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箱庭の中の人

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 突如として光が飛び散り芽依に当たった瞬間風と共に芽依の存在が掻き消えた。
 しゃがみこみ片手を伸ばしたままのハストゥーレが呆然とご主人様……?と呼ぶが返事は勿論ない。

「何をしました!?」

「きゃあぁ!痛い!!やめて!!」
 
 シャルドネがミカの腕をひねり上げ背中に向けると、痛みに悲鳴を上げた。

「あの方を何処にやったのです!!」

「わ、わかんないわよ!!いなくなれって願って魔術を使っただけだもん!知らないよ!」

「位置指定もしないなんて……なんてことを……ハストゥーレ君、アリステアとセルジオを呼んできて下さい!!」

「は……はい……!」

 涙が無意識に流れていた事にようやく気付いたハストゥーレは涙を脱ぐって来た道を走り出した。
 フワフワと足に絡みつく服が今は邪魔だ。
 眉を寄せ、足に絡みつく服をたくしあげて走り、広間の扉を音を立てて開けた。

「………………ハストゥーレ?どうしたのだ、そんなに慌てて。メイはどうした?」

「はぁはぁ……アリステアさま……ご主人様が、消えました……シャルドネ様にアリステア様とセルジオ様を……呼びに行くように、と……」

「なんだと!?」

「なにがあった?」

 セルジオが早歩きでハストゥーレの前に行くと、泣きながら話すハストゥーレは胸が張り裂けそうになりながら答えた。

「ミカ様が……位置指定なしの追尾型転移魔術を使いました!」

 それを聞いた瞬間セルジオは走り出し、アリステアもそれに続く。
 ハストゥーレも走り出し芽依が消えた場所に向かった。

「………………ミカが?」

 アウローラはポツリと言葉を漏らし下唇をかみ締めたが、すぐにミカと合流するためアリステアを追いかけた。

「なんて愚かな行為をするの……ミカ」




「どこかわからないか?」

「位置指定がされていませんから検討もつきません。せめて範囲指定だけでもされていたら良かったのですが」

「緊急事態だ、ブランシェットも呼ぼう」

「メディトークにも知らせる必要があるな。庭に来るよう伝えてくれ」

「ああ、わかった」

 3人が話し、ブランシェットにも伝える必要が有ると判断したアリステアはすぐに踵を返して走り出した。
 3人から少し離れた場所では手を握りしめるハストゥーレが涙に濡れていて、小さくごめんなさいご主人様……と呟いている。

「…………ミカ」

「アウローラ!!腕を後ろにひねられたから肩が痛いの!治して!」

 泣き腫らした真っ赤な顔で言うが、表情を険しくさせたアウローラは小さく首を横に振った。

「…………え、なんでよ……私痛いんだよ!?」

「貴方は何をしたかわかってないの?」

「し…………知らないわよ!!」

 目を逸らして言うが、その言葉尻は弱い。
 衝動的に魔術を試行したようだが、シャルドネに叱られアリステアやセルジオも集まり話しているのを聞いて、不味いことをしたと今更ながらに自覚したのだ。
 それを突かれてミカは顔を背ける。

「今までのように笑って許せるものではありませんよ!!」

「な、なによ!なんでも言うこと聞くって言ったじゃん!」

「物には限度があります!それに、貴方が約束を守っていてくれるなら、出来る範囲で叶えますと言ったのよ!履き違えてはなりません!!」

 声を荒らげる事の無かったアウローラにミカは肩を跳ねさせた。

「…………な、なによ……私はただ……格好良い彼氏が欲しかっただけよ。そりゃ暴走してセルジオ様に迷惑掛けちゃったりしたけど……そんなに怒んなくたって……」

「位置指定の無い無理な転移をさせるのは、紛争地域に行く事も教会内部に行く事だって可能性があると言う事です!命の保証が出来ないのですよ!」
 
「…………し、しぬ?ってこと?」

「その可能性があるという事です!貴方は子供です。ですが、善し悪しはわかる歳でしょう?」

 アウローラの言葉を聞くミカは不安で仕方ないといった表情でアウローラを見あげた。

「おい、アイツの庭に行く。お前達も来い」

「い……いや」

「貴方は今回の首謀者です。拒否権などありませんよ」

 シャルドネはミカの腕を強く握り無理やり引っ張りながら歩き出した。
  
「や、痛い!セルジオさま!セルジオさまぁ!!」

 芽依が消えた瞬間押さえつけられた恐怖が残っているのだろう。
 シャルドネを酷く怖がるミカをチラリと見たセルジオはすぐに視線を逸らしてハストゥーレの腕を掴み歩き出した。

