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「大人しくしろ!!」

「っ……私達が何をしたというのです!ただ生きてきただけではないですか!!」

「そうだけど!でも、魔女は裁判にかけられる!それが掟なんだ!」

「なぜ!なぜなのです!!うっ!…………」

 首に強く強打されて意識を失った母は、小さくラキア……と呟いていた。 
 意識を失った事で壁は失われる。
 ミラは走り出しラキアを追う。子供の足だ、ラキアの姿はすぐに見つかった。

「待て!止まれ!!」

「いやぁぁ!!ママ!ママァ!!」

「お前のママは捕まった!」

 ミラの言葉にビクリと反応したラキアは躓き転ぶと、真っ白なワンピースが土で汚れた。

「…………ママが?」

「ああ。大丈夫か?怪我は?」

 隣にしゃがみラキアを起こしたミラは、顔についた泥を取ってくれる。
 そんなミラをジッと見つめた。

「……どうしてママを捕まえるの?」

「魔女だからだ」

「……じゃあ、ラキアも?」

「お前は魔女なのか?」

「ママと同じのは出来るよ」

「………………………………そうか」


 深々と息を吐き出したミラは片膝を地につけてラキアの肩に手を乗せた。  

「いいかよく聞け。これからお前は1人で生きることになる」
  
「…………ママは?」

「ママは捉えられお前に会うことは出来ない。たとえお前が母の元に行っても会えない……決して後を追うな。お前は教会から逃げるんだ」

「………………ママも言ってた。教会から逃げなさい、ママが捕まっても逃げなさいって」

「そうだ。教会に捕まるな、周りに魔法を使っているのを気取られるな、逃げろ。ほら、金だ。使い方は分かるか?」
 
「ママが教えてくれた……」

「よし、ならいい…………つかまるな、逃げろ。教会にも……俺にも…………飛べるか?……いい子だ」

 ふわりと浮いたラキアの頭を撫でつけて微笑んだミラをジッと見てからラキアは凄まじいスピードで飛び立っていった。 
 その数分後カールがミラの所にくる。 
 周囲を見渡しラキアを探したカールはミラを見たから、首を横に振って居ないと伝える。

「……逃げられたかぁ、さすが子供でも魔女だなぁ。まぁ、子供がいたから母親をすぐに捕まえれたんだけど…………しかし子供かぁ」

「……初めてだな、子供は」
 
「発見例は18歳以上だからね。これでまた魔女の話が盛り上がるなぁ。子供の事を聞かないとだから母親は死なないだろうね」

「………………そうだな」
 
 話をしながらもミラの意識はラキアに向いていた。
 まだ幼児と言っていい年齢のその少女にミラは強く惹かれていた。











「………………………………ラキア」

 鎖に繋がれ首輪をしている母、シエラは目を覚ました。
 小さな部屋のベッドの上で雑に切ったままの髪で眠っていた。
 首に鋭い痛みを感じて触れると熱を持っている。  
 そのまま手をかざしたまま痛みが無くなるよう願えば一瞬にして痛みが無くなった。
 ジャラ……と音がなり手足、そして首輪に繋がる鎖をクンッと引っ張るが外れることは無く、願うと強い痛みが首に走った。

「うぁぁぁぁ…………」

 首を抑えてベッドに倒れ込むと、ミラとカールが部屋に入ってくる。

「あぁ、大丈夫?逃げようとしたら首に痛みが走るからダメだよ?」

 トロンと目を蕩けさせて言うカールを睨むシエラ。
 既に魔女としての力を見せている為魔女裁判は中止となった。

「………………名前は?」
 
「…………………………………………」

「あまり反抗的な姿は見せない方がいい。首に痛みが走る」

 ミラの言葉にビクリと体を揺らして恐る恐る顔を上げるシエラは渋々名前を伝えた。

「シエラか……綺麗な名前だね」

 カールは熱に浮かれたように笑みを浮かべていてシエラを眺めている。
  
「…………シエラ、お前の娘は逃げた」

「!!」
 
 バッとミラを見るその瞳は透明で何かを探っている様子がある。

「お前は娘の情報を教える為に生かされてる。これより聞き役として俺とこのカールがお前を囲い話をする」

「!?囲う……2人に?」

 絶望するシエラにカールは蕩けるような微笑みを浮かべている。
 カールはヤバいな、とチラッと見て思ったミラはすぐにカールの腕を掴んだ。

「わっ!何!?」

「まずは俺が話をする。お前は出ろ」

「え!?待ってよ!シエラと話すのは俺だよ!」

 無理やり引っ張られ部屋を出されるカールは騒がしいが、細身のミラにあっという間に連れて行かれた。



「騒がしくて悪かった」

「……………………」

 睨みつけるシエラの座る前に椅子を持ってきてミラは座った。

「…………まず、お前の娘は無事に逃げている。金を持たせたから暫くは自力で過ごすだろう」

「お金……を?」

「お前が意識を失った事で壁は取り払われたから直ぐに追いかけた。金を渡し捕まらないように言い含めて逃がした」

「…………なぜ、そんな事を」

「……なんだろうな。あの娘を捕まえたくなかったんだ。拷問に掛けられ後に死ぬか生きるか。どちらにしても地獄しかない未来に落としたくなかった…………たとえ今までに居なかった幼児の魔女だとしても」

 ピクリと反応したシエラは俯き口をとざす。
 その様子を見ていたミラは何か話すだろうかと黙って見ている。
  
「……………………あの子を捕まえないと約束してくれるならあなたにだけ話します。あの子を逃がしてくれたそのお礼に。私はあなた以外には話しません…………出来たら貴方もあの子の為に誰にも話さないでください、というのは難しいかしら」

