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しおりを挟む「……あ、ミラ」
戻ってきたのをいち早く気付いたのは親友万里だった。
亜梨子の手を掴み帰ってきたミラージュの目元はうっすらと赤くて泣いたと分かるのだが、あえて言わない……はずもない万里。
「あ?泣いたのかミラ、ダッセェ」
「う、うるさいよ」
「擦ると余計赤くなりますよ」
ごしっと擦るとすぐに亜梨子から指摘され止めたミラージュは恥ずかしそうに亜梨子にはにかんだ。
「ねぇねぇミラ君、亜梨子ちゃんにどんな告り方したのぉ?」
「ちょっ……桃、ダメだって聞いたら」
「えー?なんでぇ?」
「……………………柳君はとても柳君らしく女々しくねちっこく残念な告白をしました」
「亜梨子は男前に返事してたよね!もぅ!!」
「柳君にはあれくらいがちょうどいいでしょう」
「ぶふっ!なんだよ、女々しくねちっこく残念な告白って」
「そうとしか言いようがありませんでした」
「…………うん、なんか安心したぁ」
まるで家にいるような安心感が滲んでいる2人に桃葉と郁美は顔を見合わせて笑った。
「…………あーあ、金剛OKしたんだ」
「ミラどんな告白したんだろう」
「そりゃ、カッコ良く言ったんじゃない?」
一華達3人が壁に寄りかかり話をしている。
一華は既に諦めてはいたが、この中で1番ミラージュが好きだったのだろう。
眉を下げて悲しそうにミラージュと亜梨子を見ている。
「…………あーあ、私も早く彼氏作ろ」
「一華」
「ミラ!私!!ミラよりもかっこいい彼氏作るから!!」
一華が急に叫ぶように言い、ミラージュは勿論亜梨子や桃葉達も一華を見た。
赤らめ泣きそうな顔をした一華に一瞬困ったような顔をしたミラージュは綺麗に微笑んで、一言うん、わかったよ。それだけ答えた。
「…………金剛」
「はい」
近付いてきて亜梨子の前に立った一華は、1度深呼吸したあと、笑った。
「おめでとうね、ミラにいじめられたら言いなよ怒ってやるから」
「!…………ありがとうございます。私も、貴方が泣かされるような場合は言ってください。皆を引き連れてやり返しに行きますので安心してくださいね」
亜梨子の思ってもみない返事に目を丸くしてから笑いだした一華はミラージュを見る。
「ミラ。あんた金剛の手、放したら駄目だよ。こんなヤツそうそういない」
「うん、離れそうになったら閉じ込めるよ」
「…………や、それはやめたげなよ」
「…………離しなさい変態……グラウンドに行きますよ」
握っていた手をさらに強く握ったら亜梨子にぱぁんと弾かれ教室を出て行ってしまった。
ミラージュは慌てて振り向き追い掛けようとするが、万里率いる男子たちに囲まれて亜梨子と一緒にグラウンドに行くは出来なくなり、涙を飲んで万里達とトボトボ歩いていった。
「亜梨子ちゃん、これからは戦いだよぉ!」
「戦い?」
「ミラは学年関係なく人気だからね、それに田中玲美もいるし」
「………………ああ、あの人ですね」
「どうする?亜梨子ちゃん」
「どうしましょうか、ただ、もう柳君は私のものになりましたので手を出した人はちぎっては投げなくてはいけませんね」
しかし、亜梨子にそんな強い力は持ち合わせていないしどうやって撃退するべきか……と悩んでいた。
「ミラさぁーん!!」
既にグラウンドにはほとんどの生徒が集まっていて、校舎近くに田中玲美がミラージュをまだかまだかと待ちわびていた。
亜梨子達よりも後ろから来たミラージュに田中玲美が手を上げて叫ぶと、隣にいる女の子が必死に止めようとしている。
一目惚れ体質でトラブル発生機の田中玲美は入学して3ヶ月で既に有名になっていた。
1年だけでなく上級生に付け回しているのが周囲から話が拡がっているのだ。
そして今回は学年関係なくみんな大好き柳ミラージュが標的である。
周囲が見る田中玲美への眼差しがとてつもなく冷たい。
隣を走り抜ける田中玲美を見送った亜梨子は振り向きミラージュに抱き着く姿を捉えた。
「あいつ、誠君にも馴れ馴れしく抱き着いていたんだよぉ!……亜梨子、大丈夫?」
「付き合ったばかりであれは嫌だよね」
心配そうに亜梨子を見る2人にありがとうございます、と微笑みミラージュを見ながら考える。
「…………どうにかしないといけませんね、あのストーカー」
「……亜梨子ってガッツリ敬語なのに口悪いの好きだなぁ」
「あら、急にどうしました郁美」
「亜梨子が大好きってこと!」
「あ!桃も大好き亜梨子ちゃん!」
