[完結]古の呪いと祝福を送る魔女の口付け

くみたろう

文字の大きさ
上 下
13 / 29

13

しおりを挟む

「…………どうしたの?亜梨子ちゃん」

 クレープを食べた為にいつもよりも少なめにした夕食を噛み締めている亜梨子を母は首を傾げながら聞いた。

「なにがですか?」

「なにがってぇ……」

 ぷりぷりと怒っている亜梨子に、髪がぐしゃぐしゃにされて苦笑しながら豚汁をすするミラージュ。
 母が買い物に行っている間になにかあったのよね?と首を傾げている。

「雅子さん、俺、亜梨子怒らせちゃった」

「あらあら、何をしたの?」

「ちょっとイタズラされたと思って反撃したら照れ隠しだったみたい……わっ!」

 チクられた亜梨子は隣に座るミラージュの足をダン!と踏むが、フカフカのスリッパのおかげでダメージ0である。
 それがまた腹立たしく鋭い目で睨むが、ミラージュは気にせず天丼を食べていた。

「あら、仲良しねぇ」

「学校じゃ照れて話してくれないんだけど。ねぇ?亜梨子?」

「黙って食べやがりませ」

「照れてるの?照れ隠し?」
  
「うぜぇでーす」

「わぁ、かなしい」

 くすくすと笑いながら言葉遊びをするミラージュに亜梨子は嫌々ながら返事を返す。
 そんな2人を母はうふふ、と見守っていた。
 ミラージュがこちらに来るようになってからすでに3週間が過ぎていて、こうして食卓を囲むのも慣れてきた。
 前よりも軽口をたたけるし、中間テストの結果を亜梨子の家で見直しなども一緒にしたほどだ。

 学校では相変わらず一定距離を保ってはいるが毎週月曜日の昼食も今では当たり前になりつつあった。

「…………そうだ、柳君。後で話があります」

「告白?」

「……………………」

「睨まないで!」

 苦笑しながら睨む亜梨子の頭を撫でた。



「で、亜梨子どうしたの?」
 
  入浴後、先に上がってテレビを見ていたミラージュは、亜梨子が来た事に気付いていそいそとドライヤーの準備を始めた。
 この家に来て1週間たった頃には、嫌がる亜梨子を説き伏せ入浴後のドライヤーを勝ち取ったミラージュ。
 何故か前から亜梨子の髪に固執しているので、こんな良いタイミングを逃すミラージュでは無い。
 慣れたようにミラージュの前の床に座り込んだ亜梨子は足を縮め体育座りをする。

「…………私から言った事なのですが、桃葉と郁美に柳君が我が家に来る事を伝えていいですか?」

「うん」

「…………え?いいのですか?」

「うん。俺は隠してないしね。亜梨子が嫌がる事はしないから俺からは言わないけど、亜梨子が言いたい子には好きに伝えて」

「…………すみません」

「謝ることじゃないよ」

 俯く亜梨子の顎に後ろから指先を当てて上を向かせると、ソファに後頭部が乗った。
 亜梨子を挟むように足を開いているので、ミラージュの真下に亜梨子の顔がある。
 ミラージュを見上げると、しっとりとした手が亜梨子の頬を包んだ。

「亜梨子の好きにしていいんだよ」

「……わかりました」

「………………パパはわからないよ」
  
「…………………………あら?」

 2人で真剣な話をしている最中に帰宅した父は、2人のその体制に口をパカっと開いていた。
 頬を包んだままミラージュは首を傾げ父を見る。
  
「…………おかえりなさい」

「おかえりなさい、和臣さん」

 ミラージュの手を離させ頭を起こした亜梨子は無表情で帰宅の挨拶を、ミラージュはにっこりと笑った。
 そんな2人にフルフルと静かに怒る父。

「なんて格好をしているんだ!お父さんは許しませんよ!」

「……………………これは普通ではない?」

「普通だよ、亜梨子ちゃん」

「普通じゃないよ!!クラスメイトの男子とそんな格好で普通は座らない!!」

「………………まぁ、たしかにそうかもしれません」

「俺とは普通だよねぇ」

「………………感覚が麻痺していました」

 サッと立ち上がり離れようとしたら、ドライヤーを隣に置いたミラージュが素早い動きで亜梨子の腰を鷲掴んだ。

「離しなさい」

「ちょっと嫌かな~」

「娘の腰を触るな!!」

「…………まぁ、何事?」

 カオスなこの状況に入浴を終わらせた母が戻りキョトンとしている。
 立ち上がる亜梨子に、その後ろのソファに座ったミラージュが亜梨子の腰を掴んでいて。
 そしてリビングの入口で叫ぶ父の姿。

「とりあえずお父さんおかえりなさい、うるさいわ」

「うる…………っ!?」

「そして亜梨子ちゃんはちゃんと座って髪を乾かしなさいな」

「…………はい。お母さん、これは普通ではないので自分で乾かします」

「普通じゃない……?」

「普通じゃないだろう!何故クラスメイトにこんなに密着して髪を乾かしてもらってるんだ!」

「そんなのミラ君だからじゃない。私だってミラ君じゃなかったら怒ってるわよぉ」

 カラカラと笑って冷蔵庫から麦茶を出し飲む母に父はまるで幼児のように亜梨子達を指さし泣きそうに母に訴えている。

「いいのよぉ、ミラ君は息子なんだからぁ」

「うちに息子はいないよ!!」

「もぅ、相変わらず煩いんだから」

 母にこれっぽっちも相手にして貰えず足踏みするのがこの家の大黒柱である父、和臣である。
 頭が少し寂しくなってきているのを気にして育毛を真剣に考えだした45歳。
 嫁バカの娘バカな一児の父で、知り合いの子供が一人暮らしになると心配する優しい人だ。

 ミラージュへの印象はとても良かった。
 綺麗な青年になりかかった少年は儚く笑い挨拶をした。
 亜梨子と同じクラスと知ってびっくりしていたが、母と同じく学校の亜梨子を聞きたがりポツリポツリと話してくれた。
 とても良い少年なのだ。
 性格も良く、なかなか友達を作れない亜梨子に気さくに話しかけてくれてくれる。
 ただ、この距離感だけが許せない父だった。
 亜梨子の感覚が麻痺して誰にでもこれじゃ困ると戦慄している。

「あ、お母さん土日で桃葉と郁美が泊まりに来ます」

「あら、わかったわ!ご飯とか、おやつ張り切っちゃう!」

 一気にワクワクしだした母に、父は仕事ではない疲れを感じながら部屋へと着替えに戻って行った。

「あら、じゃあミラ君は来ない?」

「うん、来ないかな」

「………………………………雅子さみしい」

「どれだけ気に入ってるんですか」

 またドライヤーを再開したミラージュは、しっとりと濡れている亜梨子の髪にドライヤーをあてその触り心地を楽しんだ。

「…………亜梨子は気持ちいい」

「気持ち悪い事いわないでください」

「え、酷い……あっつ!」

「え?」

「ドライヤーでやけどした」

「どうやったらドライヤーで火傷するんです!!冷やしなさい!!」

 バタバタとミラージュの手を掴み流し台で流水にあてる亜梨子をミラージュは嬉しそうに見ていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです

紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。 夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。 ★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★ ☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆ ※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。  お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。

処理中です...