 諦めたように笑ったシエラはシーツを握りしめた。
 きっとこの先ラキアに会うことはなくこの部屋で一生を過ごすのだろうと薄々感ずいている。
 だから、そんな愛おしい娘をシエラはミラに託したのだ。今後捕まるかもしれない娘の将来をただ1回だけ逃がしてくれたという現実に希望を持って。











「じゃあ、そのラキアちゃんとお母さんはもう会えないの?」

「うん、生涯2人はそれから会うことは無かったよ」
      
「そんな……」

「………………魔女狩りがあった時代は、皆そうだったんだ」

「…………それで、亜梨子ちゃんは何処で出てくるの?」

「もういますよ。ラキア、それが昔呼ばれていた名前です」

「………………うん、ラキアが亜梨子だよ」

「あの時、私はまだ5歳でした。生まれてから魔力があり意識がありました。既に考え知覚し魔法を使って生活していたのです。でも、5歳に変わりありません。母と離され逃げろと捕まえに来た教会の人に言われ、私は絶望していました。たった5歳の子供に何が出来るでしょう……頂いたお金を大事に使うつもりでしたが逃げた先は貧しい村でした。みな貧しいのです。お金があってもろくなものは買えませんでした。少しの水とパン一欠片に膨大なお金を吹っ掛けられます。子供だからと舐められて居たのでしょう。事実、お金はあっという間に底をつきました」

「………………まさか、平民では1年は暮らせる位渡したのに」

「治安が悪かったのですよ、私が逃げた先は。私はその後何とか木の根を噛むような生活をしてきましたが……母はどうなったのでしょうか」

「うん、シエラはね……」
 
 辛い過去を思い出すように目を瞑り手を握りしめて話し出した。

      






「…………5歳、か」

「あの子は賢い子だから、きっと逃げ延びると思います…………そうですね、子供の魔力の話でしたね」

 ぐったりと体をベッドに沈ませて話すシエラの顔色は悪い。
 心配そうに見るが、シエラは諦めたように天井を眺めていた。  

 シエラが捕まり1週間が経っていた。
 あの後約束通りラキアの話をする筈が、ミラに別の仕事が舞い込み話をするのが1週間後になってしまった。
 その間シエラを囲い世話をするのはカールの仕事である。その1週間の間にカールは何度もシエラに無体を働いていた。
 蕩けるような笑みで泣き叫ぶシエラを組み敷いてきたのだ。
 魔女には魅了する力がある。魔女の意志と関係なく自分に男を惹き付けてしまう。
 その魔女の力に溺れる教会の人は少なくなく、カールもそのうちの一人だ。シエラに心酔している。
 しかし、決して魔女の言葉に操られるのではなく、ただただ女性として欲し屈服したい欲が身体中を支配する。

 ミラは1週間後に会ったシエラに愕然とした。
 憔悴して動けないシエラは痩せ細り天井を黙って見ている。
 話もせず無表情で、ミラを見た時だけ表情が変わりラキアの名前を口にしたのだ。


「魔女は魔女から産まれます。そういう家系なのです。普通の魔女は大体15歳ほどから血の中に含まれる魔力が溢れ出し魔法を使えるようになります。膨大な魔力は髪に宿り、その漏れ出た魔力の欠片で簡単な魔法をすぐに使える媒体にするのです。皆さんが言う浮遊や物を動かす位はその溢れ出た魔力で事足りるのです」

「…………初耳だ」

「ふふ…………誰が自分を押さえつける人に好き好んで魔女の秘密を話しますか?」

「そうだな、その通りだ」

 はぁ、と苦しそうに話すシエラに水差しからコップについだ水を差し出すと、何とか体を起こしそれを飲む。 
 こくんと動く首元には生々しい赤い印がありミラは視線を外した。

「………………ラキアは生まれ持った魔力が異様に多くて血液中に留めて置けませんでした。生まれた時には魔法がつかえ、多分意識があったはず。全て記憶しているのです…………だから、あの子が見つからないように森の奥深い場所で生きてきました。見つかったらきっと、私なんか比では無いほど辛い目にあいます。なにより、まだ幼いあの子は感情のコントロールが出来ず魔力が暴走するのです」

 それには頷く他ないだろう。
 実際今、ラキアの捕獲、実験の話が教会内で一番の話題になっている。
 幼い子供が魔法を使う事に危険視もされていて、すぐに処分の話も出ているのだ。
 それはカールの口から伝えられていたのだろう、シエラは恐怖に震えている。

 なぜ今のシエラにラキアの話をした?と壁に押付け聞いたら、カールは浮かれた表情のまま

「君の子供は死罪か生きていれば実験に使われる。良くて囲われるだろうけどまだ子供だからせめて15になるまでは保留かな?って話したよ。だって仕方ないじゃん、シエラがあの子供の心配ばかりするんだから」

 笑って言うカールはもうシエラという魔女によって狂ったのだろう。
 話を聞くためにミラがシエラと会うと、その後カールはシエラを縛り付け叩き組み敷いているようだ。

「シエラはミラが好きなんだろ!そうだよな!ミラはかっこいいからな!女の好きそうな外見してるもんな!!」

「や…………やめ、……」

「やめろカール!殺す気か!!」

「……………………そんな訳ない……ごめんシエラ、ごめん」

 しかし、カールはどんどんと精神を病んでいきシエラに対する執着と、ラキアに対する憎しみを膨らませる。
 何をするか分からないカールを恐れたシエラはミラに頼んだ。

「お願いします、あの子を助けてください。このままではカールにあの子が殺されてしまう、そんな気がするのです」

 痩せ細り痣だらけで内出血が酷いシエラはミラの腕に縋り付いて懇願した。  
 その痛ましい姿にミラは頷くしか出来なかった。
 






 
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