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「おじゃまします」

「いらっしゃーい!!やーん!凄いイケメン!」

「いえー、ありがとうございます」

「さぁ、入って入って!亜梨子ちゃんおかえりなさい」

「……ただいま帰りました」

 本日、来てしまった柳ミラージュのお宅訪問である。
 1度帰宅し、鞄を置いて着替えをするからと言われた亜梨子は渋々ミラージュと共に帰宅をすることにした。
 次回からは一人で来るように!と強く言いミラージュはニコニコと頷いて了承する。
 帰宅したミラージュは自室に鞄を置き、緩いTシャツにサルエルパンツを履いて亜梨子のいるリビングに戻ってきた。
 すぐに出る為お茶の用意はしていないので、すぐに立ち上がった亜梨子と共に玄関へ。
 壁にインテリアの様に掛けおいてある帽子の中から1つ取って被り亜梨子に向かい合う。

「おまたせ」

「……はい、行きましょう」

 早く帰りたい、誰にも会わないで帰りたい……
 そう何度も心の中で唱えている亜梨子に気付く事無くミラージュはお出かけ用の鞄を引っ掴んで玄関に向かった。
  
「……クロックスでもいいかな?」

「お好きにどうぞ」

 初対面の人の家にクロックスは失礼かな?とミラージュは考え込み、亜梨子に聞いきたのだが、あっさり大丈夫とのニュアンスが帰ってきたので暫く迷ってから黒のクロックスに足を入れた。

 そうして到着した金剛家の玄関でピンクのフリフリエプロンを着けた母に盛大に歓迎されたのだった。

「さぁさぁリビングにどうぞ!亜梨子ちゃんはお着替えしてきてね!」

「……はい」

 チラッとミラージュを見てから階段を上がっていった亜梨子。
 不安だ。この2人を放置するのが激しく不安だ。
 それでも亜梨子は鞄を置きたいし、制服を脱いでハンガーにしっかりと掛けたいのだ。
 手早くすまそうと部屋に戻った亜梨子は制服を脱ぎ、ハンガーに掛けたあと部屋着を鷲掴み袖を通した。
 薄い紫のモコモコワンピースを着て部屋を出る亜梨子はリビングを見て崩れ落ちる。

「あ、亜梨子ちゃんおかえりなさーい」

 亜梨子に気付いた母はニコニコしながらミラージュの座るソファの隣にちょこんと座ってスマホを見つめている。

「……なにをしているんですか」

「え?連絡先交換してからね、ゲームをしてたのよ」

「雅子さんゲーム上手で楽しいよ」

「…………雅子さん」

「そう呼んでって頼んじゃった!」

 雅子さん、母の金剛雅子は少女趣味の若作りだ。
 子供の頃からフリフリした可愛い物が好きで、更にはゲーマーである雅子は昔から好きな事には異常なほどのめり込む質であった。
 気に入ったゲームをやりこみ、続編が出たらやり込み、又リメイクが出たらやり込み、高校時代にはその好きさが爆発してコスプレにハマりイベントに参戦するくらいの猛者である。
 いまでもその時の写真は伝説としてネットで拡散され続けていて、こんな昔のなのにー!と頬を染める強者である。
 そんな雅子の今は、ちゃんと一児の母をしているが現在の年齢45歳、見た目年齢20代前後という化け物である。
 亜梨子と2人で買い物に行くとお友達や、姉妹に間違われる。間違っても親子には見られない雅子である。
 まるで陶器のような白い綺麗な肌は亜梨子にも引き継がれていて、並ぶと肌の綺麗さはまるで加工しているようである。
 陶器、既に無機物で例えられるお肌お化けの親子。

「……何をしているんですか?」

「今はねー」

 何かシューティングをしているのだろう、画面が忙しなく動いていて、母とは違いまったくゲームをしない亜梨子には見てもわからないものだった。
 それでも、母が楽しくて話を聞いて欲しくて亜梨子のそばに来た時、亜梨子は分からないなりに黙って話を聞き、時々には質問もしつつ母の相手をする。
 父もゲームはしない。亜梨子もゲームは苦手。
 だから、ミラージュが一緒にゲームをしてくれる事に母のテンションが上限突破したようだ。

「はぁぁ、ミラ君とっても素敵、いつでも来てね毎日でも来てね、遊ぼうね!」

「わぁ、嬉しいなぁ」

「……わぁ、嬉しくないですねぇ」

「「えーー」」

 仲良く手を取り合って亜梨子に唇を突き出す2人に深いため息を吐き出した亜梨子は、冷蔵庫に向かった。
 かつてミラージュが出してくれたようにお茶を準備する亜梨子に母は慌てて立ち上がった。

「あ!亜梨子ちゃんごめんなさいね、お母さん出し忘れてたわ!おやつも出しましょうね」

 お茶と焼いたパウンドケーキを切り分けて皿に乗せたあと、母はミラージュが座るソファまで持って行く。
 3人がけのソファに座るミラージュは、ゲーム途中で母に渡された続きをやっていて、母が来たことに顔を上げる。

「嫌いじゃないかしら?食べれたら良いのだけど」

 照れながら言う母に、ミラージュはニッコリと笑った。

「ありがとうございます」

 出されたパウンドケーキはまるで売り物のようで、これにも母のこだわりがギュッと詰まっているようだ。

「ねえミラ君、学校での亜梨子ちゃんはどんな感じかしら」

「ちょっ…… 何を聞いて……」

「学校でのですか?そうですね、基本的に中の良い2人の友達と一緒に居ますよ」

「あ、桃ちゃんと郁ちゃんね!いい子でお母さん大好き!」

「そうですそうです。席が近いのでたまに俺とも話してくれますよ」

「まぁ!ミラ君とも仲良し!いいわね!」

「…………たまに?」

 学校でのたわいない話をしながら、母は久しぶりに満面の笑みでミラージュと話をしていた。
 そうか、専業主婦であまり外に出ないから話すの楽しいのか、と納得した亜梨子は黙って2人の会話を聞くだけに留めた。

 ミラージュが家に来て2時間、18時に差しかかる頃、母は立ち上がった。

「じゃあそろそろ晩御飯作りましょうか。ミラ君食べたいのとかあるかしら?嫌いなものは?」

「好き嫌いないです」

 はーい!と帰ってくる返事に笑ったミラージュに視線を向けると、ん?と首をかしげられた。
 そして、隣をポンポンと叩かれこっちにおいで、と促され床に座っている亜梨子はゆっくりと立ち上がる。

 ポフンと音を鳴らして座った亜梨子に視線を向けることなく母を見ているミラージュは、目を細めている。

「……いーね、なんかこういうの」

「……なに?」

「何が食べたい?って聞かれて答えられる感じとか、答えたら返してくれる返事とか?」

 ね?と笑って亜梨子を見たミラージュを黙って見つめ返した。

「……いつから一人で過ごすことが多くなったのですか?」

「いつだったかなぁ、小学校低学年とか?元々鍵を渡されてて帰ってきたら一人とか多かったしねぇ」

「そんな、小さな頃から」

「もう慣れたよ」

 そう言ったミラージュが立ち上がりキッチンにいる母のもとに歩いていった。

「手伝っていいですか?」

「あら、いいのー?」

「料理得意なんで」

「まぁ!素敵!!料理男子はポイント高いわよぅ!ね!亜梨子!!」  

「……そうですねー」

「まぁ、気の無い返事なんだから!」


 
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