[完結]古の呪いと祝福を送る魔女の口付け

くみたろう

文字の大きさ
上 下
24 / 29

24

しおりを挟む
  
「あーりすちゃん」  

「重いですよ」

 スマホを見ている亜梨子の横から抱き着いてきたミラージュは手元のスマホを一緒に見た。
 映っているのはあの体育祭の時の写真で、撮ってはいけない時間の水戦争の写真を桃葉がこっそり堂々と撮ってくれていた。
 水が跳ね全身濡れながらも笑顔が弾けているミラージュや亜梨子に、一華や万里も写っているようだ。
 水戦争は水鉄砲を使って相手と戦う、ただそれだけの競技である。
 中心近くに置かれた2つの机からそれぞれ武器(水鉄砲)を掴み相手にかけまくる。
 地面が濡れるため1番最後に行うのだが、毎年乱入者が出て結局皆で水鉄砲を発射させる。
 なんだかんだ1番盛り上がる競技なのだ。

 ハンドガンタイプからデカいバズーカみたいなのまでサイズは様々で給水場所もある、皆が笑顔で体育祭を締めくくれる最終競技となっていた。
   
 そんな体育祭も終わり、今は夏休み直前。
 田中玲美がまだもちゃもちゃとミラージュに擦り寄っては来るが頻度は大分減り、渋々他に良い人は居ないかとハンターになっていると噂で聞いた。


「ねぇ亜梨子、前に言ってた弁当なんだけどね」

「柳君が作ってくれるって言ってたのですね」

 スマホを置いて横にいるミラージュを見ると、ミラージュも手を離して頷く。

「俺が作るの食べて欲しいなって…………ダメかな?」

「いえ、嬉しいです。柳君のご飯はとても美味しいので」

「……よかった。今度は出来たても食べてね」

「はい、是非」

 ニコッと笑って答えた亜梨子に幸せそうに笑うと、母が乱入してきた。

「あら、月曜日だけじゃなくて毎日?」

「うん、雅子さんいいかな?」

「私は全然大丈夫よぉ!ミラ君が作れない時は前日までに言ってね」  

「はーい」

 キッチンで夕飯の準備をする雅子に聞くと快く返事が返ってきた。
 良かったー、と呟くミラージュに母は何の気なしに言った。
  
「毎日お弁当だなんて、ミラ君ったら料理上手の彼女みたいねー」 

「…………………………」

 お茶を手にした亜梨子が固まり、ミラージュはあら?と首を傾げた。
 あの体育祭から既に2週間が経ち、田中玲美の脅威も薄れ普通に亜梨子の家に来ていたミラージュ。
 てっきり母に付き合っている事を言ったつもりだったのだ。
 亜梨子は固まったまま動かないので、ミラージュは立ち上がり母の元に。

「雅子さん」

「なぁに?」

「俺、料理上手の彼氏になりました。これからもよろしくお願いします」

「あら!?あっ!きゃあ!!あらあら!!」

「雅子さん!?大丈夫!?怪我してない!?」

「お母さん!?大丈夫ですか!?」

 ミラージュの言葉に驚いた母は火にかけていた鍋をひっくり返し、包丁を落とした。
 亜梨子とミラージュは慌ててキッチンの中に入って来くると、壁に背中を付けて立つ母は目を丸くして二人を見ている。
 ミラージュは火を止め亜梨子が落とした包丁を拾いながら母に怪我は無いか目視する。

「…………びっくりしてひっくり返しちゃって、それでまたびっくりしちゃったわ」

「……はぁ、怪我ないのね?雅子さん」

「えぇ、大丈夫よ。ごめんなさいねぇ」

「片付けるから雅子さんはちょっと休憩、ね?」
 
 ミラージュに背中を押されてキッチンから出された母は、あらあら……と言いながら亜梨子の隣に並んだ。

「……そっかぁ、亜梨子ちゃんと付き合ったのねぇ」

「はい」

「ミラ君、亜梨子ちゃんをよろしくね」

「勿論です」

 床を拭きながら顔を上げて笑うミラージュに、スパダリィ~と手を叩く。

「良かったね、亜梨子ちゃん」

「…………はい」

「あら、照れてる!ミラ君、雅子さんとのお願い」

「はい」

 ゴソゴソと棚を漁り出した母に手を止めたミラージュは首を傾げながら見ている。
 亜梨子もキョトンと見ていると、何か箱を持った母が戻ってきた。
 こっち来て来てー、と呼ばれキッチンから出てきたミラージュの手にギュッと握らせる箱。
  
