美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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年の瀬

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 翌日朝5時、冬の為日の出が遅く室内はかなり暗い。
 芽衣は目覚ましを止めて伸びをしながら体を起こすと、温まっている室内にホッと息を吐き出した。
 先月の暫定食の呪いにかかった人達も無事にカナンクルの暫定食で打ち消され室温調整された領主館内は温かさを維持している。
 あの寒さは堪える……と腕をさすっていたのも終わり今では温かさに動きたくないとぐずってしまう。
 寒かったら寒かったで、布団から出たくないのだが。

「よし。販売だー」

 今年最後のカテリーデン参戦、メインはお節料理である。
 まだ最後まで終わっていなく、今日は朝早くから残りの使い捨てケースに入れたり箱詰めしたりと忙しいのだ。
 わざわざメディトークはカテリーデンの時間を午前から午後にずらしてくれるように掛け合ってくれたので、このお節販売に間に合いそうだ。

「そうだ、結局バタバタしてセルジオさんに手袋プレゼントしてないんだよね。あの話の時の私、態度悪かったしなぁ……ごめんなさいお節攻撃しようかな……そうしよう。メディさんに頼んで4つ確保しておこう」

 芽依はモソモソと着替えながら独り言を言う。
 今日は動きやすいパンツスタイルで、スタイリッシュなシャツにサスペンダー付きのズボンというあまり着ない組み合わせである。
 しかし、寒さ対策にオーバーサイズのフワフワカーディガンがかっちりし過ぎた格好を甘くしてくれる。

「セルジオさんのコーディネートはいつも可愛い。お母さん、感謝します」

 名無ーと手を合わせてから部屋を飛び出した芽依は、一目散に庭へと続く扉を開いたのだった。

「おはようメディさーーん!」

『…………おう』

「あれ?元気ない……」

『クソ早ぇ時間からそんなテンション上げれるか』

 そう言いながらも、足の動く速さは尋常ではない。
 ガサガサガサガサと音を立てて出しているのは机1杯に並べる空の使い捨てケース。
 それに巨大なボールに入った栗きんとんを端から順に入れていく。
 お正月仕様の金色の固めお弁当カップ、あれにモリッと載せられ、さらに次はと蒲鉾やら焼豚やらがケースに収納されていく。
 蒲鉾は飾り切りされていて美しく、形が崩れないように綺麗にケースに嵌っているのは圧巻である。

「………………おぉ、飾り切り」

『それ、ハストゥーレがやったんだぞ。さすが白だな、なんでも出来る』

 今回メディトークと手分けして作ったお節料理は素晴らしい出来だった。
 ハストゥーレが幼い頃から習得する様々なスキルに料理も含まれている。
 メディトークは筑前煮の里芋を1つ取り芽依の口に入れた。

「…………うんま、ねっとり甘じょっぱくて最高……メディさんの味付けじゃないね」

『ああ、ハストゥーレが作った。俺のはこっち』

「ふ……ふきだ……ふきの煮物」

『前好きだと言ってたろ。買い付けの時にあったから作ってみたが、どうだ?』

「メディさん、私に甘すぎて、メディさん無しでは生きて行けなくなる……」

『別にいいじゃねーか。俺はこれからもここに居るんだ、ずっと一緒にいるヤツに多少甘くても問題ねぇだろ』

 バタっ!と倒れて地面に指先でメディさんすてき……と書くのを見たメディトークは鼻で盛大に笑った。
 そんなまるで遊んでいるかのような二人の元に、追加で飾り切りされた蒲鉾や厚焼き玉子に伊達巻を持ったハストゥーレが参上する。
 
「ご主人様、おはようございます」

「うん、ハス君おはよう。ご主人様、今倒れふしてるんだけど……それを見ても笑顔でご挨拶はなんかちょっと違う気がするぞ」

『お前が変な行動をしても通常だから気にすんなって言っておいたぞ』

「あれれ?おっかしいなぁ、ご主人様への愛が足りない気がします」

「そんな事ありません、愛しております。ご主人様、風邪を引いてしまいますから起きましょう」

 優しく腕を取られて立ち上がる手伝いをするハストゥーレにヘニョリと笑った。
 初めて芽依の物になった時より、昨日より、一日一日すぎる度にハストゥーレの雰囲気が柔らかくなっていく。
 それは話し方にも出ていて、ギルベルトの奴隷だった頃より今の方が聞いていて心地よい。
 まだ芽依の所に来て数日だが、ハストゥーレにとって居心地の悪い場所では無いのだろう。
 それは芽依も、一緒に住むメディトークも嬉しい事だ。

