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芽依の武器
しおりを挟むこの頃には戦いによって庭は見る影も無くなっていた。
掘り返され、潰され、踏み躙られた若い野菜達や土。
強い結界に守られているとはいえ工場に不具合が出ているかもしれないし、大事なお酒が割れているかもしれない。
家畜のガガディ達は大丈夫だろうか、つい先日子牛が生まれたばかりなのに、怖がっては居ないだろうか。
そんなことを、芽依は女王蟻の眼前で考えていた。
弔い合戦だとフェンネルに抱えられたままゼノについて女王蟻達を叩きに行った芽依たち。
討伐は無理でも諦めて移動して欲しい。
その一心で、芽依達は力を合わせて戦いに挑んでいた。
もう動けない騎士たちを横目に走るフェンネルに捕まり皆の後ろについて行く芽依。
「僕達はサポートだからね、メイちゃん無理はしないからメイちゃんもしっかり捕まっていてね」
「うん!」
寒さももう感じない空調管理の行き届いた場所で、フェンネルとユキヒラと共に後ろからメディトーク達を見守っている。
ミチルの安全は、あの最強大根様が守っているのでとりあえず大丈夫のようだ。
沢山いた兵隊蟻は吹き飛ばされ凍らされ斬られ潰されと、中々にグロいご様子である。
メディトーク達に、まだ戦える騎士やブランシェット達も合流してなんとかシロアリ駆除に勤しむのだが、腹を庇い続ける女王に決定打を与える事は出来ないでいた。
「………………怪獣大決戦」
「ぶふっ!ちょっ、ヤメテ」
女王蟻に掴みかかり庭から追い出そうとするメディトーク。
足を踏み鳴らす度に、何か足下から光が漏れている。
その姿が真っ黒い蟻なのに神々しい。
さらに、メディトークの背後には複数の魔術陣が浮かんでいて、魔術の重なりから生まれる巨大な剣が現れた。
「ぐるるるるぁぁああああ!!!」
剣がメディトークの足で出された合図に合わせて凄まじい勢いで腹を狙う。
なんとか体を捻り避けた女王蟻は肩に貫通して悲鳴を上げた。
『…………チッ』
「舌打ちするメディさんも素敵だな」
初めて戦うメディトークに、おぉ……と声を上げる。
兵隊蟻達を抑えるのと、女王蟻討伐に二手に分かれているのだが、大きさで決めたのかメディトークはガンガン女王蟻を攻めていた。
複数出来る魔術陣にフェンネルは乾いた笑みを浮かべる。
「フェンネルさん?」
「もう……メディさんって何者なんだろうね、あんな馬鹿みたいなスピードで高位魔術をぽんぽん出すんだもん。中位の幻獣なんて誰も信用しないよ」
「そう言いながらフェンネルさん何してるのさ……」
フェンネルも兵隊蟻から芽依を守り、隊長蟻が来る前に倒し、さらに女王蟻討伐に向かっている他の人外者のサポートをする。
一度に様々なことをするフェンネルも十分規格外である。
そこまでのことをして、にこやかに微笑み首を傾げる美しい花雪にユキヒラはぼぅ……と見てしまい、慌てて首を振る。
そんなこちら側優勢であったシロアリ駆除だったのだが、兵隊蟻が半数以上倒した時だった。
女王蟻がメディトークを凄まじい勢いで吹き飛ばし、ギラリと光る目で周りをぐるりと見た。
メディトークや他の騎士、人外者の攻撃を受け、血を流す女王蟻は子に栄養をやるどころか自分の回復すら追いついていないようなのだ。
フェンネルや、前線にいるハストゥーレも女王蟻の様子をジッと見ていると、女王蟻の視線が芽依を見て、そしてユキヒラで止まる。
ピクンと反応し芽依はユキヒラを見ると、長い足がシュルシュルと伸びユキヒラを捕える。
同時に出せる大根の数は1つだけで、それは今ミチルの横に用心棒の様に佇んでいる。
「ユキヒラさん!」
フェンネルの腕の中から手を伸ばす芽依。
隣にはメロディアがいるのだが、隊長蟻の妨害により体が硬直しているようで身動きが取れないようだ。
「っ!」
視線を必死に動かし、女王蟻の手がユキヒラを捉える瞬間を、メロディアは目を見開き見ている。
動けない、こんな絶望的な状況で伴侶を助けるために駆けつける事すら出来ないなんて……と泣き叫ぶ事も出来ないメロディアは見開いた眼差しでユキヒラが連れて行かれるのを見送るしかなかった。
「ぐっ!離れ……ない!」
鷲掴みされ身動きが取れないユキヒラは何とか手で足を押し返すのだが、鋭い足が上から振り下ろされるのを見た瞬間力が抜けた。
………………ああ、死ぬ……………………
「ユキヒラさん!!」
「ギャァァァあああ!!」
諦めかけたユキヒラの頬をかすめて何かが飛んできた。
その何かが振り下ろされたシロアリの足を吹き飛ばす。
死を覚悟したユキヒラは青ざめた顔で吹き飛ばした足を呆然と見つめた。
