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何よりも怖いのは人間である
しおりを挟む野菜の食料供給が途絶えそろそろ2週間が経過する。
前回のシロアリ同様に土ヘの被害が大きいのだが、前回と一番違う所はその他の食料が有る事だ。
ディメンティールが居なくなったその年から数年は、全ての作物や家畜を含めて収穫が激減していた。
そう、ガガディ達の成長等にも著しい問題が現れ肉や魚に至るまで収穫量を下げたのだ。
しかし今回はディメンティールが居なくなってから月日が流れ、その中での生活が根ずいている。
全盛期までには遠く及ばなくても、その収穫量は増え、年間の収穫量にばらつきはあるがなんとか食いつなぐ事は出来ていた。
その為現在も、野菜以外の流通は現状維持をしている。
だがそれも、今の段階はと言える。
様々な要因が重なり合い今が維持されている中、土が無くなることで作物は勿論他にも影響は出る。
後々、肉や魚、乳製品に問題が出ないとも言いきれない状況である。
芽依は籠にぎっしりと並べた野菜を積み重ね、首に巻いていたタオルで汗を拭く。
今までのようにカテリーデンや自動販売機での販売は騒動の種になる為、野菜に関しては個人での売り買いは禁止された。
物価高騰も相まって、製作者に難癖つけたり喧嘩になったり。
殺人や物取りなんかも今後増えるかららしい。
(なんて物騒な世の中なの。この世界に来たばかりの頃、キラキラした美しい世界に感激したけれど……やっぱりどの世界も緊急時は粗悪になってしまうよね……)
食は命に直接関わる重大なもの。
それが無くなれば誰だって荒れるし、争いは起こるものだ。
こんなに瑞々しく新鮮な野菜があるのに、土の改善が進まなく需要と供給が追いつかない。
備蓄部屋のある庭、第2の庭とでも呼ぼう。
そこにはまだまだ潤沢な野菜が育っていて、収穫時期を迎えたものを箱に詰めていた。
それを備蓄部屋へと移動しつつ、在庫チェックをする。
「………………うん、大丈夫」
「メイちゃーん!どこー?」
備蓄庫に入っている芽依を探しに庭からやってきたフェンネル。
今回のことを期に、メディトーク、フェンネルにハストゥーレの第2の庭への通路を開けた芽依。
これにより庭から庭への直通の道が繋がった。
「フェン?どうしたの?」
ひょこっと顔を出すと、フェンネルはふわりと笑った。
「メディさんがお昼だからって呼んでるよ」
「あれ、もうそんな時間?分かったありがとう」
籠自体に重さを軽減する魔術が込められている為、ひとりでの作業も問題なく終了。
土で汚れた服を払ってからフェンネルの元へと向かった。
「おまたせしました」
すでに食卓に座る2人にペコリと頭を下げる芽依。
軽く足を振るメディトークと、ニコニコのハストゥーレの座る食卓には今日も美味しそうな食事が並んでいた。
それを4人で囲む。
以前と変わらないメディトークの絶品な食事である。
それに手を合わせて感謝する芽依。
今の状況だからこそ、感謝もひとしおである。
『向こうの庭はどうだ?』
「変わりないよ。土の量が減ったけど、それに野菜達の変化はないみたい」
『そうか、ならいいな』
土が減ることで成長途中の野菜達に変化があるかの確認もしつつ、メインの庭の再生に務めている芽依たち。
他の庭とは違う広さに多種目の生成をしている為やる事は多いが、最初の頃の様々な肉類や乳製品等に手を出して良かったと思う。
野菜が買えないことで、他のものの買い付け量が増え物価高騰している今、食べ物確保の為血眼になっている人が増えているのだ。
余分に買っていない、所謂芽依たちで言うミニマリストとは聞こえが良いが、明日分すら用意していないような人達はシロアリが居なくなってから1週間で既に危機的状況に陥っている人も少なくないし、路上生活をしている人達は後々最初の犠牲者が出るだろうとアリステアは言っていた。
「………………街は今頃どうなってるのかな」
『さぁな、仏心を出して行くような事はすんなよ』
「………………うん」
庭持ちの人達はアリステアから注意喚起をされていた。
前回でもあったらしい、庭持ちへの直接的な食材提供の頼みを断り争いが多発する。
それもそうだろう、食材を作る場所には食べ物がある。
今日明日の食べ物が無い空腹に悩む人達はどうにか食事をと考えるから。
だからこそ、アリステアはドラムストの備蓄や庭持ち達からの食材提供を頼み、配給を行うことにしたのだ。
各家庭への食材提供が出来れば1番だが、今の段階でそれを行うのは備蓄があっという間に底を着いてしまう。
ある程度の庭の回復と収穫が見込めなければ難しいようだ。
現在芽依の庭の再生速度は、広大な庭のうちの1割もにも満たない範囲を3割ほど再生している状態で、まだまだ野菜を植える状態にはなっていない。
微生物や幻獣を増やしている段階で、新しく生まれた幻獣がひょこりと顔を出してくれるようになってきたらしい。
微生物や幻獣が増えてきた今、このままでいけば、後2週間程で8割程回復の兆しが見えているらしい。
そうなったらまた、別の土を再生させたい所だが、肥料が足りず手が出せるか……といった具合らしいのだ。
「……………………なかなか上手くいかないね」
「いえ、ご主人様……この状況でこの再生スピードはかなり早いのでございます」
「そうなの?」
「たぶん他の庭ではまだまだだと思うよ」
実際にアリステアに報告に来たメロディアとユキヒラの話では、肥料を入れて混ぜてまだ微生物達が生まれず難航しているのだとか。
芽依が混ぜた土の効力はかなり絶大なのだ。
そんな芽依の土をメロディア達に分けるのはどうかと話したら、第2の庭が枯れるし、色々障りが有ると言われた。
どうやら芽依とメディトークが居るからこその回復スピードでもあるらしく、他に土を渡すならかなりの量を渡す必要があるのだとか。
そうしたら、芽依の大切な第2の庭は潰れてしまうだろう。
それでは困るのだ。
それに、庭の土を移植して混ぜるのも簡単な作業ではない。
通常、作物を育てている土を他の土に混ぜ込むのは厳禁なのだ。
「上手くいかないものだね……あ、うんま」
野菜の肉巻きの甘辛ダレ。
口の端にタレつき、メディトークによって拭かれた芽依だったが、柔らかくに込まれた野菜の旨みと根菜のシャキシャキ感に舌鼓を打つ。
「前回、シロアリが来た時も回復までに数ヶ月、飢饉は1年だったか、2年だったかそれ以上か……続いたからね……ディメンティールが居なくなって食の状態が落ち着いた今なら、以前よりは早く飢饉も終わるといいんだけど……」
「前の時も、皆は食べ物が無くて空腹だった?」
「………………うん、まぁねぇ……流石に年単位だと買い付け場所も追いつかないみたいだったから……」
フェンネルは当時、決めた場所から食材を買っていたらしいのだが、大飢饉によって入手困難となった。
その為、自ら未経験の庭に手を出したらしい。
勿論、冬や雪の気質が強い花雪であるフェンネルは庭には不向きである為食べれる食材が収穫出来るようになるまでにはかなりの時間を要したらしいのだが、それが今では頼もしい雪の下野菜を作り続けてくれている。
「とりあえず、現状維持で土の再生を最優先だね」
フェンネルの笑みに頷いて笑う。
今焦っても何もいい事は無いのだから。
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