[完結]兄さんと僕

くみたろう

文字の大きさ
上 下
9 / 9

おまけ

しおりを挟む

 性分化が終わり体調が落ち着いた為、莉央は学校に登校した。
 綾人は莉央に気付き、薬を飲んでいるにも関わらず溢れる色気に目を見開きコクリと生唾を飲み込む。

「…………香苗おはよう」

「莉央!おはよ……うっわ、あんた可愛いわね」

「…………家族に散々言われたよ」

 はぁ、と溜息を吐き出してから香苗にフワッと笑った。

「アトマイザー、ありがとう。凄い役にたったわ」

「そっか、良かった…………辛いもんね凄く……」

「…………うん、辛くて堪らなかった」

「だよね…………あ!」

 香苗もあの地獄の時間を知っていて、終えているのだ。
 2人は顔を突合せて頷いている。
 そんな莉央を見て声を上げた香苗は莉央の腕を掴み引っ張ると、耳元で囁いた。

「あの数日、お兄さん大丈夫だった?」

「…………あー」

「まさか!」

「いやいや!違うよ!…………兄さんは僕を気遣ってくれてたよ、ずっと」

 それはそれは幸せそうに笑って言った莉央に香苗はあら?と目を見開き、ニヤニヤと笑った。
  
「…………ふぅーん、莉央ったらそんな幸せそうな顔しちゃってー」

「え?なんか変!?」

「いやぁ、お兄さん、もしかして莉央の番かもね」

「な!なななな何言ってるの!?」

「………………なんだ、心配する必要無かったね。良かった」

 莉央の雰囲気や兄の気遣いがあったと聞き香苗は安心した。
 あの状態のΩを見たαがよく我慢できたなと香苗は思う。
 それだけで十分な気遣いであるのだ。

「あとさ、これ」

「香水?柑橘系の……」

「兄さんに香苗の話したら、オススメって……僕の事考えてくれたから嬉しかったらしい、ありがとうって渡してだって……ただ、僕とお揃いになるんだけど嫌じゃなかったら」

 新しい箱に入った柑橘系の香水。
 こんな匂いだよ、と手首を差し出すと香苗はスンスンと匂いを嗅ぐ。
  
「…………わぁ、やばい。莉央のお兄さんスゴすぎ。ありがとう、アトマイザーのお返しがこんな凄いのなんて……お礼言っといてね」

「良かった気に入ってくれた。言っとくね」

「莉央、絶対お兄さん逃がしちゃだめだよ!」

「………………もー」

 2人のΩが顔を近づけ笑い合う衝撃の可愛さにαだけでなくβも未分化も、全てが2人を見ていた。
 ゴクリ……と喉を鳴らすα、そして綾人は真っ直ぐに莉央を見ている事に気付き香苗はびくりと体を震わせ莉央の腕を掴む。
  
「り、莉央……綾人に気を付けてね……莉央が休みの時から綾人あんたの話ずっとしてたから」

 青ざめて言う香苗に、莉央は、あ!と声を上げてまた鞄を漁った。
 そして笑顔で取り出したのは凶器だ。

「これも兄さんから。香苗のも用意してくれたよ!防犯ブザーと催涙スプレーにスタンガン!ほら、キーホルダータイプの小さいのだから携帯に便利だよって」

 これは皆に聞こえるように言いなさいと里美に口酸っぱく言われた為、自己防衛だとクラスメイトに聞こえるように言った。

「あと抑制剤のピルケースだってさ」

「……莉央のお兄さん徹底してるね。私は嬉しいけど」

 「もしもの時は遠慮しないで一思いに殺りなさいって言ってたよ」

 「殺りなさい、ね」

 苦笑して話す香苗に莉央は満足そうに笑ったが、里美を知る綾人は苦虫を噛み潰したような表情をして莉央を見つめていたのだった。

   「……里美さんに渡したくない」

    ほの暗く呟き親指を噛み締める綾人だったが、里美の鉄壁のガードと、莉央自身が綾人に少しも心を傾けなかった事により、幼い初恋は泡と消え、綾人は暫く泣き暮らすことになるのだった。





 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

オメガ嫌いなアルファ公爵は、執事の僕だけはお気に入りのオメガらしい。

天災
BL
 僕だけはお気に入りらしい。

恋のキューピットは歪な愛に招かれる

春於
BL
〈あらすじ〉 ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。 それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。 そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。 〈キャラクター設定〉 美坂(松雪) 秀斗 ・ベータ ・30歳 ・会社員(総合商社勤務) ・物静かで穏やか ・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる ・自分に自信がなく、消極的 ・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子 ・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている 養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった ・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能 二見 蒼 ・アルファ ・30歳 ・御曹司(二見不動産) ・明るくて面倒見が良い ・一途 ・独占欲が強い ・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく ・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる ・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った 二見(筒井) 日向 ・オメガ ・28歳 ・フリーランスのSE(今は育児休業中) ・人懐っこくて甘え上手 ・猪突猛進なところがある ・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい ・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた ・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている ・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた ※他サイトにも掲載しています  ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です

処理中です...