[完結]古の呪いと祝福を送る魔女の口付け

くみたろう

文字の大きさ
上 下
19 / 29

19

しおりを挟む

 7月某日、準備されていた体育祭がもうじき始まる。
 あの悪夢も今は見ていない亜梨子の体調は万全だ。
 桃葉のあの騒動は実は長引き、彼氏の誠に桃葉の怒りが落ちたらしい。
 亜梨子のあの助言を実行していないことを祈りつつ、桃葉はイラつきもやっと落ち着いてきた頃、1年のあの女子の嫌な噂を聞いた。

「……………………クソビッチめ」

「桃葉、桃ちゃーん、お口が悪いですよ」

 Tシャツにハーフパンツの郁美が桃葉の肩を叩いた。
 はぁ、吐息を吐き出した桃葉はチラッとある場所を見る。
 そこには、ミラージュの腕に捕まり体を寄せている1年の姿があった。
 桃葉の宿敵である田中玲美であった。

「あいつ、かなり桃がきつく言って誠君にもブチ切れて怒って、かなり時間かかったけどやっと離れたのに!!まさか……まさかミラ君の所に行っちゃうなんて桃思わなかったぁ」

 泣きそうに言う桃葉に苦笑する亜梨子ではあったが、亜梨子もこの田中玲美には少し思う所があった。
 どうやら初回の体育祭準備の日はミラージュが欠席の為に田中玲美に見つからなかっただけらしい。
 元々一目惚れ体質なの、と自分で言うくらいに恋多き少女らしく常に好きな人がいるのだ。
 それは恋人がいても関係なく突き進む身勝手ではた迷惑、ではあるのだが本人は好きになっちゃうのは仕方ないよ……と反省の色は無い。

 そして、今回桃葉に強く拒否られた田中玲美はまるで女優の様に泣きながら誠の傍を離れたようだが、何度かある体育祭の準備や練習でミラージュを見た田中玲美は一気に恋に落ちた。
 これは運命だわ、私、この人に会うために生まれてきたのよ!と豪語して突進し、初対面で抱き着いたのだ。
 勿論ミラージュは万里や一華たちいつも通りのメンバーが集まり集団でいるのにだ。

 それにミラージュはキョトンとして万里を見た。

「……だれかな?」

「知るかよ」

「…………あんたは、また性懲りもなく……」

 ミラージュがこの子どうしよう……と肩に手を置いて離そうとした時、ドロドロと効果音が掛かりそうな鬼の様な顔をした桃葉が現れた。

「田中玲美!!性懲りもなくまた来てぇ!!」

「え!?桃葉先輩!?誠さんにはもう近付いてないですよ?……まさか、二股ですかぁ!?」

「そんな訳ないでしょー!?」

「「「「え、この子が田中玲美??」」」」

 あのブチ切れをかました桃葉の話から、このクラスに田中玲美の存在が知れ渡った。
 ミラージュもその話は桃葉から直接聞いていたので知っているし、力一杯亜梨子の部屋で俺は亜梨子ちゃん一筋だよ!と言って部屋から追い出されたばかりである。

