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課外授業 3

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「……おう、ファンタジーが無くなった」

 外門を出た途端周りの景色が一変した。
 言うなればサバンナのような広大な草原に様々な動物の群れがある。
 水場では今3種類の群れが水をゆったりと飲んでいて、空を飛ぶ巨大なモンスターのような幻獣が羽ばたいている。
 今まで街中で見たことないものばかりで恐竜みたいな姿の幻獣もいた。
 遠くには雨雲がありカミナリがなっている場所もあれば、豪雨の場所もあり離れたら離れるだけ気候や天気が違うみたいだ。

「…………凄い」

「ここら辺が最も多く狩りが出来る。狩りは庭持ちだけがするものではないからな」

 確かに遠くで人影が忙しなく動いている様子がある。

『ギルド……まあ、何でも屋みたいな場所があってよ、依頼内容によっては討伐や採取なんてのもあるからな』

「そこら辺はファンタジーだ……これ全部幻獣?」

『ああ、位の低いやつばかりだがな。理由はわからないんだが外門から出た幻獣の低位は長い時間を掛けて狂ってきちまう。最初は普通なんだがな、少しずつ精神が犯されんのか狂って来ちまって最後には自分がなんだか分からなくなり言葉を失う……それが野生化だ。狂うって分かってても、何故か外門に出て野生化するやつらは減りやがらねぇ』
  
「野生化……メディさん!早く中に入ろう!?メディさんも野生化しちゃうって事でしょ!?無理だよ!耐えられないよ!!」

『しねぇよ!低位って言ったろ!中位の幻獣が野生化するには少なくても200年掛かるんだ!』

「200!?何年生きるつもり!?それより、中位も野生化するんだね!?それはまずいよ!まずいって!!ほら!アムっとした方がいい!ほら!」

『よじ登ってくんな!腕を差し出すな!口に突っ込もうとすんじゃねぇこのじゃじゃ馬が!!セルジオ!止めろ、何黙って見てやがる!!』

「……なんかムカつくな」

『何がだよ!?』

 無理やり引き剥がしたメディトークは、はぁ……と息を吐き出し指を指した。

『向こうに小さな洞窟があって、そこにスライムがいる。どうする?行ってみるか?』

「スライム!ゼリー!」

「ゼリー?」

「スライムが魅惑のゼリーの素材になるんですよね!?やるしかない……」

「お前、まさか外出理由がスライムなのか……?」

「そうですよ?ぶどうゼリーの為です。オシャレゼリー作りたいけどちょっと今無理そうだから最初は普通のゼリーを工場で量産して売り出し。メディさんがデザート系苦手って初情報がきたから、デザート工場も買おうか検討……」

『おいまて!聞いてねぇぞ!?なんだデザート工場って!』

「売るためには最新の設備が欲しい!売りまくってお金稼がないと!じゃないと好きなだけお酒が……」

『てめぇいい加減にしとけよ、こら!……あと、酒はお前分かってるよな……?』

 ズゴゴゴゴ……と怒りに震えるメディトークにぴっ!と肩を跳ねさせて何度も頷くと、聞き捨てならないとセルジオがゆっくりと振り向いた。

「…………なんの話しだ?」

「な!なんでもない!です!」

「あやしいな」

 じっと見てくるセルジオの視線から逃れる為にそろーりと目をそらすと、手袋をしているセルジオの長い指が芽依の頬を強く握り口がむにゅりと突き出る。

「なゃにをひゅるんれふ!」

「明らかにあやしい言動をしておいて何をするはないな」

「んむむむむむ!!」

 なんとか酒癖の悪さを隠した芽依はこれから洞窟に向かう。
 ゼリー素材になるスライムを採取する為である。
 それにしても、それなりに酒に強かった筈の芽依のあの失態を思い出し、なんでだろう……?と首を傾げた。
 エピリを飲んだ時もビールを飲んだ時と同じような酔い方だったのにな。




「ジメッとしてますね」

「洞窟だからな……寒くないか?」

「コートが暖かいので大丈夫です、ありがとうございます」

 チラチラと降る雪は止まず今も降り続いている。
 気温は夕方になり下がってきたが、まだコートの温かさに包まれて寒くは無い。

「ここから少し奥に行くとスライムの群れがある」

「…………スライム」

 ゴクリと生唾を飲み込み暗く先の見えない洞窟を見た。
 大きさや奥行など全然わからないが、2人は落ち着いているから大丈夫なのだろう。

「やっぱりプルンとした想像通りのスライムなのかなぁ」
  
 あの有名なスライムを思い出しながら2人の後をついていく。
 今の所何も出てこなくて静かだが、どこからヤツが出てくるか分からないから警戒はしておこう。
 とは言っても、戦えるか?と聞かれたらNOだが。

「…………見えてきたな」

「お?…………あれですか」

『あれだな』

 確かに思っていた通りのスライムだった。
 大きさに少しバラツキはあるが、大体女性の両手の上に乗るくらいの大きさで別段大きすぎる訳では無かった。
 だが如何せん、数が多い。

「…………え、200くらいいます?」

「少ない方だな」

「少ない!?」

『500いて普通くらいじゃねぇか』

「500……集まりすぎでしょ」

「クイーンのレベルによって集まる数が変わる。あのクイーンはまだ若いからな」

 すでに野生化している為芽依よりも数倍は生きているスライムだが、それでも精霊達から見たら若いらしい。

『どうする?ヤッちまうか』

「いや、俺が行こう。メディトークはコイツの傍にいてくれ」

『おー』

 セルジオがどうやら倒してくれるらしい。
 しかし、動く様子はなくスライム達は3人に気付きゾロゾロぬるぬると近付いてきている。

「……なんかぬるぬるしてるよ」

「スライムだからな」

『スライムだからな』

 同時に同じ答えが帰ってきた事に、これは普通なんだ……と理解したが大群で近付くスライムにゾワワワと悪寒がした。

「……怖いわけじゃないけど、メディさんが心細いと困るからしがみついていてあげる」

『俺は怖くねぇ』

 そうは言っても足にしがみつく芽依を引き剥がすことはしない男前な蟻。
 そんな二人を見てから取り出したステッキをクルリと回し地面にトンと当てると、スライムの下に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

「……魔法陣……わ、わ!わ!わぁ!?」

 その魔法陣から黒い光が溢れて霧状になりスライム達を覆い尽くした。
 そして、一瞬で晴れる。

「…………どこ行きましたかスライムさん」

「殺したが」

「え!?……あの量を?一瞬で?」

『スライムは下位だならな、セルジオなら指先振るだけで死ぬだろ』

「えー……」

 あまりにも一瞬で初めての戦闘は瞬きの間に終わったも同然だった。

「跡形もないんだけど、ゼリーは?」

「あるぞ、ほら」

 セルジオの指先に挟まっている真っ黒の球体が2つ。
 それを芽依に渡すとまじまじと見た。

「……これがスライム?」

『ああ』

「ゼリーになるの?」

「なるな」

「…………え、初めての戦闘は一瞬で、ゼリーになる素材は硬い玉……感動がなかった」

『スライム相手になんの感動するつもりだったんだよ』

「だって、スライムって凄い……」

 それは芽依の中のスライムであってこの世界とは違うと今更ながらに思い出し、そうか、そうか……と呟いていたのだが。

「……うん、ゼリー作って忘れよう」

 無かったことにした芽依は笑顔で頷いた。




 
 
 
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