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祝祭開始
しおりを挟むシャリン……と響く厳かな鈴の音が何重にも重なり広場を包んでいた。
祝詞がその音に重なり重厚感を増す。
広がる魔術の陣が大気中に少しずつ目視されるようになる頃、一瞬辺りは暗くなり辺り一面に蛍のような光が溢れた。
そこから様々な光の線が出てまるでリボンの様に紡いでいくのを目を潤ませながら見つめている芽依に気付いたフェンネルが頭を撫でてくれる。
「凄い……凄いね」
「あれはね、まだ形になっていない豊穣や収穫の祝福をもつ妖精が集まっているんだよ。この祝祭はね、僕達にはとても大切な恩恵なんだけど、あの形のない妖精には力を貯えているんだよ。こうして数百年時が経てば人型に変わってくるんだ…………ああ、もう羽化が近いのもいるね。他よりも大きく輝きが強いのは妖精に変体するんだよ。たぶん今年中か来年には妖精としての体を受け取るんじゃないかな」
「妖精は皆そうなの?」
「下位はそうだよ。でも、上位や最上位になったら元から体を持って生まれるんだ」
「…………色々あるんだね」
「ゆっくり覚えていったら良いんだよ。メイちゃんには時間があるし、僕達が教えていくんだから」
時に都合の良い教え方をしたり、わざと教えない事もあるだろうが、それでもその環境は掛け替えの無いものだ。
リボンのように広がり紡いでいくそれが、全て繋がった時、祭壇に豊穣と収穫の妖精が現れた。
小麦色の豊かな髪を三つ編みに結び、作物の髪飾りをしている、真っ白なワンピースを来た女性は目を瞑り薄く微笑んでいる。
その彼女の隣には、黒いからだを隠すように白い特注ローブを身に付けたメディトークが現れ、芽依はワクワクと胸を踊らせた。
豊穣と収穫の妖精は美しい乙女のようで目を開いたその妖精は祭壇を見てふわりと微笑んだ。
そして、端からチョンチョンと触れていくと、次第に蕩けるような笑みを見せてほぉ……と息を吐く。
野菜や果物達が美味しい証拠らしく、参加している人たち全員がゴクリと喉を鳴らす。
今は野菜が少ないので、生野菜を見るのも久しぶりなのだ。
まだ控えているが、領主館の料理人達は様々なもてなし料理を作っているため喜んでくれることだろう。
声を発することの無いメディトークが口を開け、変わった音を出す。
声ではなく、正しく音と表現するのが1番的確だろう。
そうすると、リボンのように紡がれたそれに魔術の模様が浮かび上がり、豊穣と収穫の祝福を授ける準備が成されたのだった。
「…………凄い」
「あとは、みんな楽しく踊ったりしながら食事をするんだよ。あの魔術はここにある食材や料理に宿るからね、食べたらみんな祝福を授かる。」
「ごはん!」
ギラリと目を鋭くさせて会場を見渡すと、まだ何もないテーブルがあってジリジリとそこに人が集まり出していた。
芽依は食事もそうだが出される酒にギラギラとしていた。
祝祭などにはかなり希少なものも出るのだが、更に豊穣と収穫の祝祭なのである。
惜しげも無く酒が出される可能性あるとセルジオに聞いていた為楽しみにしていたのだ。
「…………メイちゃん、控えめにね?飲みすぎはダメだよ?」
「……………………う?うん。大丈夫大丈夫……」
「………………大丈夫ではなさそうです」
「僕達で見てようね」
2人のご主人様は酒に目がくらみ適当な返事をしている。
酒に対しては信用が薄いご主人様に2人は危機感を覚えているのだった。
そうして祈りに近い祝祭の儀式を終わらせたアリステアはホッと息を吐き出し、近くでソワソワとしている芽依に気づいてふわりと笑った。
「どうした?何か気になるものでもあるか?」
「酒です」
「………………相変わらずだな」
「メイさん、今日は御一緒しても宜しいですか?」
目を細めて微笑む美しい森の妖精であるシャルドネは今日もふわりとした布を幾重にも重ねているのだが、それには差し色の赤や美しい刺繍が施されていていつも以上に華やかだった。
風に揺れてふわりふわりと布をはためかせるシャルドネの足をロックオンした芽依をしっかり見ていたフェンネルとハストゥーレが警戒レベルを上昇させた。
これは箍を外す気満々だ!
「勿論です、ありがとうございました」
「…………メイちゃん、なんの御礼なの、それは」
「え?………………えへへ」
笑って誤魔化した芽依に眉を寄せるフェンネル。その美しさにため息を吐く参加者たち。
邪な眼差しを向けられていることに気付いているが、身分のせいで反論できないフェンネルは我慢するしかないのだが、不意に手を握られて自分よりだいぶ小さな頭を見つめる。
「では、さっそく行きましょう。アリステア様はもう自由時間ですか?一緒に回れます?セルジオさんはどこに行ったんですかねぇ」
ワクワクとアリステアを見る芽依をフェンネルはじっと見ている。
アリステアの苦笑に、芽依は残念な表情を浮かべてた。
ご一緒は難しそうだと眉を下げて笑った芽依のコロコロと変わる表情を眺めていたフェンネルは、不意にこちらを見る芽依の黒い瞳を見た。
「行こうか、フェンネルさん」
「………………そうだね」
キュッと安心させるような手の温かさと微笑みはいつも変わりなく、溢れるくらいに差し出してくれる芽依の愛情であった。
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