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これが噂の悪役というやつか……
しおりを挟む乙女ゲームには悪役キャラがいる。
恋愛を盛り上げるために敵対するキャラ、ライバルである。
勿論、この私立東照学園の秘めたる恋~狂った愛の欠片を求めてにもライバルキャラがいる。
自分の好きな人が兄に興味というか、もう鼻血物の攻めにライバルキャラが怒り狂って兄に嫌がらせをする。
良くある学校物や異世界に移動して……なんて設定は沢山あるが、このライバルキャラは外せないスパイスだ。
兄も、色々意地悪をされて落ち込み、それを慰めて…………色事に持ち込まれたりなんかもあったなぁ……
そう、意識を飛ばしている。何故か、それは。
「ねー、聞いてるかな? 」
「…………あーはい」
「……………………本当に? 」
今まさしく絡まれているからだ。
高垣兄弟、この学校で有名な兄弟だ。
私と兄と同じ1つ違いの兄弟で、キラキラしい顔面凶器な兄と、冷静に見せかけた甘えたな弟。
仲良し兄弟で、よく一緒にイチャイチャしているが、あくまで兄弟愛が強いだけ、らしい。
沼の住人はだれも信じていなかったが。
今だって、壁に追い詰められた私の前に立つ2人は腕を絡めている。ご馳走様です。
「…………これ、聞いてないよね」
黒髪サラサラの、片側だけ耳にかかるようにセットされたつり目の弟が顔を寄せて聞いてくる。
顔を寄せる相手、君の兄にしてもらえます? ご飯3杯はいけるから。
「聞いてないねぇ……」
明るい茶髪に染めた猫っ毛フワフワの笑顔が溢れる兄は困ったように私を見る。
ありがとう、あなたの笑顔を真っ直ぐ見れるのはプライスレス。
そう、私の脳内がおかしいのには訳がある。
各キャラに現れるライバルキャラのうち、この2人は別格だった。
多分、運営はこの2人が好きだろうと確信する程のキャラ作り込みに見た目の素晴らしさ。
メインキャラが霞む勢いのキラキラしい2人なのだ。
まったくタイプの違う2人は仲良しで、2人が好きな相手を選ぶと、必ずセットで現れ結託して兄に嫌がらせをする。つまり、2分の1でこの2人が出るのだ。
この世界は貴族な世界じゃないし、BL世界だからこそライバルキャラも男だ。令嬢令息でもない一般人。
つまり、悪役男子生徒である。語呂が悪い。
彼らは本当に人気である。それこそメインキャラ以上に。
そして、ゲームでよくあるモブと呼ばれる周りからの嫌悪感がまるっきりないのも特徴的な2人だ。
今こうして紫が絡まれていても、キラキラ顔面凶器にぎゃん!! となっている以外に困る事がないくらいに2人の好感度は高い。
私も、メインキャラな攻略対象よりライバルキャラな2人のが推せる。
「あのさ、俺達もこんな事したい訳じゃないんだよ? 君を怖がらせる事がしたい訳じゃなくてね? 」
「ただ、秋堂先輩が目障りなだけ」
「あっ! こら!! 妹の前でお兄ちゃんに酷い事言うのは駄目だよ! ごめんねぇ、コイツ思った事すぐペロッちゃうんだぁ。悪気はないの」
「いてぇーって」
頭をぎゅっと抱き締める高垣兄、弟は兄ほど背は高くないが、男子の平均身長はある。
体をグイッと引っ張られ、兄に捕まり倒れないように捕まった弟。
おっと、涎が。腐が湧いてしまう。
「まぁね、 彰が言ったように好きな人が気にかける君のお兄さんがね……ちょーっと、ね? だから君からあんまり近ずかないようにそれとなーく言ってくれないかな? ごめんね、こんな嫌な事頼んで」
未だに弟の彰を抑えている兄の上総。
ありがとうございますと、場違いなお礼は言えないのでお口チャックしながら高垣上総を見上げると、キョトンと私を見る。
「…………あー、うん。うんうん。んー……」
「え? なに……」
「兄貴? 」
何か悩み出した高垣上総に眉を寄せると、弟の彰を離して両手を広げた。
そこには、ゲームで見るレアな甘々の笑顔がある。
「ちょっとギュってしていい? 妹って可愛いかも」
「は……」
「はぁ?! 」
「あ、あれ? 俺怒られてる? ほら、彰だけだから妹って新鮮でねぇ。碧の妹だけど、なんかそれはそれって感じで……ほら、お兄ちゃんだよ? 」
「………………兄は1人だけです」
「あれ? つれない……」
くすん……と泣き真似する兄の上総に弟の彰は頭をガシガシとかいている。
これなんだよ。これが人気を爆発的に跳ね上げた。
兄には冷たい2人が、時折見せる甘さ全開の笑顔、甘やかしたい症候群な兄と甘えたな弟。
ライバルキャラらしくゲームでは冷たさが全面に出すぎるが、この2人の基本的な性格はこっちだろう。 沼る。
私も沼の住民で、兄万歳と言っていたが、それとは別にこの兄弟も大好きだ。
メインキャラどころじゃねぇ、兄弟最高!ハァハァとゲームしていた日々が懐かしい。
ただ、ゲームでこの2人が私に関わる描写はなかった。
サポートキャラな私との接触は一切なかったのだ。
こんなデレデレして私に手を差し出す兄の上総をどうすればいい?
困ったように優しく笑って、私の服を控えめに引っ張り謝ってきた弟の彰をどうしてやればいいのだ。
「………………え、控えめに言って天国か? 」
「ん? 天国? 」
首を傾げるホワホワしい兄の上総を見て頷く。
メインキャラじゃなくてこっちの兄弟とくっつけ兄よ。
この溺愛は、兄を幸せにするぞ。
確実に、メインキャラよりも格上だぞ。
「………………兄をよろしくお願いします」
「あれ? なんかおかしくないかな? 」
「秋堂先輩をよろしくはやだな……」
2人揃って仲良く首を傾げるなんか可愛い兄弟に、思わず笑うと2人はマジマジと私を見てきた。
「……うん、僕仲良くなれる」
「俺も。妹かわい」
いきなり言ってきた2人に驚くが、あ、なんか兄のストーカーな感じに似てるぞ……?
「ねぇ、名前なんだっけ」
「紫」
「お! すごい覚えてるんだ。流石、弟。大好きだ」
「知ってる。隣のクラスだし、秋堂先輩の妹だから僕監視してた」
「………………監視? 」
不穏な言葉が出てきたが、弟大好きな兄上総はらこれでもかと褒めて弟の頭を撫でている。なんだこれ。
「今後も監視するから」
「え……そんな宣言をされても……」
「とりあえず、連絡先交換しとこっか」
「え? いや……」
「しとこっか」
「早く」
「えー……」
笑顔で押しきろうとする高垣上総と、スマホを取り出して準備万端な弟、高垣彰。
何かあればすぐに連絡出来る状態にする気満々だ。
あれ、兄的要素(溺愛ストーカー)が増えるフラグではないか?大丈夫か? これ、また選択肢間違ったか?
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