美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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豊穣と収穫の恩恵

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 セルジオによって芽依の部屋に食事を運ばれ部屋の片付けを行った日から3日が経過した。
 この間セルジオは毎日足を運び食事を届け食べる物を観察してだいぶ芽依の食べれるものや量を把握していた。
 仕事が出来る体力が回復して来たとセルジオが判断した時、報告したのだろう、いいタイミングでアリステアからある提案があった。
 夜の食事はアリステアを含めた数人で取り、食事を含めた改善点や世界についての話、まだ見ぬ伴侶や仕事など話し合いの場を設けることをしないか、と言われ芽依はすぐに了承する。
 そしてこの世界に来てからの芽依に対する扱いが悪かったと、椅子に座ったままだが深々と頭を下げる領主という偉い立場のはずのアリステアが謝った事に芽依はとても驚いた。
  

「伴侶が居ないからこそもっと寄り添わねばならなかったのに、本当に申し訳ない」

「いえ、いいんです問題なかったですから!だから、その綺麗なご尊顔を歪ませないでください、酒が無限に飲めそう……」

「……ん?酒?……」

 眉を下げて苦しそうに言った銀髪の麗人は、顔を上げて芽依を見る。
 慌てたように首を横に振りにっこり笑って誤魔化した芽依のネジが外れたような返事に、首を可愛らしく傾げて誤魔化されてくれるようだ。
 領主としてしっかりしているアリステアは、少しだが天然という名のポンコツ風味もある人らしさを兼ね揃えた魅力的な人物らしい。
 セルジオも自身の契約をし終えた事により安心したアリステアが水を持ったつもりがアンデッドに効果のある聖水を間違えて掴んだようで、飲んだ瞬間吹き出した姿に愕然としていた。
 ちなみにそれから3日間体が発光するという罰ゲームのような効果が出て、顔を茹でタコのように赤くしていたらしい。

 そんな仕事には素晴らしい能力を発揮するアリステアは、ここ2週間ほど忙しくしていた。
 大掛かりな豊穣と収穫の祭典をする予定だったのだが、芽依が現れた事によりそのまま続ける事が叶わなくなった。
 豊穣の精霊が芽依の姿を見て恥ずかしがり姿を消したのだ。
 それにより祭典は中止、豊穣の精霊を探す所から始めなくてはならなかった。
 豊穣と収穫の祭典は秋の少し前に行うのだが、これを行わないと今後の収穫量が激減してしまう。
 アリステアたちは勿論領民全員の食料事情がかかっているのだ。
 慌てたアリステアは勿論、アリステアと一緒に準備を行っていた全ての人間や人外者が豊穣の精霊を探す為に芽依を他に頼まなくてはいけなくなり日替わり世話役、そして最終的にはセルジオに丸投げになったらしい。

「……なるほど、その豊穣と収穫の祭典は終わったんですか?」

「ああ、やっと終わった所だ」

「それはお疲れ様でした」

「ありがとう」

 キラッキラの笑顔を向けられ、芽依は直ぐに逆側に顔を向けたのをセルジオは呆れた顔で見ていた。綺麗な顔に弱い、は流石にセルジオにバレているようだ。

「それで、セルジオから体調が回復傾向であると聞いてな、メイの仕事斡旋の話をしたいんだ。メイも欲しい物があっても買えないのは忍びないだろうしな」

「そう、ですね」

 まだこの領主館の敷地からひとりで出たことがない芽依は、欲しい物と言われても酒とつまみ以外はピンと来ないが、確かに無一文では心もとない。
 今までも働き給金を貰っていたのだからよけいにである。

「それで、メイに相談なんだが」

「はい?なんですか?」

「どうやらメイは豊穣と収穫の恩恵を受けているようだ」

「……なんです?それ」

 困った時のセルジオお母さん。
 セルジオに聞くと、飲んでいた紅茶のカップを置き説明をしようとしてくれたのだが、アリステアが慌てて割り込んできた。

「メイ待て、私が説明するから。恩恵とは様々な精霊や妖精、幻獣から頂く事のできる特殊技能の事だ。1度だけだったり複数だったり期限付きだったり、発動に条件があったりと様々ある」

「え、そんな凄いっぽいの貰えるんです?」

「凄い物だぞ、人間が生まれながらにして持つ事が出来ないものだからな。人外者が簡単に渡してくれるものでもない」

「……俺たちが大切にしたいと思った奴に対して恩恵という守護を渡すんだ。人間は弱く脆い生き物だからな、死なせない為に。その内容は千差万別」

「…………セルジオ」
  
 丁寧に話すセルジオにアリステアは少しだけ動揺している。
 見返りの対価を渡すことなく芽依に伝えるセルジオをアリステアは初めて見た。

「お前は恩恵をどこで貰ったんだ」

「豊穣と収穫の精霊は渡してはいないらしいから、私にもわからないんだ……それでなメイ、先程豊穣と収穫の祭事が遅くなったと言っただろう?収穫量に問題は無さそうだが、どうしても2ヶ月程収穫時期が後ろ倒しになりそうなんだ」

