136 / 588
狂った妖精の辿った歴史
しおりを挟む過去の事。
冬牡丹に軟禁されているチエミは、どうにかこの庭から出てフェンネルに会いたかった。
しかし、冬牡丹から魂や力を半分貰っているチエミが今更逃げたとしても直ぐに居場所がバレてしまう。
どうしよう、そう悩んでいた時、他国から領主館に来た人物に目を付けた。
その人はチエミと同じ移民の民で、闇堕ちはしていないながら現状を良しとしていない男性だった。
伴侶の人外者の女性は宝石の妖精で、様々な力を含んだ宝石を生み出せる。
国の為に、国や建物を外敵や敵国から守るための魔術の基盤に使われる宝石を産むのだが、それを国に差し出すのをよく思っていなかったのだ。
男性は守銭奴で自分の金になるものを渡したくなかった。
それを止めるにも、保護して貰っている為一定の宝石は差し出さなくてはいけないの、と女性に諭される。
プライドの高い男性はそれもまた気に入らなかった。
宝石の妖精から貰った力で彼自身の力では無いのに、自分の力と勘違いしたのだ。
そして男性、誠とチエミが出会いある話し合いをひっそりと行われたのだ。
「………………お互いの伴侶を殺してこの街から出よう。生活費は宝石があるから問題ない。俺は、自分の金を無償でなんかやりたくないからな」
「私はフェンネルさんに会いたい。結婚したいの。それにはソユーズが邪魔」
こうして目的の違う2人は手を組み、戦闘向けでは無い宝石の妖精を殺し完全に力を継承した誠は、チエミの庭に行き2人がかりでソユーズを殺したのだった。
ソユーズは血を吐き、地面に崩れ落ちながらも泣きながらチエミに手を伸ばした。
そんなソユーズを見下ろしていたチエミは笑った。
「やっと、やっとフェンネルさんに会えるのね」
その言葉にソユーズは力無く見上げていた目をカッ!と見開いた。
「ふぇん……ね……る……?」
「貴方が来るなって言ったから、フェンネルさんに会えなくなった!全部全部!あなたのせいよ!貴方が悪いのよ!!」
「ぐぅ……!!がはっ!!」
そう言って持ち上げた足をソユーズの腹部にドスン!と振り下ろした。
血反吐を吐きながらチエミを見上げると、そこには愛したチエミの歪んだ顔。
「………………こ……な……………………に…………ふぇん……………………ごめ…………」
瞳にあった光がどんどん失っていき、力無く手が地面に落ちた。
その瞬間、ソユーズの体から煙が立ち上がりチエミの体に吸い込まれていく。
「………………力が溢れてくる」
「死んだって事だな…………これでどこにでも行けるが……少し身を隠した方がいい」
「なんで」
「友好国とはいえ、別の国で国を支える宝石を作る人外者が死んだんだ。あいつあれでも重要ポジションのヤツだからな。戦争になりかねないから」
「はぁ!?なんでそんな人外者が来てたのよ!」
「知らねぇよ!魔術基盤の宝石をどうの言ってたけど興味ねぇ!!」
「もう!やっと会えると思ったのに!!」
こうして凶行に及んだ2人は夜のうちにこの街を出たのだ。
離れた場所ではあるが、この街にいたフェンネルはピクンと反応する。
両手を出すと、フェンネルの司る花雪が牡丹の形を作り出した。
「………………ソユーズ?」
[…………こんな、チエミがこんなヤツだったなんて…………嫌な事言って遠ざけてごめん…………フェンネル…………本当にごめん。大好きだったよ]
そう冬牡丹から溢れてくる言葉と気持ちにフェンネルはすぐさま立ち上がり転移をして庭に直接入ってきた。
そこには雪の降り積もる中倒れるソユーズの姿。
血塗れになって既に事切れているソユーズは今でも涙を流していて、その場にチエミの姿はない。
「………………なんで……どうして……どうして!!」
ぐしゃりと腹部が潰されたソユーズの体を抱きしめたフェンネルは周りの雪とフェンネルの白さ、そしてソユーズの血液の赤しか周りには無かったのだった。
この時、美しさと優しさで出来たフェンネルが壊れた。
庭中に咲き誇る雪で出来た花が、この地の記憶を吸い上げ2人がソユーズに何をしたのか分かったからだ。
