[完結]私立東照学園の秘めたる恋~狂った愛の欠片を求めて

くみたろう

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小林青澄の独白

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 秋堂碧の担任である小林青澄は、紫の存在をどうするかずっと迷っていた。
 教師が生徒に向けてはいけない感情に気付いたのは秋堂碧が入学してすぐだった。
 その時から外見的にも内面的にも目を引く子だと無意識に目で追っていたが、同じクラスの斎藤白朗と急激に仲良くなった事に激しいイラつきと焦りがあった。
 それでも碧に個人的な特別は居なかったから、1年を掛けて頼りになる先生を務めた。
 相談は必ず自分にくるように、信頼関係を築いたのだ。
 その1年は、おかしい程に順調だった。
 仲の良い斎藤白朗はいるが、碧にとっては他と変わらないようだ。
 当時生徒会副会長だった有栖川朱寧が夏休み明けの登校後に碧を見つけてからは何度か危ない目に合い、その度に目を光らせて助けに行った。
 どんどん自分を慕い話しかけてくる素直で綺麗な秋堂碧。卒業するまで守り抜き、絶対手に入れる。 
 そう、思っていたのだ。なのに。

「紫、待って。お兄ちゃんと帰ろう」

「うん……? お兄ちゃん友達はいいの? 」

「シロ? うん。それよりも俺と帰ろうね」

「まぁ、私はいいけど……」

 碧が2年になって、妹が入学してきた。
 碧に似た可愛らしい子だとは思うが、随分と冷めた大人しい子だなという印象だった。
 ただそれだけの存在だった妹が、1番の強敵だと知るのはすぐの事。
 誰にでも態度を変えない碧が、妹には見た事ない甘い表情で常に意識を向けている。
 クラスメイトの斎藤白朗すら側に寄せつけない徹底ぶりで妹を守り、かと思えば碧が襲われると何よりも早く助けに来る妹。
 
 なんなんだ、この妹は。

 なによりも大切にしているのは分かった。だが、異常なまでの愛を一身に浴びるこの小さな女の子に小林青澄は激しく嫉妬した。
 そこは自分が居るべき所ではないのか。碧を助けるのは自分だけの筈だ。
 なぜ勝手に碧に触れているんだ。

 どす黒く嫌な気持ちが溢れてくる。

 そんな時だった。補習で妹の紫が現れたのは。
 ゴールデンウィークの休みに兄を連れて補習に来た妹の紫。
 会えたのは嬉しい。だが、気に入らない! 気に入らない!! 
 なんで妹の為に碧が動くのか! 気に入らない!! 

 補習で妹を観察し、無駄に妹の前を通る。
 まさに今気付いたかのように妹の名前を呼びこちらに意識を向けさせた。何時もよりも冷たい眼差しなのは自覚しているが、止められない。
 あんなに優秀な兄がいて、妹は補習かと鼻で笑う。
 その時だ。たまたま見た窓に碧が襲われている姿が見えた。
 妹はそんな俺を訝しげに見たあと、窓を見た。驚愕に目を見開き焦りや怒りが渦巻いた顔をしている。

「っ! 自習していなさい!! 」

 声を上げ皆に伝えて走り出した。
 嬉しかった。妹よりも先に気づいた碧の危機、助けに行ける優越感。
 震える碧を支えて、チラリと見た妹の小さな姿。
 君に碧を守るのは無理だ。
 見せびらかすように補習の教室に連れて行く。
 君が助けられなかった碧を助けたのは俺だ。誰よりも近く助けられるのは、俺なんだ。
 落ちてきた髪を耳にかけてほくそ笑む。
 目を逸らした妹に、1人で勝った快感を感じていた。
 帰りに妹が大事に兄と手を繋いでいたことも、帰宅後からゴールデンウィーク中、妹から決して離れない碧がいた事も勿論しらない。


 そして、ゴールデンウィークや1年の宿泊研修が終わった後、休みの先生の代わりに行った1年の教室には妹がいた。
 自分が勝った妹に、今度は碧への好印象を与える為に丁寧に対応する。
 帰ったら言うんだ。親切な先生だと。碧に素晴らしい先生だと。

 同じく碧が好きな1年が妹の隣で親しげに話す姿にイラつき大人気なく指名して問題を解かせたりしたが、それも可愛いものだろう。
 今、1番碧に近いのは自分なのだから。

 しかし、また妹の存在でその自尊心は崩された。
 誰にも側に寄せないように碧が守っていた妹を抱き締める存在がいる。
 同じ1年の高垣彰。その容姿と、ひとつ上の兄も含めてとても人気のある生徒だ。
 いつの間にか碧の隣にいる兄の上総。その弟が当然のように妹に触れている。
 危険だ。危険すぎる。この兄弟はなんなんだ。
 気付いたら声を荒げていた。
 すぐにでもどこかに行って欲しかった。妹と一緒にいる姿を見たくなかった。
 親しげにスマホを見せる姿も、名前を呼ぶ姿も抱き締める姿も。何もかもが不安で嫌になる。
 まるで子供のような癇癪を起こしているのは自覚しているのに、止められなかった。

 そして、その不安は的中する。
 叱りつける……いや、怒鳴りつける高垣弟を迎えに来たという3人。ああ、なんで碧がいるんだ。
 その時に聞いた話は到底納得なんか出来なくて、理解なんかしたくなくて、なによりも欲しかった顔を高垣兄弟に向けるのが許せなかった。
 
 喪失感だけが胸に重くのしかかる。
 知らなかったのだ。碧がなによりも大切にしている者を、碧と同じくらい狂うほどの愛情と温度で紫を包み込んでくれる人じゃないと、あの輪に入ることは出来ないのだと。
 
 どんなに碧を愛しても、紫を愛せない人に愛は与えられない。
 そんな歪みを理解出来ても実行する事は小林青澄には無理だった。
 だって、小林青澄は常に妹を敵対視していたから。
 愛を与えるなんて、死んでも嫌だったのだ。碧の愛の全てを受け取る紫を愛するなんて、無理だ。
 こうして現実を見た小林澄の1年半に及んだ恋の幕が落ちた。
 
 
 
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