「愛してるって言われちゃった」

『そりゃ、ご主人様のお前が促したらハストゥーレは言うだろう』

「まさかのご主人様用営業トークだった……」

 おう……と頭を下げながら芽依は別のテーブルにずらりと置かれているカップを見た。
 中には器ギリギリまで入っている茶碗蒸しで、隣に蓋が置いてある。

「美味しそうジュルリ……」

 朝起きて朝食を食べていない芽依の腹部を直撃する茶碗蒸しの香りに涎を垂らしそうになる。
 そんな芽依に、陶器の器に入った茶碗蒸しを渡された。

『こっちを食え。ほら、ハストゥーレも腹に入れろ』

 熱々とまではいかない、程良く冷めた具沢山の茶碗蒸しは何故か丼程の大きさだった。

「…………いや、でかいな」

『お前、デカイ方が喜ぶだろ』

「そうだけど……うん」

 スプーンを持って頷く芽依、ハストゥーレはお節を作るメディトークを見たあと、芽依を見てからふわりと浮き上がり足を曲げる。

「ご主人様、どうぞ」

「……何がどうぞ?」

「椅子がありません」

「立ったままでも食べれるよ!?」





 箱に詰められた50食分のお節に、茶碗蒸し。
 それが綺麗に積み上げられていて芽依は満足そうに頷いた。

「時間、間に合ったね」

『良し、行くか』

 うんうん、と頷く芽依はエプロンを外すとハストゥーレが自然に回収して行った。
 洗濯に出すのだろう、家に行ったのでハストゥーレ合流まで荷物のチェックをして待っていると、戻ってきたハストゥーレが頭を下げた。

「行ってらっしゃいませ」

「え、行かない?お留守番してる?」

「…………ご一緒させて頂いていいのですか?」

「勿論だよ、一緒に行こう」

『メイ、奴隷は……とくに白は全ての決定権を主人に委ねられる。勝手に動いたりしねぇから、ハストゥーレが慣れるまでは面倒がらずに全部指示してやれ』

 ポン、と頭に足を乗せて優しく言うメディトーク。
 芽依にもハストゥーレにも配慮しているのだろう。
 なるほど……と頷いた芽依はハストゥーレを見て笑った。

「一緒に行こう。ただ、ハス君が嫌だったりしたらどんな内容でも嫌って言ってもいいんだからね。無理して従わないでね」

「……はい」




 カテリーデンに着いたのは正午を少し過ぎた頃だった。
 相変わらず売り子も買い物客も大勢で賑わっていて1年の締め括りの買い物をしているのだろう。
 どうやら三が日に完全にカテリーデンはお休みになるらしく、買い納めのようだ。

『よし、こっちだ』

 今回は羊を丸々一頭場所代として支払ったらしいメディトークの案内で着いたブースは今までで一番入口から近い場所だった。
 その分出入りで開く扉から冷たい風が入ってきてブルリと身体を震わせた。

『寒いか』

「我慢出来る」

 うう……と手を擦り合わせながら芽依は転送で運ばれたお節を手にした。
 ズッシリと重たいお節は使い捨て3段ケースになっていて、海老等は準備出来なかったのだが中身はとても豪華で2~3万程は軽くしそうなラインナップである。
 場所を取るために3段のお重は中が見えるように1つだけテーブルに置き、茶碗蒸しも同じく一つだけ見えるように置いた。
 カテリーデンではその場で作るのは違反となるが、惣菜等は問題ない。
 つまり、お節売り放題なのだ。
 同時に自動販売機にもお節を置いているのだが、こちらは中が見えるように自動販売機に置くため1段ずつの販売である。

