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 亜梨子が夢を見始めた。今は連続で見ていて寝不足の亜梨子は月曜日、必死に目を開けて登校している。
  
「おはよう亜梨子……大丈夫?」

「おはようございます郁美、大丈夫ですよ」

 顔色の悪い亜梨子を心配そうに見る郁美に笑顔を向けた。
 桃葉は彼氏と登校するのでまだ来ていない。

「…………亜梨子?」

 丁度登校してきたミラージュは、亜梨子の顔色の悪さに足を止める。 
 座っている亜梨子の横に立ったミラージュは腰を眺めて亜梨子の額に手を当てた。

「……顔色悪い、熱は無いね。具合悪い?」

「いえ、すこぶる好調です」

「なぁんでそんな分かりやすい嘘つくかなぁ……髪の艶も何時もより無いでしょ」

「ただの寝不足です」

「…………寝不足かぁ……眠れない?亜梨子よく寝不足になるからなぁ」

 ミラージュは自分の机に行かず亜梨子の机に鞄を置いてサワサワと頬を撫でると、クラスがザワリと騒がしくなる。
 一華も既に教室にいて顔を真っ赤にさせて亜梨子を睨みつけるが、ミラージュが言った顔色の悪さに気付き目を丸くした。
 本当に顔色最悪……と呟いていた。
 化粧をしない亜梨子は顔色が悪くても隠す手段がないから青白い顔に黒髪である意味ホラーである。
 今までも寝不足はあったがここまで顔色が悪いのは初めてだ。

「あらぁ、ミラ君何してるのぉ?」

「おはよう桃葉。亜梨子があんまりにも顔色悪いから心配で」

「心配でほっぺプニプニしてたのぉ?」
 
「亜梨子の可愛いほっぺのお肉が減ったら大変でしょ?」

「うふ、ミラ君はこっちの方が桃は好きだなぁ…………亜梨子ちゃん本当に顔色悪い……まだあの夢見てるの?」

「そう、ですね」

 亜梨子の家にいた時のような亜梨子が好きでたまらないという感じのミラージュが気に入ったらしい桃葉はにっこりと笑いミラージュを見たあと、亜梨子を見ると土日の時より顔色が悪くなっているのに気付いた。

「…………亜梨子ちゃん、ちょっと保健室で寝てきたらどうかなぁ?」

「…………いえ、お昼寝しても……」

「………………そっかぁ」

 昼寝をしても夢を見ると分かった桃葉は眉を下げた。
 郁美もそうなんだ……と呟くとミラージュは眉を上げた。

「…………亜梨子、なんの話?夢?」

「え?いえ、夢見が悪いだけです」

 座る亜梨子を見下ろして鋭い目を向けるミラージュに狼狽する。
 まるで、初めてこのクラスで会った時の様な奇妙な眼差しで見つめられるのだ。

「…………ふぅん」

 何かを探るように見るミラージュから亜梨子は無意識に視線を外すが、そんな亜梨子ごと黙って見ていた。
 いつもと違う2人の様子に桃葉は亜梨子の肩を叩いた。

「後でちょっと亜梨子ちゃんの負担にならない程度にお話聞いてくれると嬉しいなぁ」

「勿論です」

「ありがとう、亜梨子ちゃん大好き」

 座る亜梨子の頭をギュッと抱きしめる桃に首を傾げる。
 むにゅりと桃の胸が顔に押し当てられているが今は指摘しない方がいいのだろう。
 図らずしもミラージュからの視線を遮った桃葉にこっそり感謝をしていると、ミラージュは黙って席に戻って行った。













 お昼休み。
 今日は月曜日の為、桃葉はお弁当を持ち立ち上がった。
 その顔は何故か戦に行く武士のような顔付きで、手を握り締めている。
 少し話を聞いた感じ桃葉にはこれから負けられない戦いがあるようだ。是非とも頑張ってほしい。
 この後の戦歴は昼休み後に教えてくれるらしい。
 さらに、郁美も恒例の委員会でお弁当を持ち教室を離れていった。
 最近気になる人が居るとうっすら匂わしていたが、この月曜日の委員会にソワソワしながら行く様子を見ると気になる人は委員会の人か、それに関係がある人かと睨んでいる。

 そして亜梨子はというと。

「…………これは」

「亜梨子用ミラお手製お弁当」

 いつもの机に出されたのは可愛い花柄のわっぱ弁当だった。
 母に朝お弁当作れなかったの、と言われそれならと昼休みに入り売店に行こうと思って教室を出た瞬間、目にも留まらぬ速さで亜梨子はミラージュに拉致られた。
 数人に見られた可能性があり、亜梨子はプリプリとしていたが、出されたお弁当箱にポカンと口を開ける。