「学生のうちに雅子さんをおばあちゃんにはしないでね」

「ぶふっ!!」

「お、お母さん!?」
 
 渡されたのを見て吹き出すミラージュに、顔を真っ赤にする亜梨子。

「………………まさか雅子さんからゴムを渡されるとは思わなかったなぁ」

「あら、だって大事じゃない。それとも学校卒業するまで我慢しちゃう?」

「んー、無理かなぁ」

「そうよねぇ」

「……………………やめてください」

 顔を覆う亜梨子をミラージュがわぁ!と手を叩いてそばに行った。

「え。亜梨子可愛い、亜梨子可愛い」

「ミラ君、寂しいけどデートとかジャンジャン行っていいからね!ただ、ミラ君のお父さん達にも頼まれてるから週に一回くらい顔を出してくれたら嬉しいわぁ」

「はい、わかりました」








 あけすけなく話す2人に怒った亜梨子がひとりで部屋に戻って行った後、食事の準備をしながら母はミラージュと話していた。
  
「ねぇミラ君。亜梨子ちゃんがたまに寝不足になるの知ってる?」

「悪夢、だよね。知ってます」

「そう、良かったわ……いきなりあの魘される亜梨子ちゃんを見たらびっくりすると思って。寝不足も続くから気にはなってるかなとは思ってたのよね」

「桃葉や郁美にその時の様子を聞いたし、1回だけ見たよ」

「あら、見たの?」

「昼休みの時にあまりにも顔色悪いから寝かしつけた時に」

「……そっかぁ」

 手を止めてソファに座るミラージュの元に行くと、隣に座った母は亜梨子を思いながら話し出す。

「……15歳くらいからなのよね、いきなり魘されだして。泣いて怖がるから色々病院とかも行ったけどダメで……ちょっとどうすればいいか悩んでたりして」 

 苦笑して言った母に、ミラージュも痛ましそうに顔を歪ませる。
 そして迷い悩み、そして口を開いた。

「雅子さん、俺さ……俺も夢を見てるんだよね、子供の頃からずっと」

「…………え?」

「亜梨子と似た夢で……いや、同じ夢かな……俺はもう亜梨子みたいに寝不足になったりはしないし、もう見る頻度もだいぶ落ち着いてきたんだけどね」

「……ミラ君?」

 ぼう……っと天井を見て話すミラージュに母は驚いて体をミラージュに向ける。

「夢はね、今からずっと昔で多分前世……そこに俺たちはいて……俺は取り返しのつかないことをした…………時代の風習や決まりに流されて……」

 まるで懺悔のように話し出したミラージュは母を見て苦笑した。 

「ごめんね、亜梨子の事でも悩んでいるのにこんな話をしちゃって。雅子さん、亜梨子の事心配してるから俺が知ってる事を教えた方が良いかなって思って」

「…………ミラ君」


 
 苦笑しながらまた天井に視線を向けたミラージュは、次第にぼんやりとした眼差しをしてきた。
 亜梨子を思っているのか、それとも前世の風景が写っているのか。

 カタン……と扉の方から音がしてミラージュはビクリと体を揺らす。
 バッと振り向くと亜梨子が佇んでいて、真っ直ぐにミラージュを見ている。

「……あ、ありす……」

「……それは、私も聞いていいものですか?」
 
「……あ…………」

「それが、貴方の隠していた秘密ですか?」

「……………………うん」

 亜梨子は黙って歩いてきてミラージュの前に座った。
 そして、もう一度同じ言葉を言った。

「それは、私が聞いていいものですか?」

「………………はい」 

 諦めたように目を瞑り、泣きそう表情で俯いたミラージュに、母は肩に触れた。

「…………ミラ君、正直気になるんだけど、亜梨子の事だから物凄く気になるんだけど。でも、今は2人で話した方がいいかしら。それなら亜梨子の部屋に行く?」 
 
 ミラージュは顔を上げて母を見て亜梨子を見る。

「…………亜梨子は、どうしたい?」

「心配を掛けているから、夢の理由がわかるのならこのままでお願いします」

「……うん。先に言っておくね。気持ちのいい話じゃないんだ。前に話した…………きっと亜梨子が俺を憎むって……言ってたヤツだから」










「前にも言いましたが、それは聞いた後に決めます」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

処理中です...