「あら、告白されてしまいました。今日は告白される日ですね、私も大好きですよ」
ふわりと笑う亜梨子に郁美が膝を着き桃葉が目を手で覆った。
「……神々しいのぉ」
「これが彼氏持ちなのか」
「桃も彼氏持ちなのにぃ」
「…………何をしているのですか」
様子のおかしい2人に呆れる亜梨子だったが、そんな3人をミラージュは羨ましそうに見る。
しがみつく田中玲美を引き離しながら、俺も亜梨子の所に行きたい……と呟いていた。
体育祭が始まった。
綱引きと、玉入れは全員参加で、それ以外の個人種目には10種目あるうちの3種目にエントリーしなくてはならない。
亜梨子は、仮装リレーに水戦争、旗取りとなっている。
ミラージュは騎馬戦に水戦争、そして借り物競争となっている。
この学校の種目は教師の趣味なのか昔から戦う種目がはいっていて、水戦争は水鉄砲をもち相手と撃ち合う遊びである。
こちらは応援合戦のようなもので勝敗はない。
「ミラさん!私応援しますから!!」
「玲美やめなって!!先輩すみません!!」
「やめてよ智子!ミラさん!体育祭終わったらお疲れ様会しましょうね!」
「俺、終わったら彼女の家行くから」
「 ………………は?彼女?……え、いないって……」
ひらりと手を振って歩き出すミラージュを呆然と見た田中玲美と友達の智子も、えっ……と声を上げていた。
たまたま近くに居た生徒達も聞こえていて、一気に悲鳴が響き何も知らない生徒にまで一気に話が駆け回った。
体育祭なのに、泣き崩れる生徒多数。
一華は、うん、わかる……と頷いてはいるが、その反面立てよ!とも思っている非情さである。
「亜梨子亜梨子亜梨子」
「なんですか鬱陶しいです」
「もう少し優しくして!」
田中玲美から逃げ出したミラージュは亜梨子の所に来る。
亜梨子を守るためにあえて離れていたのだが、晴れて彼女となった亜梨子に喜び爆発中のミラージュは顔をだらしなく緩めて亜梨子の隣に立つ。
「ミラ君、周りが凄いよ」
「…………なぜ他人に恋人が出来たと聞いただけでこんなになるのでしょう」
「アイドルが結婚したみたいな感じなんじゃない?」
郁美が泣いている人や、ミラージュの動きを逐一見て周りにいる亜梨子達3人を睨みつけている女性達を観察している。
あんなイケメンのお眼鏡にかなった女子って誰だ?と男子も興味津々に見てくるから周りに人が集まり亜梨子の機嫌が急下降しはじめた。
無表情で、怒りが周囲に分かるくらいにイライラしている亜梨子。見た目美少女なだけにただただ怖い。
そんな亜梨子の隣で残り二人の女子と話すミラージュだが、ちょいちょい亜梨子にちょっかいを掛けている様子に、彼女は亜梨子だと周知された時だった。
「あの!私田中玲美です!ミラさんが好きです!貴方はミラさんから離れてください!!」
「…………去れストーカー警察を呼びますよ」
ぶふっ!!
一斉に周りから笑いが溢れる。
田中玲美は顔を真っ赤にさせてワナワナとしているが、亜梨子はまだ口を開く。
「貴方がしているあとを付け回して家を特定、インターホンの連打。そして土日の外出さえ出来ない程の自宅前での張り込み……迷惑行為所ではありませんよ、犯罪者予備軍」
「……っ!好きなんだから!仕方ないじゃないですか!」
「好きで全て許されるのなら、世の中犯罪者だらけですね」
興奮気味に言う田中玲美と冷静にぶった斬る亜梨子。
桃葉はいけいけー!と野次を飛ばし、注目される場所にいる郁美は居心地悪そうにモジモジさせた。
そしてミラージュはというと、カッコ良く助けてくれる亜梨子にメロメロしているのを万里に情けねぇな、このポンコツが!と頭を叩かれていた。
「貴方が誰を好きになるかは勝手ですが、迷惑を掛けた貴方を好きになる方は、はたしているのでしょうか」
「…………め……迷惑なんか、掛けてない……」
「あら、柳君も、ここに居る桃葉や桃葉の彼氏も十分迷惑がかかっていると思いますが?…………そして、体育祭進行が妨げられている今現在も。」
「っ…………また、後で話をしましょうね!」
周りを見て自分達をみている生徒に囲まれて居ることに気付いた田中玲美。次の準備を終えた生徒が呼びに来たのだが、思わぬ修羅場に遭遇して右往左往していた。
走り出した田中玲美を智子が慌てて追いかけていくのを亜梨子は腰に手を当てて見送った。
「亜梨子大好き、かっこいい」
「貴方はかっこ悪いですよ、柳君」
「ごめんなさい……」
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