「…………何故」

「実は昨日の夜に月曜日のお弁当は俺が作りたいって雅子さんに伝えてたんだよ」

「……だから朝お弁当無かったのですね」

「そういう事」

 ミラージュの手で開けられたお弁当箱には炊き込みご飯に卵焼きに唐揚げ、エビマヨに彩りでブロッコリーとミニトマトが入っている。

「…………美味しそうです」

「お、嬉しい。食べて亜梨子」

「いただきます」

 可愛らしいお花柄の箸を持ち、弁当箱を持ち上げしげしげと見つめたあと炊き込みご飯を口に入れた。

「!!」

「おいし?」

「とても美味しいです」

「そう、良かった」

 蕩けるような眼差しを細めてハグハグと食べる亜梨子を見るミラージュは幸せそうに笑う。
 頬杖をつき食べる亜梨子を見守るミラージュは、色々食べる度に表情をコロコロと変える亜梨子を黙って見てから自分のご飯を食べ始めた。
 中身は全部一緒で、大きさだけが違うお揃いのご飯を食べている、それだけでミラージュは幸せだった。

「…………柳君は、なぜこんなにも私に構うのですか?」

「どういうこと?」

 お弁当を3分の2食べた頃に亜梨子は唐突に今までの疑問を聞いた。
 ミラージュは首を傾げて亜梨子に聞くと、お弁当を1度机に置き膝の上に両手を置いて改めて聞く。

「前から不思議だったのです。初めて会った時から貴方は私を見ていましたよね?今ではクラスメイトの女子という私に異常と言える位良くしてくれます。ほかの方が鋭い眼差しを向けるくらいに。私は貴方に何かしたのでしょうか?」

 ミラージュも食べる手を止めて亜梨子を見る。
 その眼差しは、またあの不思議な色合いの眼差しで、亜梨子は何故かその眼差しが苦手だった。

「…………亜梨子が好きだからだよ。亜梨子が好きだから構いたいし色々してあげたい。そばに居たいし触れ合っていたい。出来るなら閉じ込めて誰の目にも触れないようにして俺だけが亜梨子を見てお世話をして愛でたいよ」

「…………それはドン引きです、近付かないで下さい」

「あ!そんな引かないで!俺死んじゃう!!そんな事しないってぇ」

「…………信用なりませんね」

「信用して……まぁね、俺は亜梨子が好きだから色々してあげたいし喜んで欲しいんだ。だから、寝不足で顔色の悪い亜梨子を見ると心臓が止まりそうな程心配になるんだよ。お願いだから、何かあるなら俺に話してよ。何か夢を見てるんだよね?」

 立ち上がり向かいに座る亜梨子の頬を優しく撫でた。
 フワフワと撫でるミラージュの手にじわりと亜梨子の体温が移り暖かくなる。

「…………悪夢といいますか、良く同じ夢を見るだけです。その夢を見ると寝た気がしなくて体がとても疲れます」

「…………悪夢、か」  

「この間桃葉と郁美が泊まりに来ている時からまたあの夢を見始めて、魘されていたようなので、それで2人が異常な程心配してるだけなのですよ」

「………………そっか、辛かったね」

「いえ、もう慣れましたから」

「いつから見てるの?小さい頃から?」

「いえ、15歳くらいです」 

「………………………………15か」

 頬に手を当てながら俯き呟いたミラージュに亜梨子は聞こえなかったようで聞き返すも、微笑んだミラージュは首を横に振る。

「ねぇ亜梨子。少し寝よう」

「……え?」

「お願い、少し寝て?」

「いえ、えぇ!?」

 亜梨子を誘導しようとした時、ミラージュは自分のお弁当箱にぶつかって床に落とした。
 色とりどりに並べられていた弁当は全て床に落ち食べれなくなっていて、それをチラリと見たミラージュはサッと片付けてからまた亜梨子の手を引き扉から影になる場所を選んで床に座った。

「亜梨子、お願い」

 懇願するミラージュに亜梨子は困惑する。
 何故こんなにもお昼寝を強要されるのか。ただ、あまりにも必死な表情で言うミラージュの不可解さに口を閉ざしてしまう。

「……では、少しだけ……次の授業までに起きなかったら起こしてくださいね」

「うん、わかったよ……おやすみ亜梨子」
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