「……よし、どうかな」

 お節と共にいつもの野菜や肉を置いて販売開始。
 芽依とメディトークを見つけた客達は目を光らせブースに押し寄せた。

「…………な、なにこれ」
 
  ワナワナと震えながらお節を見るお客さん。
 この世界でも年末年始のご馳走は用意されるが、芽依達の世界にあるようなものでは無く、オードブルが主流らしい。
 だからこそ、わざわざお重に入ったあまり見た事のない食べ物に興味津々なのだ。
 しかも作ったのがメディトークである。
 試食で爆発的人気なメディトークのご飯は毎回持ち寄る度にまるで信者かのようにファンが増えていくのだ。
 そんなメディトークが作ったお節である。
 多少高くても買わない選択肢はあるだろうか。
 芽依はニヤリと笑って茶碗蒸しを持った。

「あー、朝食べた茶碗蒸し美味しかったなぁ。プルプル熱々で具材たっぷりの美味しい茶碗蒸し、最高だったなぁ」

「くっ!!メイちゃん……人が悪いわ……今回試食は……試食はないの……」

「スペシャルお節なので今回はありませーん。しかも、この筑前煮はうちの大事なハス君が作った甘じょっぱくて美味しい煮物なんだよねぇ」

「ハス君……?嘘!白の奴隷!?メイちゃん……貴方、白の奴隷を!?」

「凄いんだよねー、メディさん並にハス君のご飯も美味しくて美味しいんですよー」

「くっ……メイちゃん……恐ろしい子っ!!1つ頂戴!!茶碗蒸しは3つね!」

「毎度あり!!」

『……悪徳商法かよ』

 ニヤニヤしながら新しくお重を取り袋に入れる。 
 さらに小さめのパックに入ったふきの煮付けとたけのこの煮付けを付けた。
 お節購入した人への先着10名様スペシャルプレゼントである。

「まぁまぁまぁまぁ!!」
  
「筑前煮はハス君だから、メディさんの味はスペシャルプレゼントで堪能してね」

 その一言で、一斉にお節が売れた。
 先着10名と言った為、残り9名は死闘の末購入者が決まりホクホクとした人と11人目からのスペシャルプレゼントが当たらなかった人との落差が激しい。

「やったぁ、スペシャルプレゼント嬉しい」

「本当にこういう時の嗅覚凄いよねフェンネルさん」

「ミサぶりだねぇ……すごいよねお節……だっけ?1人で食べ切れるかなぁ」
  
「日持ちするから普通に食べても三が日は余裕で持つよ」

「それは凄いなぁ……出来たら来年はもう少し小さいサイズも作って欲しいかなぁ」

「昨日いきなり作りたいって言ったからサイズは1個だけなの、ごめんね」

「………………え?昨日言ってこれだけ豪華なお節作ったの?え?メディさんやばいね」

「ね、メディさんやばいの」

「しかも、僕の知らないうちに奴隷まで居るんだから、びっくりしちゃったよ。次からは僕にも報告すること!」  

 メッ!と指を立てて言うフェンネルの可愛さが振り切れて倒れる常連客を横目で見る。

「フェンネルさんにも報告?」

「…………あれ、僕仲間はずれ?」

「あ!わかった、言うね」

 しゅんとするフェンネルにすぐ頷く芽依にメディトークは首を横に振った。

 販売を開始したお節に茶碗蒸しは用意した50食を1時間しないで完売した。
 なかなか強気な金額設定をしていたのもあり、1時間で完売はメディトークを驚かせたが、ハストゥーレは当然だと満面の笑みを浮かべていた。

「………………お節って言うのがあるって聞いたんだけど、無いんだね」
  
 誤算だったのは、売り切れたあとに少年が来てぶどう以外に興味を示していたこと。
 自分の生まれた場所の行事食に興味を持ってくれた事も、それを買おうとしてくれた事も芽依は嬉しくて倒れそうだが、何故売り切れたっ!と理不尽な気持ちが胸に広がりかけた。
 完売は素晴らしい事。
 悲しそうにする少年にだけ依怙贔屓はできないのだ。
 ただ、大きなぶどうを選別しているのは芽依の中ではまた別の話になっているご都合主義である。

 








 
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