぁ…………ねぇハス君。メイちゃん好き?」
「……………………はい」
ポッと頬を染めるハストゥーレにフェンネルが笑う。
この1年、まだ複雑な感情はわからないこともあるが、明確な感情もあるのだ。
芽依への感情は最たるもので、敬愛に似た感情を芽依に向けるハストゥーレはそれだけは何があっても覆されないと確信している。
「じゃあさ………………」
「……………………………………!」
こちらも密談する仲良しな2人に気付いた芽依が、鼻をおさえながらメディトークの真っ黒ボディを高速でバシバシ叩き可愛いアピールしている残念さに、相談していたメディトークのやる気が削がれる現象が発生したのだった。
そして、リーグレアの樽を見つけてから3日が経過した今。
芽依は沢山の樽の前に指定された果物をそのまま敷きつめていた。
そして、氷砂糖と専用の酒を注ぎ、また果物を詰めて氷砂糖を入れて…………
「………………え?梅酒?」
1つの樽が終わった時、思わず呟いてしまった。
梅酒の作り方ではないか。
芽依が隣にいるメディトークを見ると、巨大な樽の蓋を閉めて、蓋の周りをグルリとテープで止める。
そして、リーグレア用と書かれた御札のようなシールを貼り付けて、次の樽を覗き見た。
『こっちにも』
「あ……うん…………これ、作り方……」
『あってるぞ』
「………………うん、メディさんを信じてない訳じゃなくて……」
混乱気味の芽依に、クッ……と笑ったメディトークはシールの山を見せた。
『リーグレアの酒は作り方こそシンプルなもんだがな、造り手の魔力やらその人の持つ祝福、そして手のひらから伝わる温度やら様々な作用が相まって味が変わるんだ。あとは、果物と氷砂糖、酒の配分もな。そしてこれ、リーグレアに変化させる為の魔術が込められた札で樽を閉じる事でリーグレアは完全する』
「…………な、なるほど」
両手を見て頷く芽依は、小さく魔力ないけど……といいながら、次は栗を入れる。
その量はものすごく多くメディトークはピクリと反応する。
ざっかざっかと、雑に入れる芽依をチラリと見てから芽依のだしな……と口を閉ざしたのだが、後に出来た酒は凄まじい出来栄えで全員が目を丸くするのだった。
こうして、ぶどう、林檎、栗の3種類を作った芽依とメディトーク。
最初にメディトークが用意していた樽の量を芽依が無理を言って増やした為一日がかりになったが予定していた量は全て終了して満足そうに並ぶ大量の樽を眺めた。
「これでリーグレアは大丈夫だね。カナンクルが楽しみだな」
『…………瓶詰めが大変だがな』
「売る分以外は後にしたらいいんじゃないの?」
『いや、リーグレアはカナンクルになる前に瓶に詰めないと、カナンクルに飲んでもらえないと思ったリーグレアが………………荒ぶるぞ』
「……………………え」
『樽爆発から始まり、周りにリーグレアをぶちまけ、その匂いに誘われて……』
「待って、わかった。瓶詰めしよう、死ぬ気でしましょう。フェンネルさんとハス君もみんなで、みんなでやりましょう」
『……………………間に合えばいいな』
「そんな目でリーグレアを見るのはよして!!」
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