 そんな何ともすごいタイミングで現れた田中玲美は、ミラージュにハート乱舞しながら抱き着いていた。

「お名前はミラさんって言うんですか?私田中玲美です!玲美って呼んでください!私……」

「ごめん、まず離してくれないかな」

「……え、ダメですか」

「ダメに決まってるでしょ!離れな1年!」

「きゃ!……酷いです……ミラさん……」

「………………なんでしょうか、ものすごくイライラしますね」

 ちょっと離れた場所で郁美と見ていた亜梨子は無表情で言った。

「あ……亜梨子?」 

「はい」

「だ、大丈夫?顔が……」

「……顔?」

 頬を触るが特に変わりない普通の頬だ。
 亜梨子はまたミラージュたちを見ると、一華と桃葉が一緒に田中玲美を撃退しようとしている。

「……そもそも、俺好きな人いるから」

「「「はっ!?」」」

「玲美は大丈夫です!誰よりも貴方が好きな自信があります!!ミラさんはすぐに私を好きになるはずです!!」

「…………うーん」

 自信満々で言う田中玲美にミラージュは困ったように笑ってからチラッと亜梨子を見る。
 その表情にビタッと動きを止めたミラージュはすぐに動いた。

「ちょっとごめん」

「あ、ミラさん!?まっ…………」

 走っていくミラージュの背中を見送ると、一華はため息を吐いた。

「まぁた金剛かー、ミラは金剛の事どう思ってるのかな……好きな人ってまさか金剛……?」

「………………金剛?」

 一華の言った名前に反応してもう一度ミラージュを見ると、亜梨子に話しかけるミラージュがいる。

「亜梨子どうしたの?顔が強ばってるよ……もしかして、心配になった?」

「……何が心配ですか」

「あれ…………亜梨子?」

 顔を見ると明らかに不機嫌なのがわかる。
 ミラージュは嬉しそうに笑って2つに結んでいる髪のひと房を掴み軽く引っ張ると、キッと睨んだ亜梨子が髪を離すように手を弾く。
 それだけでも幸せそうに笑うミラージュに調子を崩す亜梨子は困ったように眉を下げた。
 亜梨子の周りには郁美しかいない為、こんなミラージュの顔は誰にも見られていないのだけが幸いだろう。

 こうして出会った田中玲美とミラージュは、誠の時のように昼食は2年教室に入り込み一華達を押しのけるバトルを繰り広げ、放課後はミラージュを待ち伏せするというストーカー顔負けのことをしてのけた。

 月曜日はなんとか巻き、亜梨子との時間を確保しようとするミラージュ、放課後も付き纏われ亜梨子の家に行く頻度がグンと減ってミラージュのストレスがどんどん増えていった。


「…………大丈夫ですか」

「ダメかもしれない……」

 ソファにぐたりと体を沈めて座るミラージュの隣にトサリと腰を下ろした。
 顔を両手で覆って俯くミラージュに亜梨子が背中を撫でてあげる。

「ミラ君大丈夫?1年の子まだ傍に来るの?」

 落ち込むミラージュを見て母はお高いアイスを差し出した。
 つけられる可能性が高いので、亜梨子の家にもなかなか来れず常に見られている感じがして落ち着かないらしい。
 なんども田中玲美に辞めてくれ、迷惑とはっきり言ってるのに「照れ隠しはいいんですよ!」と話が通じないようだ。
 そんな相手だから、ミラージュは亜梨子に会わせないようにしている。

「………………ありがとう」

 アイスを受け取り蓋を外すミラージュは手前に座ってじーっと見てくる母を見る。
 それから眉を下げて隣にいる亜梨子に寄りかかった。

「ずーっといるんですよ、雅子さん。ずーっと着いてきて家もバレるし、インターホン鳴り止まないし……今日は用事があるって自己申告無かったら来れなかった……
 」

「えっこわ!!」

「だからなかなかこっちに来れないし、亜梨子に会えないしー!!」

 アイスを亜梨子に渡してギューっと抱き着いてくる。
 落ち込んでいるのがわかってるから、亜梨子は特に何もせず好きなようにさせているが、食べていないアイスを渡されたので遠慮なく食べ始めた。

「あらぁ、だいぶ落ち込んでるわぁ……亜梨子ちゃん、それミラ君のよ」

「私に持たせたのですから私のです」

「もう!……それにしても、その田中玲美ちゃん?ちょっと困ったわねぇ」

「もう、先生に言おうかな……」

「先生というか、警察レベルよぉ」

「たしか桃葉の彼氏の時はここまででは無かったはずです」

「そうとうミラ君が好みだったのねぇ」

 しみじみと言う母にしがみついていたミラージュは力を抜いてくたりと寄りかかる。
 重さが急に増えて うっ…………と力を入れるが亜梨子の貧弱な腹筋ではミラージュを支えきれずアイスを持ったままソファにぐしゃら……と倒れた。
 勿論上にはミラージュが乗っている。

「あらあら、やっぱり仲良しねぇ」

「おもたいぃぃ……」

「亜梨子ちゃぁぁん…………」

「私の上から降りなさい、今すぐにぃぃ」

 よっこいしょ……と体を起こしたミラージュは、亜梨子を起こして椅子に座らせてくれる。 
 そんなミラージュに顔を向けること無くアイスに夢中な亜梨子に母はフフッと笑った。

「二人を見てたら大丈夫な気がしてくるわぁうふふ」

「……ん?」

「雅子さん?」

 満足そうに二人を見て笑う母に亜梨子とミラージュは揃って首を傾げた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貴方を愛することできますか?

詩織
恋愛
中学生の時にある出来事がおき、そのことで心に傷がある結乃。 大人になっても、そのことが忘れられず今も考えてしまいながら、日々生活を送る

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...