「そう、なんですね?」

「それでな、仕事内容を収穫に携わる物にして欲しい。お前のもつ恩恵は成長促進と収穫量の大幅アップなんだ。使い込めば品質も上がる、素晴らしいものだぞ」 

「……畑仕事的なのですか?」 

「……………………まぁ、そうだな」

「何故そんなに間があったのでしょうか」

 目を泳がせながら言うアリステアに、芽依はジト目をしてしまう。

「……あ、それに魔術は必要ないんですよね?手作業なら出来ますけど、魔術とか使えないですよ?……あれ、恩恵ってどうやって使うんですか?」

「あ、ああ……豊穣と収穫の恩恵だけでなく、ほとんどの恩恵は常時発動か、その条件が満たした時に発動するから心配はないぞ」

 パッシブスキルみたいだなぁ……と頷いて納得すると、芽依が嫌そうな様子ではない事にアリステアはホッとしているようだ。
 これから数ヶ月の食糧難はアリステアも頭を悩ませる問題のひとつであった。
 芽依がその恩恵を受けていても何処まで手助け出来るかは芽依のやる気にもかかっている。




 
 こうして芽依の天職とも呼べる仕事が決まり宙ぶらりんだった今までよりも芽依自身動き安くなった。
 元々、仕事は国の保護の保証に関わる為、伴侶のいない移民の民である芽衣が選ぶ事は中々に難しいらしい。
 伴侶がいたら、それに付随する仕事が出来るのだが、今の芽衣にどんな仕事を割り振りすればいいか、アリステアもかなり悩みセルジオに丸投げするという暴挙にまで出たほどだ。

 そんな芽依とたまたま会ったシャルドネがアリステアに豊穣と収穫の恩恵があると教えてくれたのだ。
 普通、個人の持つ恩恵を人間が無断で知る事は出来ないのだが、シャルドネは森属性の叡智の妖精だった。
 森はその全てに命があり、様々な物を見聞きする。
 さらに、情報を蓄え深層を知る叡智の妖精であるシャルドネは特に自然の多いこの地で情報と知識を司るのには最適な妖精であった。

「しかし、セルジオは気付かなかったのですか?…………あぁ、貴方はあの方に触れねば詳しくはわからないのですよね、これは申し訳ありません」

 そう嫌味たらしく微笑みセルジオの機嫌を急下降させた経緯はあったのだが、シャルドネがいたからこそ、芽依の恩恵を知ることが出来た。
 アリステアは、今更ながらにシャルドネのその見聞きする力の凄さに感謝するのだ。

「…………しかし、まさかこのタイミングで豊穣と収穫か……」

「このままではこの数ヶ月で飢餓者が出るはずだった……日照りが続き収穫量が下がっていた時期の豊穣と収穫の祭事の中止にはヒヤリとさせられたな」

「アイツが居なくなった事によりここだけでなく全国的に収穫量は激減したからな」

「…………ディメンティール様か……居なくなってから100年以上経つが妖精や精霊の中でもやはり行方はわからないのだろうか」 

「……さぁな、豊穣のヤツらは今でも血眼になって探しているがほんの少しの情報すら掴めてないみたいだ」
  
「………………そうか、シャルドネすら見つけられなかったからな」


 ディメンティール、それは豊穣と収穫の最高位妖精であった。
 綺麗な金のたなびく髪に優しく微笑む麗しい姿は様々な人間や人外者の興味や執着を一心に集めていた女性だった。
 そんな妖精、ディメンティールが100年以上前、誰にも何も言わず忽然と姿を消した。
 強い力を持つディメンティールの失踪が原因で世界から豊穣と収穫の力が著しく低下し、品質も下がり収穫量が激減したのだ。

 どうにか他の豊穣と収穫や、似た系譜の恩恵を集め品質や収穫量を上げたのだが、ディメンティールがいた頃と雲泥の差である。
 また、豊穣を促進するため他の災害や天災を抑えていた天候、災害を司る妖精達がディメンティール失踪の事実を受け入れる事が出来ず引きこもったようだ。
 こうして100年間天災や災害に見舞われ収穫量が激減し食糧難を加速させた。
 ここ100年でなんとか対応し順応してきたが、皆一様にディメンティールの帰還を心待ちにしているのだ。

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