[完結]兄さんと僕

くみたろう

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「…………ん……あれ」

 ゆっくりと目を開けた莉央は、あのどうしようもない熱が無いことに気付いた。
 両手を見て、ぐっぱーと動かすが違和感はない。
 部屋も綺麗に片付けられる柑橘系の香りが漂い頭がすっきりする。

「…………あれ、着替えてる」

 あの時、里美のお下がりの上の服を1枚着ていただけのはずが、体は綺麗に吹かれていてしっかりと服を着ている。

「………………あ……あああああ……兄さんんんん!」

「なんだ?」

「わぁ!!」

 真っ赤になった顔を両手で覆って俯くと、扉が開き里美が顔を出す。
 びくん!と肩を跳ねさせて見ると、普段と変わらない里美がそこにいた。
 ふんわりと笑い部屋に入ってくる里美に、莉央は戸惑いシーツを口元まであげる。

「に!!にににににいさん!!」

「に、多くない?」

 喉の奥でクッと笑った里美はすぐに莉央のベッドの端に座り頬を撫でた。
 明らかに変わった体は艶めいて甘く、頬も吸い付くような手触りに里美は手を離しがたいな……と思った。

「…………体は大丈夫か?体調が悪いとかは?」

「な、ない……よ」

「そうか、良かった。飯作ってるけど来れるか?」

「う……うん」  

「じゃあ、下おいで」

「に、兄さん!!僕……」

 離れて部屋を出ようとする里美を慌てて引き止めた莉央の声に振り向くと、真っ赤な顔を見て苦笑する。

「莉央、大丈夫だ。未分化最後はあんなもんだ……Ωはな。ちゃんと飯食って、今日は病院だぞ」

「病院……そっか」

「下で待ってる。もう少ししたら母さん達も帰ってくるから」

「………………うん」

 βの両親は、未分化最後の莉央を思って里美が頼み家を数日出ていて貰っていたのだ。
 たった2~3日とはいえ、ヒートに近い状態を、その声を両親に聞かせるのは忍びなかったのだ。
 何より莉央が気にしたら困ると莉央を優先した里美に両親は快く快諾する。

 ここで、両親から間違っても莉央に手を出さない事!と強く念を押された里美は苦笑しながら頷いたのだが、ある意味その両親の言葉が無ければ莉央の誘惑に負けていたかもしれないと里美は思うのだ。
 所詮、大事な弟だと言っても里美は‪α‬で莉央はΩ、その本能はなかなか覆せない。
 里美にとって莉央は特別だから尚更だ、昨日の姿を今後何度も見るなら、もう抑えることは無理だと自分でも理解しているくらいに。



  

「ただーいま!!莉央ー!大丈夫!?」

「あ……母さん……」

「……大丈夫そうね。はぁ、仕方ない事とはいえ心配したぁ」

「ごめん……父さんは?」

 明らかに変わった可愛らしい莉央に、母はかわいーわね、あんた!と、むぎゅ!と抱きしめられ女性特有の柔らかさに包まれる。
 安心する匂いにほっとする莉央に母はいい子いい子と頭を撫でた。
 普段だったら絶対逃げる所だが、今はそれが何より安心する。

「真っ直ぐ仕事よ。なるべく早く今日は帰るって言ってたわ。里美も莉央をありがとうね……あんた大丈夫?」
  
「…………まぁ、ね」

 苦笑する里美に、母は的確に察知した。
 
 あ、手を出したけど最後は我慢したわね。

「………………よし、里美もえらいえらい」

「なんだよそれ」

 莉央ごと里美も抱きしめたが、今では母よりも大きな里美。
 胸に飛び込む形で来た母と弟を苦笑しながら抱き留めると、里美は優しく莉央の背中を撫でる。
 その感触が昨日を思い出しビクリと体を震わせた。
 声を我慢した莉央は真っ赤な顔で、潤む瞳で里美を見る。

「…………里美くん、今莉央に何かしたかしら?」

「…………冤罪です、何もしてない」

「に、兄さん!仕事は?」

「あ、時間すぎる。行ってくるわ、母さん病院の結果出たら連絡して」

「はいはい、わかった。まったく過保護ねぇ」

 慌ただしく家を出る里美を見送った2人は、用意された朝食を前に手を合わせた。
 もう病院が行く時間が迫っている。
 せめてシャワーは浴びたいと急いでいる莉央を母は眺めていた。



「…………貴方の第2の性はΩですね」

「……………………そうですか」

 間違ってせめてβとか言ってくれないかなって思ったけど、やっぱり莉央の第2の性はΩで確定した。
 血液検査や体を隅々まで確認され、そんな所まで確認するの?
 という所まで見られたのだが、欠陥品になっていないかの確認でもあったのだろう。

 莉央は医者とはいえ知らない人に体を見られ嫌な気持ちを我慢しての検査となった。
 結果的には身体的にも問題のないΩとして太鼓判を貰うこととなった。

「こちらがヒート時の薬になります。種類は様々ありまして、比較的副作用の少ないものと、効きの悪い時用にこちらも出しておきますね。大体3ヶ月置きにヒートが来るので薬で抑制をしてください。体の変化の時に現れた症状によく似たものがヒートです。もし、‪α‬と体を重ねる場合は項に注意してくださいね。そこを強く噛まれると番として成立します」

「……………………番」

「はい、生涯を共にしたいと思った相手に噛んでもらって下さいね」

「……………………はい」

 先生は物腰の柔らかな男性だった。
 穏やかに笑って話しをするのだが、莉央は俯き返事をするだけだ。
 先生は苦笑をしてカルテを机に置いてキィと音を立てて椅子を回した。
 きっと莉央みたいな患者も多く見てきたのだろう。

「…………久我原さん、男性のΩ化は近年女性よりも多くなっていると言われています」

「………………え?」

「最近、学会からの発表で、元々少ないΩ化は女性よりも男性の方が多くなっているようです。体力が女性よりも多く出産に耐えれる方が増えたことによる変化とも言われていますが、男性を番にと希望する‪α‬が増えた事にも原因があると言われていますよ」

「‪α‬……が?」

「はい、実際に‪α‬の方が気になる男性が性分化でΩになっている人はかなりの人数いるみたいです…………もしかしたら、貴方のそばにいる‪α‬が貴方と生涯寄り添いたいと思っているかもしれませんね」
  
 先生は微笑み人差し指を口に当てた。

「実は私のパートナーのΩは幼なじみの男性でして、この話も全ては嘘では無いかなと思っています。Ωになる前の彼は‪α‬のような人だったから、Ωになって驚いたものですよ……私は強く願っていたんです、α‬になってから彼がΩにならないかなって……初恋だったもので」

 フフ……と笑って内緒ですよ、と先生は教えてくれた。

「…………近くにいる‪α‬」

「あー……」
  
 莉央は悩み、母は納得したように頷いた。
 莉央の1番近くは里美だが、幼なじみの綾人も‪α‬性になった。
 そういえば何度も番の話をされたっけ、と思い出し、ぞわりとする。

「まずは最初のヒートまでの3ヶ月、体調を見てください。変わったばかりですから、体の変化は落ち着いていません。いきなりヒートに近い体調になる事もあります、その時は無理せず薬を飲んで安静にしてください。最初のヒートを迎えたら体調は自ずと落ち着きますからね…………ちなみに、ご自宅に‪α‬の方はいますか?」

「この子の兄が‪α‬です」
  
「……………………なるほどなるほど。では合意の無い体の交わりや項は注意してくださいね」
  
「それは見ておきます」

「はい、では性分化の確認はこれで終了です。質問はありますか?」

「いえ…………あの、ヒートは……その、3ヶ月事に毎回なるんです、よね?」

「はい、3ヶ月事に大体5日~7日くらいですね。‪α‬と交わるとヒート期間は短くなりますよ」
  
「ま!…………交わる……」

 真っ赤になった莉央を見て先生は優しく笑った。

「最初は戸惑うから無理に、とは言わないですよ。ただ、体の辛さは見ていて分かりますからね、無理のしない選択をしてください」

「は……はい」

「では、また何かありましたらお越しください」




 性分化や、第2の性についてはかなり繊細なひとつの分野として確立している。
 特に初めて第2の性を知る15歳の検診では細かく内容を知らせ不安感を少しでも無くそうと手を尽くしてくれるのだ。

「……莉央、大丈夫?」

「うん、まぁ」

「ねぇ?お兄ちゃんの事なんだけど……怖くない?大丈夫?」

「え?…………怖くないよ、それよりも……」

「ん?」

「…………大丈夫、なんでもない」

 母の心配に首を振った莉央は真っ直ぐ家へと帰ったのだった。 
 
 里美を怖いなんて無かった。
 それよりも、兄を性的対象として見て望んでしまった自分に嫌われないかとだけ思っている。
 兄弟での番も珍しくはないが、兄はとても綺麗で人気な‪α‬なのだ。
 あのそばに居てくれていた甘い里美を知った今、他を見れる自信もなくこれからの人生に悩み出す莉央は周りから見たら、憂いを帯びた美少年である。
 周囲の鋭く欲を含む眼差しに莉央以上に母が心配になっていた。
 
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