「…………な、なに……」
「ぐるるるるるああぁぁぁああ!!」
足を吹き飛ばされ多大なダメージを与えられたシロアリは、ギラリと芽依を睨みつける。
自分に攻撃を仕掛けて来た事で女王蟻に、スイッチが入ったのだ。
フェンネルは芽依を抱えて羽を広げ低空飛行し、ハストゥーレが急ぎ後方に下がる。
その瞬間、ユキヒラは芽依目掛けて投げ飛ばされた。
投げる瞬間力が入り肋がボキ……と音がなりユキヒラの眉が寄せられ呻き声を上げると、芽依の前に待機していたハストゥーレに支えられ受け止められる。
痛みに顔を歪めながら受け止めてくれた、ほぼ関わりの無い白の奴隷であるハストゥーレを見ると、ふわりと頬にハストゥーレの髪が撫でていった。
「あ……ありがとう……」
「後ろにお下がりください」
芽依が渡した髪留めがはじけ飛んで緑の髪が風に揺れる。
その流れる髪を見ていると、その髪の合間から手を伸ばして走るメロディアが居てユキヒラはホッと息を吐き出した。
「っ…………危ないのはわかるけど、だめだよ!攻撃なんてしたらこっちが標的になるじゃない!しかもあれ……なに?!」
「ご………………ごぼう?…………うわぁ!」
しなる女王蟻の攻撃を必死に避けるフェンネルだったが、また女王蟻の叫びに残る兵隊蟻と隊長蟻が一斉に芽依とフェンネルを攻撃する。
ハストゥーレが走りより、ブランシェットも外から攻撃、騎士たちも応戦の為走る。
そこには吹き飛ばされたメディトークもいるのだが、ほんの少しだけ、間に合わなかった。
「っ…………メイちゃ…………メイちゃん!!」
「フェン!!」
一斉にきた隊長蟻によって脇腹を貫通され血塗れになったフェンネル。
血で手が滑りやすくなっていた時、別の隊長蟻が芽依をフェンネルから引きずり出したのだ。
そのまま連れて行かれ女王蟻に渡された芽依。
真っ白な巨体と目が合い、不気味な目がニタリと笑う。
ポコリ、ポコリと腹が動きぐにぃ……と横に伸びた。
ザワザワと体に虫がいるような不快感、あの封筒の奥から見た目が、目の前に居る。
そんな女王蟻を見ながら、何故かガガディの子供や工場など、庭関連の考えが次々に浮かんだ。
現実逃避だろうか。
女王蟻の足が芽依を捉え、口を大きく開いた。
ユキヒラも感じた死が芽依にも襲いかかり、ギリ……と唇を噛む。
ニアの時にも感じた死を再び体感する。
(………………蟻の栄養補給にされるなんて)
『メイ!』
かなり後ろからメディトークが黒く細い糸を何本も何十本も出して今まさに芽依を飲み込もうとした口を閉じるようにぐるりと巻く。
長く感じていたが、一瞬の出来事だったのだろう、すぐ後ろから声が聞こえた。
「メディ……さ……」
『っ…………はぁ、間に合ったか』
芽依を掴む女王蟻の足を切り落としたメディトークが芽依を支えた瞬間、ギロリと真っ黒な瞳が2人を見た。
芽依はビクリと体を揺らした時、メディトークの足が1本弾け飛んだ。
目の前で、足が吹き飛び血が飛び散った。
それを芽依は目の前で見た。
なんの予兆も無く、弾け飛んだのだ。
脇腹を抉られたフェンネル。
喰われそうになったユキヒラ。
兵隊蟻や隊長蟻に囲まれたミチル。
喰われたチサメ。
前線に居た時片腕を怪我していたハストゥーレ。
そして、吹き飛ばされ今は目の前で足が吹き飛んだメディトーク。
沢山の移民の民がこの蟻に喰われていった。
目の前が真っ赤に染まる。
「っ!!この蟻!!」
また来る鋭い女王蟻の足が目の前に飛び出てきたのをメディトークが芽依の頭を掴みずらす。
そのおかげで頭を貫通しなかったが、頬を深く貫き髪がばさりと切れ落ちた。
ハラハラと落ちた髪と頬に出来た怪我に、メディトークが舌打ちした瞬間だった、それが現れたのは。
「…………………………よくもやってくれたな」
大根に続き2回目のごぼうが現れた。
先が尖ったごぼうがギュルギュルと音を立てて回転しているのだ。
たまにしなり、ブルンブルンと暴れている。
『………………なんだこれは』
「ごぼう様」
『なんでギュルギュル回転してるごぼうから植物の蔓がうにょうにょしてんだよ……』
「奇跡のごぼう様だから……?」
『……………………お前の野菜可笑しいだろ』
この妙に好戦的なごぼうを見た女王蟻はジリ……と後ろに下がった。
それを見た芽依は女王蟻を指さす。
「ごぼう様、よろしくお願い致します!」
ギュルギュルしているごぼう様のごぼうタイムが開始されました。
あまりにも残忍な様子ですので、ここはごぼう様無双が起きたことをお知らせ致します。
応援ありがとうございます!
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