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ギリギリする攻略対象
しおりを挟む最近、連絡手段のある千川黄伊と斎藤白朗からの連絡がひっきりなしに来る。
兄の周りに同じクラスの高垣上総がいるからだろう。あの二人は仲良しだ。
急に出てきた高垣上総は兄と同じくらいに人気で、仲良く話す2人に周りは危機感を覚える。
特に斎藤白朗は同じくクラスだ。それを毎日見るから神経を尖らせている。
目付きの悪い斎藤白朗は、今や殺人鬼のような目で高垣上総を見ているのだが、気付いている高垣上総はこーわい! と笑って弟妹に抱きついてきていた。それはもう、嬉しそうに。ここで言う妹とは、勿論私の事だ。
「なぁーんか睨まれるんだよね。嫌われてるなぁ」
あっはっは! と笑って言う高垣上総は兄の肩を叩いている。 しかし、微妙な寂しさが浮かぶ笑顔だ。
そんな高垣上総と兄を見ていた私はというと、高垣彰にくっつかれている状態でスマホ返信中。
流石寂しがりの甘えん坊末っ子、私に絡みつく率が1番高いのは彼である。
連絡が来る相手は千川黄伊と斎藤白朗。休み時間の度に連絡がくる。千川黄伊、お前同じクラスだろう。
多分、何度も私のところに来て変な噂を流したくないのだろう。兄が好きだから。
なんて自分勝手なのだ、私の休み時間が潰れる。
「…………ずっとスマホ。僕を見てよ」
「見てる見てる」
「見てない」
「面倒臭い彼女か」
「もうそれでもいい」
「いい訳あるか」
こんなくっついてくる高垣彰、勿論兄の高垣上総も隙あらばくっついてくる、こっちはキス魔でもある。頬は常に人質だ。
そんな2人が私にくっつくのを、兄は穏やかに笑って見ていた。
何か含んでいるとかじゃなくて、本当に嬉しそうに見ているのだ。
妹を盗られるとか、自分の妹に触るなとかの独占欲はなく、本当に幸せそうに笑うのだ。
ただ、この2人限定で、他の人が近付く時は以前にもまして警戒するようになったのはこの間の事も関係しているのだろう。
ゲームでは、兄以外に気を許し好きになったらもれなく鬱ルート発生である。
なら、今はどうだろうか。
恋愛感情ではないが、最近の2人は兄と同じくらい好きだ。
くっつき魔のキス魔な2人は私を溺愛している。
同じだけの気持ちは返せないが、家族以外では同じくらいに好きだ。同じ気持ちは返せないが。だって、兄含めてくっそ重い。
そんな2人を認めた兄。なんだろう、凄く怖い。
この3人のクソ重い愛が、とても怖い。
3人まとめて鬱ルートとか、ないよね? ね?
やめてよ、恐怖すぎて死ねる。
「…………ねぇ、最近ずっと返信してるけど……誰?」
「千川君と斎藤先輩」
「斎藤? 斎藤って斎藤白朗? 」
「うん」
兄の質問に答えると、こっちを見てきた高垣上総。ジリジリ近づいてきてスマホを覗き見る。
兄は見ない紳士だったが、高垣兄弟は堂々と見てくる。いいけど別に。
「………………うわぁ、碧くんについて質問攻め。主に俺について」
「2人とも似たり寄ったり。面倒」
「…………律儀に返さなくていいよ」
「返さなかったら電話くるの。それも面倒」
高垣彰が頭を擦り付けてくる。わかってるからね、サンドイッチ食べてるの。髪にパン屑つく。
そんな高垣兄弟と私を見ながら、兄はうーん……と声を出した。
兄はカツサンドをもぐもぐ中。お昼だから。
「…………とりあえず、紫はスマホ1回置いてご飯にしよう。最近時間ギリギリに急いで食べてるの気になってたんだよね」
「あ、ごめんなさい」
「うん、謝らなくていいからね」
ふわふわ笑う兄に笑い返してスマホを机に置く。
空き教室の床に直接座って食事をする4人。
あの日から、昼は4人で集まって食べている。空き教室とはいってもあの紫が襲われた教室ではない。
スマホを置いたので高垣彰も離れて、もそもそサンドイッチを食べる。
今日は母と一緒に作ったサンドイッチだ。4人分。
高垣兄弟の両親は忙しくほぼ二人暮しのようだ。だから、うちの両親が今ではお弁当を作り夕飯に誘っている。
遠慮しない2人はすぐさま嬉しそうに返事をしたから今では兄弟が増えた感じだと両親が喜んでいる。
「最近シロの様子がおかしいのはわかってたんだけど、まさかそんな頻繁に紫に連絡してたなんてね。そっかぁ、千川くんも」
「迷惑考えないのは困るよねぇ。はい、お茶……ところで千川って誰? 」
「…………ん。サンキュ……移動とかちょっと廊下出た時に紫見たら常にスマホ見てる。千川は紫のクラスのヤツ」
「毎時間? ちょっと……困るね」
私そっちのけで私の話をしている3人。とりあえず放置で。エビとアボカドのサンドイッチうま。
「紫、他には何も無い? 」
「ん?…………特には」
首を傾げ考えてから言う。とりあえず暫くスマホは禁止と兄に奪われた。まじか。
何かあったら高垣彰に連絡をして私に伝える伝達方式になった。いや、いいけどさ。
困惑気味に頷くと、兄2人からいい笑顔が返ってきた。了解、逆らわない。
「彰、紫ちゃんよろしくね」
「ん、わかってる……なんでクラス違うんだろう」
「あ、残念がってる。俺の弟可愛い」
「うん、紫と一緒じゃなくて悲しがってるの可愛い」
「うん、ちょっと兄2人の頭のネジが何本か足りないね」
「………………そう? 」
「あら、弟も駄目か」
「僕、兄がいい」
「あ、話噛み合ってないや」
