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ドラムストの土地

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 ドラムストの土地、庭や家庭菜園全てがシロアリの被害を受けた。
 全ての土の栄養が吸い取られ、作物は全滅。
 食料は、収穫が終えた備蓄分のみとなっていた。
 他の領地や、他国から取り寄せも、シロアリの被害にあっている為絶望的な状態だった。

 それは芽依も同じで、カラカラになった砂と化した庭を優しく撫でた。
 この土にもう一度栄養を含ませる為に様々な栄養の含んだ薬液や、肥料を土に馴染ませ少しずつ水と馴染ませていく必要があるようだ。
 
 魔術でも出来るのだが、そうすると何故か不味い作物が出来る。
 1度土を作ると、作り直すことは出来ず、それからの作物はずっと美味しくない物が出来てしまう。
 庭を作る人達は、たとえ大変でも丁寧に手作業で土を作る。


「………………フェンネルさん最高」

「いやぁ、まさかとは思ったけどね。良かったよ」
  
 やはりシロアリは寒さや雪に弱いのだろう。
 栄養たっぷりだが、常に雪が降り庭の土も冷やされているフェンネルの庭の部分は、戦闘で荒らされてはいるが土は今も生き生きとキラキラしていた。
 この雪の下にはまだまだ沢山の野菜達が眠っているのだ。
 土の下にある成長途中の野菜達も全てが駄目になった訳ではなく、フェンネルはホッと息を吐く。

「頑張ったねぇ」

 芽依がひんやりとした土を撫でて言うと、フェンネルは嬉しそうに芽依をみていた。

 これからの大飢饉、フェンネルの雪の下野菜は活躍する事だろう。


 
 芽依は、自分のカラカラになった土を触っていると、隣にどさりと沢山の袋が置かれた。
 それを見てから、持ってきたメディトーク
 を見る。

「肥料?」

『ああ、他からも注文殺到してるから今はこれだけだな。追加購入頼んでるが、時間が掛かるかもしれん』

「そっか、しかたないよね」

 これから肥料が必要になるのは芽依だけではない。
 ドラムストどころか、全国的な肥料不足にもなりそうだ。
 これも、大飢饉になるひとつの要因である。

 芽依は考え込む。
 せめて、普通の栄養ある土が少しでもあれば
 混ぜ込み少しでも回復を早められるらしいのだが、その土がないのだ。
 そこで、芽依は重要なことを思い出した。

「………………あ、備蓄部屋……」
  
 あの、芽依しか知らない広大な土地に広がる庭、今どうなっているのだろうか。
 シロアリから4日、アシュリニアや他の被害の後始末、土の状態を確認などしていてすっかり忘れていたのだ。
  
『備蓄部屋?お前が別に備蓄してる場所か?』

「………………メディさん実は……そこにも庭がある……」

『………………なんだと?』

「さつまいもを作りたくて……庭作ったの……じゃがいもだらけになっちゃったけど……」

『土は!?』

「わからない、まだ見に行ってなくて」

『すぐ行くぞ!』

「は、はい!」

『フェンネル!ハストゥーレ!来い!!』

 遠くで作業中の2人を呼ぶと、顔を突合せてしゃがんでいた2人は同時に顔を上げた。

「どうしたのー?牛乳プリン?」

『それはさっき食っただろーが!芽依の備蓄部屋に行くぞ!!』

「………………そっか、わかった!ハス君立って!」

「はい」

 ふわりと風が吹き、結っていないハストゥーレのサラサラな髪が揺れた。
 それを見て、芽依は自分の髪に触れる。
 シロアリによってざっくりと切られた髪は、眉を寄せたセルジオによって揃えられた為、以前よりだいぶ短い。
 顔の横は耳朶辺りまで切りそろえ、後ろは肩ほどまでの段を作った髪型となっていた。

『どうした?』

「なんでもない。久しぶりに髪が短くなったからまだ慣れないだけだよ」

『………………それも似合うぞ』

「ありがとう」

 メディトークの足に寄りかかってお礼を言い、ハストゥーレの手を掴んで走るフェンネルを見た。

「………………なにあの綺麗な景色。なにあれ本当に男?荒れ果てた庭の筈なのに花が咲いてる幻覚が見える」

『…………幻覚じゃねーな』

「……最近フェンネルさんよく花降らすねぇ」
  

 芽依の備蓄部屋もドラムスト領地内にある。
 通常では、芽依の備蓄部屋にある庭もシロアリが来て栄養を吸い尽くされていたはずなのだ。
 しかし、今芽依たちの前にはワサワサと成長している野菜達がブリブリと実っている。

『………………どうなってんだ』

「土の質がとてもいいね」

 フェンネルが土に触れて言うと、ハストゥーレはキラキラとした眼差しを芽依に向ける。

「流石です、ご主人様」

「ありがとう?…………でも、なんでだろう」

 芽依は不思議そうに首をかしげながら実っているトマトに似たものを1つ収穫して、そのまま食べると甘みと酸味のよく効いた爽やかな味が口いっぱいに広がった。

「…………うん、美味しい」

 瑞々しい野菜はお腹を優しく満たしてくれる。
 この普段実りの良い野菜も、今ではどの庭にも実っていない。
 元々収穫量は多くない現在、通常通りに実って居るのは芽依の備蓄部屋とフェンネルの庭だけだろう。

 この備蓄部屋の様子を見たメディトークはゆっくりと芽依を見る。

『…………なあ、お前ディメンティールに会ったことは無いよな……?』

「え?豊穣と収穫を司る精霊だよね?無いけど」

『……………………だよな』

 目を細めて庭を見ながら呟くメディトークだが、この庭の異常さの答えは出なかった。

「まあ、これだけ広い庭が生きてるのは奇跡だよメイちゃん。この土を少しずつ移動させて向こうの庭の土を活性化させれたら、庭の再生スピードが飛躍的に上がるよ」

『…………それにしても、よくも俺に言わないでけなんな広い庭を作りやがったな……?向こうに無い果樹もあるじゃねーか』

「や、やりだしたら止まらなくなっちゃって」

 えへ、と笑う芽依をメディトークはガシガシと撫で、人の悪い笑みを浮かべた。

『良くやった』

「………………わぁい、ほめられたー……」
 
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