「…………アイツを助ける為に突き飛ばしたんだってな」

「も……申し訳ございません。ご主人様に怪我をさせてしまったかもしれません。それでも、助けることが出来ませんでした」

「……いや、手を尽くしたことに批判したいんじゃない。ちゃんと主人としてアイツを守ろうとしたんだ」

 動かなさそうなハストゥーレを連れていく為にセルジオが腕を掴んだのだ。
 自責の念に責められるハストゥーレは今までにない後悔を感じていた。



 芽依の庭についたセルジオ達に、元旦からダラダラせず庭作業をしていたメディトーク。
 モコモコの藍色のマフラーと、2本の足を残した蟻用のショートブーツを履いて保温している。、
 ハラハラと雪が降りメディトークの真っ黒な頭に雪が積もっている。

『……ん?わざわざ元旦から来たのか?挨拶見てたぞ』

 顔を上げて足1本をひょいと上げると、セルジオは険しい表情のまますぐ近くまで来た。
 その隣には泣いているハストゥーレがいるし、芽依とは相性の悪いミカとアウローラもいる。
 そして肝心の芽依がいない。
 
『……………………どうした、なんかあったか。アイツはどうした?』

 立ち上がりセルジオを見下ろすメディトークはセルジオの表情にトラブルか……と呟いた。

「コイツが位置指定なしの転移をメイにかけた。今アイツの居場所がわからん」

『……………………まったくか?シャルドネが探してもわかんねぇのか?』

「範囲指定すらされていません。この世界……いえ、時間軸も含めて探すには今すぐは難しいです」

『…………くそっ』

 カリカリと頭をかいたメディトークは立ち上がり泣きじゃくっているハストゥーレの側に来ると、ビクリと体を揺らした。
 奴隷として危機に瀕した場合、命を賭して主人を守る。
 白は特にそう刷り込まれてるのにハストゥーレは主人である芽依を守ることが出来なかった。
 こんな不甲斐ない事はないとプルプル震えると、メディトークはそんなハストゥーレの頭に足を乗せた。

『顔を上げろ、泣くんじゃねぇ。アイツはお前が守れなかったとしても責めたりしねぇし、逆に泣くお前を心配しやがるお人好しだ。だから、泣くな。アイツは帰ってくる。大丈夫だ』

「はいっ……はい……申し訳……ありま……」

 両手で顔を覆うハストゥーレの頭をグイグイ撫でてからメディトークが振り向きミカの前に立つ。
 そして、アウローラが止める隙もない速さで足を振り抜きミカを吹き飛ばした。

「ガフッ……うあぁぁ……」

『……随分と舐めた真似してくれたな』

 冷えたメディトークの冷たい声が頭上から聞こえミカはビクリと震えた。
 アウローラは慌ててミカを支えメディトークを睨むが、その眼差しは冷たいままアウローラに視線を向ける。

「な!なにをするのです!」
 
『ああ?何するのだ?てめぇがただダラダラと甘やかすからこんな事になるんだろうが!』

「たしかに甘やかしたわ!それは私が悪かったし今回の事はミカの愚行でしかない!わかっています!でもだからって、あの子の伴侶でもなんでもないただの中位でしかない幻獣が、ミカに手を出すのは違うでしょう!」

「おい!やめろアウローラ!」

 髪を止めている簪を外してそれを媒体に魔術を展開しようとするアウローラにセルジオが止めるが、ドシィィィン!!と響く地響きと共にアウローラの魔術が解除された。
 ミカはポカンと口を開け、反対にアウローラは極限まで目を見開き目の前のメディトークを見る。
 地面がえぐれている、強く足で踏み抜いたのだ。

「え……なに」

 ミカが小さく呟くと、アウローラはガタガタと震え出した。

『……たしかに、中位の中でも下のほうだ。だがそれがなんだ。それが大事な人間を虐げた奴を許す理由になんのか?花嫁が手を出した。だからなんだ、俺にとっちゃクソみてぇなガキが我儘言ってるだけにすぎねぇ……なんだ、殺したわけでもねぇだろうが』

 丁度来たアリステアの困った表情に苛立ち舌打ちするメディトークはノシノシと離れて行った。
 丁度その時ブランシェットも集合して、この微妙な雰囲気に首を傾げつつアリステアに駆け寄る。

「お嬢さんが位置指定なしの転移に巻き込まれたと聞きましたのよ、見つけました?」

「まだだ。休み中にすまない」

「まあ!謝る必要などないでは無いですか!」

「ブランシェット、雪虫を頼みたいのだ」

「任せてくださいまし」

 すぐに両手を握りしめ魔術展開を開始する。
 近くを見るだけなら特に問題は無いが、その範囲はこの世界全てにまで広がっているから10000億以上の雪虫に芽依を探すよう伝え範囲を決めている。

「……………………さぁ、探してきて下さいませ」

 両手を広げると背後から一斉に雪虫が現れる散らばって行った。
 ドーム状になっている庭をすり抜け最後の1匹まで消えて行きブランシェットはため息をついた。

 
 
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