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1月の暫定食

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 雲ひとつない空に浮かび上がる巨大な気球。
 それに表示されている文書を芽依は見上げていた。

 野菜の場所をさらに増やし庭を拡大中の芽依。
 果樹園も作って、いまはぶどうだけでなく沢山の果物や木の実が植えられているのだが、まだどれも収穫には至らない。

 メディトークとの交渉の結果、果樹園の充実と野菜畑の拡大。
 さらには各種肉の増量をして、ドラムスト領の備蓄を増やすことにした。
 更に、芽依の問題点である箱庭の時間は緩く経過していて備蓄には向いていない。
 その為、シャルドネが管理するドラムストの備蓄場所と同じ施設を突貫工事ではあるが作ってもらう事になった。

 この件は、アリステアとセルジオ、ブランシェットを交えて話し合いドラムストとは別の備蓄を用意する事で有事の際に食料の3分の1の放出を約束する変わりに場所と建物を提供された。

 庭と同じくらいの敷地に、巨大な倉庫を5棟用意してくれた。
 足りない場合は、実費での準備となるのだが場所は果てしなく広く通常と作りが違う為様々な使い方が出来る。
 それこそ、庭が狭くなった時に第2の庭とても利用可能と聞き、芽依の顔はにやぁぁぁと笑みを作ってアリステアをビクリと怯えさせた。

 基本的にこの備蓄場所については芽依のみの管轄となり、メディトークですらノータッチとなる。
 それは、芽依が強く望んだことなのだが、メディトークは最後まで芽依を怪しみ何をしようとしているのかと、探りを入れている程で、それはセルジオも一緒だった。
 ジットリとした眼差しで芽依を見るセルジオが夜部屋に押し入りコンコンと詰め寄られたのだが芽依は何かを言うことは無かった。

 こうして箱庭を圧迫していた芽依は備蓄倉庫に移動する事で新鮮な状態の食料を維持できるようになったのだが、芽依はこの出費でまた惣菜工場から少し遠ざかった。

「……………………今回は茄子と豚肉かぁ、在庫何個だったかなぁ」

 箱庭には備蓄倉庫や、その敷地の管理も出来る。
 全ての茄子の数を数えてふむふむと頷いた。

『茄子か、数は足りそうか?』

「あ、メディさん……普通に販売なら問題ないけど……あと周りのお店が茄子販売どんな感じかだよね……豚肉も……作っている人がどれくらい販売出来るかだよね」

『量的にはあるが、ドラムスト領全体となるとかなりの量だな』

 1月の暫定食。
 今回は茄子と豚肉の味噌炒めである。
 食材だけを指定される場合もあれば、料理名の場合もある。
 この料理名の時は使う食材が増える為、準備に手間が増えるのだ。

 芽依が独自に備蓄を考えたのはこの暫定食の件もあった。
 食材が足りずに炊き出しなどで対応する場合もあるが、食べる量が足りずに呪いを受ける人も居て。
 更にはその弊害で領主館で働く人が呪いを受け、1ヶ月室内の温度管理が壊滅したのは記憶に新しい。

 そんな事をなるべく阻止する為に芽依は作る量を増やしたのだ。
 ただ、限度を知らない芽依のやり方は楽しいが故に止まらず数が凄いことになりやすい。

 今は野菜を芽依、果樹園をハストゥーレ、肉類をメディトーク、そして加工品関係は3人で一緒にと決めた為、各自の手伝いや報告はあるが基本的に1人での作業である。

『豚肉はストックもかなりの数が増えたし、新しく入荷分を3倍にしてるからまあ、大丈夫だろう』

「じゃあ、茄子も何とか揃いそうだし暫定食までの1週間でもっと数増やして売り出した方がいいね。自動販売機も茄子と豚肉強化週間にしよう」

「………………ご主人様、あのこれ……」

「なぁに?ハス君」

 小皿に乗せられた紫色のソース。
 それを渡され、指先に着けて舐めると、爽やかな甘さや複雑な旨みが口に拡がった。
 目を見開きメディトークに小皿を差し出すと、巨大すぎる足では取れないメディトークはそのまま舐めとった。

『………………うめぇ、ぶどうベースか』

「はい、他にもみかんや林檎などのペーストを混ぜ味を整えています……どうでしょうか、料理やヨーグルトソースとして使えますでしょうか」

「あれ、林檎とかまだ出来てないよね?」

「はい……この間のカテリーデンの時に購入しまして……」

「え!?ハス君のお金で!?これは経費になります。ハス君、これは私達皆で作るものの1つだから買ったら庭からの経費です!お値段は如何程しましたか?」

「あ……申し訳ありません……ですが、お給料が貯まってしまいます……」

「っっ……貯めていいんだよ……自分の為に使っていいんだよ……」

 12月、1月と給料を渡したが使い道が無いと困惑しているハストゥーレ。
 最近になり自己主張が出てきて、今回の様にソースを作ったりと試作品を出してきたハストゥーレに2人は喜んでいた。

 だが、自分の為に何かをするのはまだ早すぎるようだ。

『ハストゥーレ、それはまだ量はあるか?』

「はい、あります」

『なら、茄子と豚肉の味噌煮の試作に使うか。美味かったからいけんじゃねーか』

「そのうち量産して販売も出来そうだね」

 ひとつの問題に3人で取り掛かる、それが芽依達のやり方だ。
 ハストゥーレは自分の出来る範囲での仕事内容で成果を出せて嬉しかったようだ。
 フワフワとお花が周りに飛ぶ幻覚すら見せる笑みを撒き散らし、芽依は鼻を抑える。
 女子に有るまじき鼻血を出した芽依は、携帯しているティッシュですかさず鼻につめ、涎を拭う。

「ぐふ……危ない、最近鼻の粘膜弱いわ……」

 サッとマスクをして呟く芽依をメディトークはヒョイと抱えあげ物理的にハストゥーレから距離を置く。

「あっ!フワフワなハス君が遠くなる!」

「ご主人様…………」

 ああ……と2人で手を伸ばし合うが、メディトークは容赦なく芽依を抱えたままノシノシと歩き出した。向かう先は厨房である。


「…………うん、広くなったよね」

『3人になったしなぁ』

 メディトークとハストゥーレが住む家の台所は、人数も増え試食品作りにも使うので、つい最近リフォームをしたばかりだ。
 家庭の少し大きめキッチンから業務用の厨房へと変化していて、あまり使わない芽依は見る度にため息を吐いてしまう。

 メディトークとハストゥーレは慣れたものでエプロンをして料理開始した。
 豚肉や茄子、その他調味料にぶどうベースのペーストソース。
 たっぷりの油に1口大に切った茄子を揚げて、別のフライパンではハストゥーレが米油を使って焼いていく。
 焼きすぎない程度で皿に寄せてフライパンを洗う手際の良さに惚れ惚れとしつつ、後ろのダイニングテーブルで座る芽依は呟いた。

「ハス君は良いお嫁さんになるねぇ」

 恥じ入って顔をあからめる予想をしていたが、ハストゥーレは青ざめ芽依を見た。

「…………す、捨てないで……下さい」

「え……捨てないよ?」

『いやお前……嫁に出すって他人にやる事だろ』

「まさかの誤解だ」

 プルプルしているハストゥーレの背中に抱き着きギュッ!とした。

「ごめんね軽率だったよ、大丈夫、君はうちの子だからね。私のだからどこにもやったりしないよ」

「はい、はい……ハストゥーレはご主人様のものです」

「………………なんか、危ないなぁ……私が」

『お前、フェンネルやシャルドネみたいに噛み付くなよ……?』

「シラフでしないよ!」

 ジュージューと揚げた茄子と肉を合わせて合わせ調味料とぶどうベースのペーストソースを絡める。
 味見をしつつ、調整してメディトークは芽依の口の中に冷ました茄子を放り込んだ。
 その次と、ハストゥーレにも口に入れると、口元を抑えてハフハフと食べている。猫舌のようだ。

「ん………………んま、じゅわとろ……」

「…………………………美味しいです」

『いいな、果物の甘さがあるから甘味料を入れなくても十分だ』

「あら、砂糖なし?」

『ああ、甘さたりねぇか?』

「十分………………カテリーデン販売したいなぁ」

『…………当日限定の暫定食用でなら数量限定で用意するぞ』

 まだ一週間あるからな……と計算して言うメディトークにハストゥーレもぶどうベースのペーストソースの残量を計算しだした。
 量が足りないから、追加で制作が必要みたいで買い出ししないと……とこちらも計算中である。


 こうして、久々にまったりと3人での時間を過ごした芽依。
 暫定食までの1週間は茄子と豚肉を増やし販売しつつ、暫定食当日限定で作成した那須と豚肉の味噌煮は一瞬で完売となった。
 
 芽依達からの初めての惣菜販売、しかも暫定食用である。
 限定30食は出した瞬間まるで暴動のように常連客の奪い合いが始まった。
 涙目の芽依は震えながらメディトークとハストゥーレの後ろで、隙間から覗き込むようにその様子を見たのだった。

「………………軽率に売りつけてごめんなさい、私が悪かったです…………」
 



 
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