つり目のキツそうな見た目に反したポヤポヤ天然気味の弟、高垣彰は首を傾げながらお茶を飲んでいた。
「ねぇ、兄2人って言った! 俺も兄だって!! 」
「良かったねぇ上総」
「あ、こっちもポヤポヤしてる……」
向かいで嬉しそうな高垣上総が兄の肩を揺さぶっている。
嬉しそうだし、もういいやと諦めた私は2個目のサンドイッチに手をつけた。
「…………………………あれ、まさかの」
お昼が終わって午後の授業が開始した。
担当の先生が休みらしく、代わりに来たのが小林青澄。そう、兄のクラス担任で攻略対象だ。
彼はあまり学校でエンカウントしなく、補習と外出中に会うことが多い。担当クラスが違うからだ。
そのかわり、良く会うのはライバルキャラの方だった。
その人物は、まさかの保険の先生。襲われた私の話を聞いていた、あの若い先生だ。
何故か保険の先生のサポートキャラみたいになるため、小林青澄の鬱ルート発生率は低い。
無いわけでは無いので楽観視は出来ないが。
「今日は吉田先生が休みだから、代わりを務める小林だ。担当学年が違うからあまり会わないがよろしく」
インテリな見た目の小林青澄が、髪を耳に掛けながら笑いかける。
そんな姿を千川黄伊は鋭い目で見ていた。
このゲームのR指定ではお互い牽制しあっているのだが、どうやら千川黄伊は小林青澄を牽制中らしい。お互いが兄を好きなのはちゃんと理解しているようだ。
小林青澄は千川黄伊を見て一瞬高圧的に笑ったのは、担任だから毎日会えるという優越感だろう。
しかし、そんな千川黄伊の隣の席に私が居るのを見て目を丸くする。
「…………そっかぁ。紫がいるっていうアドバンテージはあるよね」
可愛らしい見た目の割にいやらしい笑い方をした千川黄伊に小林青澄は苦虫を噛み締めた顔をする。
兄が私を溺愛しているのは、兄を好きな人には周知されているからだ。巻き込むな。
ちなみに、ここまでの時間僅か1分。器用だな。
それから授業中たまにバチバチと火花を散らし、問題を解く時に生徒の周りを歩く小林青澄は何度も私の前で止まり質問がないか聞いてくる。
「……大丈夫です」
「そうか」
「なんで紫ばっか気にするの? 先生」
「そんな事はないよ」
にっこり笑う2人に挟まられる私。控えめに言ってやめていただきたい。
不穏な気配はそのうちクラス中が気付き、予定より進まなかったらしい小林青澄は眉を寄せた。
終了のチャイムがなっても予定より終わらない内容にため息を吐いた小林青澄は、渋々号令したのだった。うん。自業自得でその態度はない。
そして終了した瞬間、ある意味事件が起きる。
ガラッと開いた扉には兄大好き高垣彰の姿。
他のクラスの人が入ってきて友達と話をするのは良くある事だが、人気の高垣兄弟の弟、彰はあまり他のクラスには行かない。高垣彰の交友関係が狭いからだ。
そんな人が、授業が終わりまだみんなが座っている時に扉を開けた。注目の的だ。
みんなが黙って見ていると、キョロキョロと見ていた高垣彰の視線は私で止まる。ですよね。
「え、高垣弟? 」
千川黄伊が呟く。兄の高垣上総が兄と仲が良いから警戒しているのだろう。
ポケットに手を入れたままの高垣彰はまっすぐ私の前に来てじっと見てくる。
「ちょっ……高垣弟! 紫は……人見知り! するからあんまり近付かない方がいい! ね? 」
慌てて千川黄伊が立ち言うと、小林青澄もハッ! として高垣彰の肩を掴む。
「ちょっと女子に近いですね 」
「……近い? 」
小林青澄の言葉に首を傾げる。
確かに近い。座る私の足が当たる距離にいるのだ、近いだろう。
でも、普段もっと近いからそんな感じがしなかった。
麻痺してる、あぶない高垣兄弟。こわ。
「…………確かに近い」
「近くない」
ムッとして言う高垣彰に苦笑する。
私からくっつき禁止を言い渡したら絶望しそう。
そして、周りの視線を集める高垣彰に巻き込まれる私。助けてください。
「紫、はい」
スマホを見せてくる。内容に息を吐き出した。
兄からメッセージ。授業中もくるんだけど、いつも? と確認がきている。怒ってそう。
これには高垣彰も微妙な顔をしてるから、多分兄の上総も怒ってそうだ。
「まぁ、そうかな」
「……僕の紫なのに」
「うん、私は私のだわ」
小林青澄の手を払った高垣彰は座る私の首に腕を回してくっついてきた。縄張り意識かな?
膝に行儀良く手を乗せていた私の指がピクリと動く。
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
響く叫び声に離れた高垣彰が顔を顰め、小さくうるさ……と呟く。人気の高垣彰くんだ。そうなるだろう。
他の教室にも声は響いていて、廊下に出てくる足音がバタバタと聞こえる。
「…………こら、大惨事」
「僕のせい? 」
「ちょっ……ちょっと?! なんで紫に?! 」
「高垣くん! ちょっと指導室に来なさい!! 」
「え? 」
「………………うーん」
この騒ぎは一瞬で広まり、2年にも行き渡った。高垣上総は腹を抱えて笑い、兄は眉を下げて困った子だなぁ、と笑っている。
そんな2人、特に兄の姿をみんなは唖然として見ていたようだ。
妹大好きな兄、秋堂碧が妹に手を出されたのに笑っていたと、密やかに話が広まっていた。
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