「………………僕のせいだったの?あの移民の民がソユーズを殺したのは…………あんなに大切にされていて何が気に入らないって言うの?大事に大事にされていたのに、そんなソユーズより僕が好きだって?………………あは…………あはははは!!移民の民なんか、みんな死ねばいいのに!!ソユーズを殺す移民の民なんかいらない!!そんなヤツ世界中から消えればいいんだ!!………………僕を好きになるやつなんかいらない………………僕なんか、いらない………………」
泣きながら笑って言ったフェンネルは庭の中を吹雪に変えて、荒れ狂う中笑い続けていた。
そして、吹雪が止みソユーズの体が無くなった頃フェンネルの姿は花雪の妖精から粉雪の妖精に変わっていた。
狂った妖精……人外者が陥るのは2種類。
ひとつは狂気に飲まれて自身を崩壊し、殺戮を繰り返す狂った妖精になる事。
そしてもう1つは、目的のある狂った妖精は平常心を保つ為に一時的な仮の姿に変体する。
それが、フェンネルでいえば粉雪の妖精であった。
チエミを移民の民を殺すという目的の為、謝ったソユーズを忘れたくない為にフェンネルは煌めかしい、好きでは無い外見を粉になるまで崩したのだ。
こうして、自我を保てる粉雪の妖精が生まれた。
狂った妖精を体内に押さえ込み、定期的にくる移民の民を殺したい衝動に晒されながらフェンネルが探し求めていたのは2人だけ。
直接ソユーズを殺したチエミとマコト。
ソイツらだけは、絶対に許さない。
こうして心を壊し、狂った妖精は隠れた2人の移民の民を探した。
時に抗えない殺人衝動に身を任せ花雪に戻り街や村を半壊、または全壊にしながら。
まさか、この500年の間に2人の間に子供が出来、その子が妻を迎え子を宿しているなど知らずに。
フェンネルが半壊させた街に、その子供一家とマコトとチエミが住んでいてフェンネルによってチエミ以外が殺されていることも知らずに。
だが、今のフェンネルにはそんな事関係ないのだ。
見つけた冬牡丹を殺した移民の民を殺す。
ただ、それだけなのだ。
「貴方は私の子供も孫も殺したけれど、それでも私は!貴方が好きなの!なんでフェンネルさんが街に来たあの時出かけていたのかと悔やんだくらいなんだから!愛してるのよ!フェンネルさん!!あんなヤツよりずっと!」
「…………胸糞悪い、口を開けないでくれるかな」
「沢山殺した貴方を愛してあげられるのは私だけよ!!貴方と一緒になりたいからソユーズを殺したんだから!」
「………………口を……開けるな!ソユーズを殺したお前が!あの……優しい冬牡丹を……ただお前を愛して大事に守っていただけの冬牡丹を…………お前達は……!」
ガシャン!と長テーブルを剣で切るフェンネルをメディトークは顔を歪めて見ていた。
『…………完全に狂ってるヤツは救いようがねぇけどよ……半分狂って他種族に変体するくらい心にしこりがある奴ァ……優しいやつって決まってんだ……狂った心をよ、こう……無理やり変えた体の中に押し入れて守って、その衝動を必死に受け止めるのは完全に狂っちまった方がすっと楽だろうよ……』
痛々しげにフェンネルを見るメディトークの言葉に芽依は涙が止まらなかった。
嫌いだったのだ。
移民の民が、フェンネルは心底嫌いでたまらなかったのだ。
大切に守られる移民の民の甘やかされているはずの生活に不満を言った芽依を、きっと殺したい程憎らしかったのではないか。
それでも、花雪の苛立つ気持ちを押さえつけ何かを見極めるようにフェンネルは芽依を見続けたのだろう。
様々な状況の時、この移民の民はどんな反応をしてどんな態度をするのだろうと。
「君は、冬牡丹の伴侶?」
その質問は花雪のタガを外すと同時に移民の民の答えを探る言葉だった。
67
お気に入りに追加
474
あなたにおすすめの小説
出ていけ、と言ったのは貴方の方です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
あるところに、小さな領地を治める男爵家がいた。彼は良き領主として領民たちから慕われていた。しかし、唯一の跡継ぎ息子はどうしようもない放蕩家であり彼の悩みの種だった。そこで彼は息子を更生させるべく、1人の女性を送りつけるのだったが――
※コメディ要素あり
短編です。あっさり目に終わります
他サイトでも投稿中

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる