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置いてけぼりの愛情の返却
しおりを挟む紫からの愛を受けて兄は穏やかな笑顔を見せていた。
そんな兄は、最後の仕事をする。
「シロ」
「………………碧」
「ちょっと話、いい? 」
「…………ああ」
呼ばれた斎藤白朗は立ち上がり兄について教室を後にした。
プールで焼けた小麦色の肌は、夏服に変わった半袖のシャツからスラリと伸びる。
その対比がとても美しかった。
「…………碧、妹の事……だよな? 」
「まあ、そうだね」
「……悪かった。あんなに連絡したら迷惑だよな」
「ちょっと度が超えてたからね、注意」
「……ああ。もうしない」
しゅんと俯く斎藤白朗の肩を叩いて笑った。
「…………なあ、高垣上総、なんであんなに仲良くなった? 」
「上総? 上総は……彰もだけど。紫が好きなんだ。俺みたいに全ての愛を紫に向けてくれる。なによりも大切な紫に愛情を注いで育ててくれるから、あの2人は特別」
「…………妹、か。俺は妹に負けたのか」
「…………………………負けてるね。そもそも勝負にもならないよ」
バッと碧を見る斎藤白朗。
悲痛に、泣きそうな顔で碧を見ている。
碧は、そんな斎藤白朗から目を逸らして窓の外を見た。
合同クラスで体育なのだろう、彰が紫にひっついている。クスリと笑ってからまた斎藤白朗を見た。
「前から言ってるけど、俺の1番はどう頑張っても紫なんだ。そこにあの二人が入ってきた。今ね、凄く居心地がいいよ」
「…………俺は、お前が好きだ」
「……うん。知ってるよ」
「駄目なのか? 俺じゃあ……」
「受け取れないよ、その気持ち。俺には紫だけ。その欠片をあげられるのは上総と彰だけ」
「っ!! なんで!! なんであの二人が!! 」
「2人が紫を愛してくれているから。心底、狂う程に……だから、俺達は紫の特別になったんだ」
「え………………特別って……」
「うん、特別。 抱き締めて口付けて、抱き合って愛を語るんだ、俺達は」
「…………嫌だ…………嫌だ!嫌だ!嫌だ!……いや……」
座り込んだ斎藤白朗を見る。
その顔は今までにない程に悲しそうだ。
「…………シロ、俺はお前も好きだよ。じゃないと1年からつるんでない。でも、それはシロの好きじゃないんだ」
「……………………」
「ごめんな」
「………………嫌わないで欲しい。無理に距離を取らないで」
「勿論だよ、シロ……すこし休んでから教室来いな」
「…………………………ああ」
静かに空き教室から出ると、壁に寄りかかる上総がいた。
ちらりと兄を見ると兄は苦笑する。
「心配したんだ? 」
「まぁね? 碧が元気無いと紫ちゃんが心配するし? 心配しすぎると彰も泣きそうになるから? 」
「ふふ……流石お兄ちゃん」
「……大丈夫か? 」
「まぁ、ね。1番仲が良かったシロが俺を好きなのも分かってたから。 紫と付き合ってるのを知って気持ちをズルズル残すよりはいいかなって」
「どっちもしんどいけど、区切りは付けれるもんねぇ」
「うん……今でも友達だって思ってるから、そのままにはしたくなかったんだよね……まあ、自己満足からだから、シロを無駄に傷付けただけかもしれないけど。俺に告るように誘導した……軽蔑する? 」
「しないって。シロを思ってだろ? 今は辛くてもシロがさ、友達として碧の隣にいたいならきっと感謝するんじゃない? しらんけどー」
「なんでいきなり関西弁」
「責任持ちたくなーいー」
「まったく」
……いつかまた、晴れやかに笑いあいたい。
紫に対して思う所はあったけど、やっぱり大事な友達に変わりないから。
無理やり引き出されて後悔してるかもしれない。
でも、俺に向けた愛情を宙ぶらりんにはしたくはなかったんだ。
紫の気持ちがわからない期間が長かった俺にとって、狂う程に膨れ上がった気持ちは弾ける寸前だった。
抱えるのもしんどくて、張り裂けないかと願った事もある。でも、どうしても手放せない。
それと似通った気持ちをシロが抱えてるなら、それはとてもしんどいから。
行き着く先がないのなら、1度気持ちをシロ自身に返してあげよう。
それは、少しの慰めでしかないけれど。
「あー、紫に会いたい。ぎゅってしてちゅーして…………舌入れてぐちゃぐちゃに掻き回して、涎が溢れる泣き顔見たい」
「…………碧、それ絶対紫ちゃんに言ったらダメだよ。ドン引きされるって、まじで」
「言わないよ……いつかやるから別にいいの」
「そりゃ俺もしますけど?! しちゃうけど?! 口に出した破壊力やっば!! 彰なら悶絶して死んじゃうよ! 」
「……それ見たいかも。可愛いね」
「…………弟よ、強く生きろ。一緒に見守るからな」
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