214 / 585
花嫁の憂鬱
しおりを挟むその出会いは偶然だった。
たまたま壊れたハストゥーレの髪飾りを新調しようかと、カテリーデンに行った帰りの事である。
顔色の悪い女性が前から歩いてきた。
芽依はいち早くその女性に気付き、体調が悪いのかと少し見ているが、ふらついたりなどはしていなく、足取りはしっかりしている。
黒髪がサラリとしていて手入れが行き届いている綺麗で可愛らしい人。
そう、人間だった。
この世界での人間はカテリーデンの常連以外は貴族とのエンカウントが高い。
芽依は心配と同時に少しの警戒をする。
何故か、目を離せないからだ。
それは芽依だけでなく、メディトークやフェンネル、ハストゥーレも同じで思わず目線を向けてしまう。
「………………ふぅ」
小さく息を吐き出した女性は、あんなにしっかり歩いていたのに突然バランスを崩した。
ちょうど隣に来たタイミングだった為、芽依側に倒れ込む女性を思わず支えようと手を伸ばした時だった。
「うん?!」
倒れ込んだ女性を支えきれず、芽依も一緒に地面に倒れた。
「………………えぇ?」
芽依は呆然と自分の膝に体を乗せている女性を見る。
はぁ……と熱い息を吐き出した女性は、ハッと顔を上げて芽依を見た瞬間、さらに顔を青ざめる。
「ご、ごめんなさい!!今……よける、わ……」
地面に手を付き眉を寄せながら体を起こす女性を座ったまた見つめる。
その女性は細身の方で、全身手入れをしているのだろうなとわかるほどに綺麗だった。
しかし、一つだけそんな外見に似合わないものがある。
「……………………重かった」
芽依が思わず呟いた言葉にカッ!と顔を赤くさせる女性。
俯きプルプルと震えている女性を見上げていると、隣に一緒にしゃがんでいたハストゥーレが首を傾げて芽依を見る。
「………………重い、ですか?」
そう繰り返した時、真っ赤な顔の女性は顔を上げて芽依を見た。
うるりと涙目の女性を見て、しまった!なんて不躾な言い方を!とギクリと体を強ばらせた時、またしゃがみ込んだ女性が芽依の手をギュッと握った。
「お…………重いですよね!そうですよね!私……私!!」
急に泣き出した女性に芽依はパッチリと目を見開いて女性を見たのだった。
彼女は、偶然あるものに出会ったのだという。
それは赤く、手足が長い猿だった。
夜道を歩く女性の後ろから突如現れた猿は、女性の背中に乗り上がり、ギャギャギャギャ!!とけたたましく鳴いたのだ。
その猿は女性の顔を覗き込み、くにぃ……と笑って言った。
[なるほどなるほど、体重か。今の貴様の大切なものは体重か。ならばやろう、もっとやろう]
そういやらしく笑いながら猿は話したのだと言う。
何かしたのだろうか、女性は急激な目眩を感じてふらついた時、また高笑いをしながら離れていった。
「………………なに、なんだったの……」
頭に手を当ててフラフラする体を何とか保ちながら帰宅する事にした女性。
そこで、既に体の異変はあったのだ。
何時もよりも体が重くだるいのだ。
その異変が決定的になったのは、帰宅してからだった。
母を見て安堵した女性がふらつき母が支えた時、今の芽依と同じく支えられずに倒れたのだ。
2人は顔を見合せて無言になった。
重い体をなんとか起こしたのだが、女性は顔を青ざめていた。
「………………私、もしかして……重い?」
「………………重いわ」
親子2人で顔を見合せた後、引き攣る顔でリビングへと目を向ける。
「…………うそ……うそうそ……」
「一体何があったの?!何かあったんでしょ?!」
「わからない!……あ…………幻獣……幻獣にあった!ギャギャって笑う 幻獣で…………そうだ、体重がどうのって……」
「幻獣?どんな?!」
「わからないわ!だって、肩に捕まって後ろにいたんだから!」
「わからなかったら、対処の使用が……」
「教会に、行くしかないのかな……」
下唇を噛んで呟いたその女性は大粒の涙を流し瞳に貯める。
女性は、時間がないのだ。
2人はまたリビングへと目を向ける、飾ってあるウエディングドレスを思って情緒不安定になった女性は泣き出したのだった。
「本当に急だったんです。いきなり背後から来て、だから赤い色に長い手足しかわからなかった」
芽依の腕を掴んだまま泣き出すという困った状況にアタフタしつつ、何かありそうだぞ、と話を聞いてみた芽依。
長くなりそうなので、近くで飲み物を飲みながら話そうじゃないかと芽依は極力安心して貰えるように気を付けて笑った。
庭で話を聞こうかとも思ったが、小ぶりだがワサワサと育ち出している庭を見て驚かないはずも無いだろうから、それはさすがにしなかった。
「手足が長い赤いヤツ」
「その幻獣に会ってからいきなり体が重くなったんです…………あの、聞いても良いんでしょうか」
おずおずと、芽依ではなくメディトークやフェンネル、ハストゥーレを見ながら聞く。
カテリーデンに来た事のある女性、マリアージュは勿論芽依を知っていた。
そのそばに居る3人の人外者もだ。
だからこそ、マリアージュは疑いもしないで芽依の後に着いていたのだ。
そんな人外者を引連れた芽依に聞くということは、対価が発生する。
話の内容が大きければ大きい程、その支払いは莫大なものになる為マリアージュはかなり怯えながらも聞いたのだ。
「え?分かるなら理由知った方が良くないですか?出来たら問題解決もしたいですよね」
「メイちゃん違うよ。支払いの話だと思う」
「……………………あ、あぁーあ、なるほど?」
「また忘れてたでしょ。メイちゃんは本当に安く請け負いすぎだし、周りと一緒にしないで僕達をちゃんと大事にして!」
「してるよ、勿論。だからそんな不安そうな顔しないの。ハス君もだよ」
フェンネルの逆隣に座るハストゥーレも眉が下がりしゅんとしている。
犬だったら足の間にしっぽを入れていそうだ。
「まあ、対価は話を聞いてからにしようよ。本当に解決するかもわからないし」
なぜか放っておけない不思議な雰囲気を纏うマリアージュは、ホッ……と笑って数回頷いた。
65
お気に入りに追加
419
あなたにおすすめの小説
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中

聖女転生? だが断る
日村透
恋愛
生まれ変わったら、勝ち逃げ確定の悪役聖女になっていた―――
形ばかりと思っていた聖女召喚の儀式で、本当に異世界の少女が訪れてしまった。
それがきっかけで聖女セレスティーヌは思い出す。
この世界はどうも、前世の母親が書いた恋愛小説の世界ではないか。
しかも自分は、本物の聖女をいじめて陥れる悪役聖女に転生してしまったらしい。
若くして生涯を終えるものの、断罪されることなく悠々自適に暮らし、苦しみのない最期を迎えるのだが……
本当にそうだろうか?
「怪しいですわね。話がうますぎですわ」
何やらあの召喚聖女も怪しい臭いがプンプンする。
セレスティーヌは逃亡を決意した。

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?
まめまめ
恋愛
魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。
大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹!
「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」
(可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)
双子様の父親、大公閣下に相談しても
「子どもたちのことは貴女に任せます。」
と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。
しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?
どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
21時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

嫌われ令嬢は戦地に赴く
りまり
恋愛
家族から疎まれて育ったレイラは家令やメイドにより淑女としてのマナーや一人立ちできるように剣術をならった。
あえて平民として騎士学校に通うようレイラはこの国の王子さまと仲良くなったのだが彼は姉の婚約者だったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる