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狂った夜のダンス
しおりを挟む庭持ちを抱えよう大作戦を決行した男が大失敗をしてから数時間、明るかった空は薄暗くなり始め、ダンスを促す鐘がまた鳴り響く。
芽依もステップが分からないなりに笑顔で踊ったのだが、予想通りニアが相手の時は数回崩れ落ちニアの手によって立たされ、ハストゥーレがギリギリとしていた。
そんなハストゥーレをトロンとした黄色い目が捉えニッコリと笑った時、ハストゥーレはフェンネルに泣き付いていたのをギルベルトが呆然と見ていたなど、珍しい姿も発見されていた。
のちに、ハストゥーレは一体どうしたんだ、何があったんだ。
おかしくなったのか!とアリステアの肩を掴み揺さぶる姿をブランシェットに見られ、混乱の極みに陥っていたようだ。
暗くなるにつれ、子供は母親に手を引かれ帰宅していく人達がチラホラと増えだした。
テーブルに並ぶ料理も数を減らし、宵が近付いてきた。
雲が陰り2つの月が隠れた時、一際大きな鐘の音が複数回響き渡った。
今まで食事や酒を楽しんでいた人達がギラリと目を鋭くさせて腕まくりをする。
決して優雅にダンスを踊るようには見えないだろう。
男性はズボンも捲り上げ、楽しそうに食事を嗜んでいた女性も、長いスカートを器用に足で捌いてみんなでダンスを楽しんだ場所へと向かっていった。
「…………なに?どうしたの?」
「メイちゃん、今からが収穫祭のもうひとつの目玉だよ」
「目玉……?」
「危ないですのでご主人様はこちらにいて下さいね」
「あぶない……」
『…………久々に行ってくるか』
月が隠れて闇が広がり、低く響く鐘が止まった。
ゆったりと掛かっていた曲はテンポを早めて軽快な音を鳴らす。
それに合わせて、今までは2人1組で踊っていたはずなのだが今回は単体で優雅に頭を下げた。
何が始まるのだろうか……と見ていたら、スピードに合わせて優雅に踊り出した。
ん?普通?と思った芽依だが、瞬きの間に一斉に戦闘が開始していたのだ。
軽快に足はステップを踏むのに、それに合わせて手足を動かし近くに来る人間も人外者も関係なく戦っている。
叩かれ蹴られ、殴られ吹き飛ばされ。
それでも笑顔で戦いに挑み続ける人達。
「………………なんでこんなことに?」
「ディメンティールの祝福の1部なんだよ」
困ったように眉を下げて笑いながら教えてくれたフェンネル。
なんでも、ディメンティールは豊穣や収穫、それに付随する天災等の回避に長けてはいたが、戦闘系はからっきしだったという。
周りは力の強い人外者ばかりで戦えない人外者は一人もいない。
そこでディメンティールは思案し妙案だわ!と手を合わせて微笑んだという。
「…………私も強くなりたいわ!……とは言っても難しいのよね。だから、キラキラに戦う姿を見せてくれたら私、さらに祝福を渡してあげるわ」
それにより、収穫祭の夜になると血が騒ぎ弾ける笑みを浮かべながら殴り合う喧嘩祭りに変わっていった。
夜になり月が隠れて、深く響く鐘の音が何度もなると喧嘩祭りの合図になる。
「うらぁぁぁぁ!!」
「お前いつも腹立たしい顔しやがってぇ!」
「よくも私の彼氏を寝取りやがったわねぇ!!」
「食べ物残すんじゃねぇ!!」
「なによ!私が太ったとでも言いたいわけぇ?!」
様々な叫びを響かせながら殴る蹴るの暴行を働くのだが、これはダンスが前提なのだ。
鬼気迫る迫力の中だが、ダンスだからと動きは優雅でステップを踏んでいるからこそ、異様さが拍車をかける。
流れる音楽も素晴らしく、これだけの喧騒にも負けずにしっかり聞こえる割には煩くない。
「……………………な、なるほど…………あ、シャリダンのおじいちゃんおばあちゃん」
軽快にステップを踏むが、手足の動きや体感の強さは群を抜いている。
何か口論になっているようだが、夫婦喧嘩は犬も食わないと言うやつだ。
楽しそうでなによりである。
そして、たくさんの足をワサワサと動かし戦うメディトーク。
勿論魔術は一切無しの肉体を使った戦いなので、メディトークの複数ある足は十分な脅威だろう。
これは祝祭なので、死者は出ないようあまり羽目を外すと場外に吹き飛ばされる仕様となっているので、そこら辺も安心らしい。
「…………どういう締めくくりをするの、これは」
「最後まで残った人に更なる収穫の祝福が貰えるんだよ」
「………………なるほど」
頷いた時、一瞬ネイビーの髪を風になびかせて意地悪そうに笑う見覚えがある顔を見た気がしたが、見間違いのか瞬きの間に消えていった。
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