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5日前
しおりを挟む着々と未分化期間が終わりに近づく中、学校に登校した莉央は活発に笑っていたあるクラスメイトの姿に持っていた鞄を落としてしまった。
莉央と近い誕生日で、数日先に15歳になる東香苗はショートカットの笑顔が似合う女の子だった。
数日前から未分化の期間が終わりを迎える為、体調不良を訴え休んでいたのだ。
そんな香苗が性分化を終わらせ登校してきた。
むせ返るような女としての性を全面に押し出し、魅力を跳ね上げた香苗の姿にα性へと変わった数人の男女がゴクリと生唾を飲み込む。
「か……香苗、Ωだったの?」
仲の良い友達が緊張しながら聞くと、艶やかな髪を揺らしながら香苗は振り向き友達を見た。
「………………そうだったみたい」
ヘラっと笑って言ったが、香苗の手はカタカタと震えていた。
性分化が終わったのに香苗はなかなか登校して来なかったのは、Ω性に絶望していたからではないだろうか……
そう莉央は思った。
あんなに活発に動いて笑っていた香苗は、今や少し怯えを含んだ愁いを帯びた表情をしていて、それが思春期のα性に変わったばかりの生徒を刺激する。
奇しくもこのクラスのΩ性は香苗が初めてだったのだ。
「…………すげぇな、Ωってこんなに違うのか」
溢れ出す色気は、まだ思春期の体が出来上がっていない今だからこそ、未熟な中でのアンバランスなΩ性がある種の麻薬のように、香苗を性の対象として見てしまう。
ゴクリ……と生唾を飲み込んだ幼なじみもα性だ。
その堪え性のない性への欲求も、変わったばかりの体と本能がせめぎあっている。
時期的なものもあるのだ、α性に変わったばかりの15歳は急激に来る性への高まりに抗うのは難しい。
そんな幼なじみの綾人も今までにないギラギラとした表情に莉央は気持ち悪いと腕をさする。
今まで見慣れていた綾人が、まるで別人のように見えたのだ。
香苗のそんな姿はこのクラスだけでも数人のαの目を攫ているのだから、15歳の誕生日から外を歩く度にあんな視線を集めていたのだろう。
性分化したばかりの体はまだΩとしての体に慣れるには時間がいるようで、香苗はそんな思春期真っ只中の精神が安定していない状況の中、如何わしい眼差しで見られていたら外にも出たくないだろう。
「………………なあ、香苗はΩになったから番はどうすんだろうな」
そんな少し離れた場所にいる男子の色を含んだ下世話な声が聞こえ莉央は顔を歪めた。
明らかに戸惑いや不安を隠していて今までと様子が違うのは見て分かるのに、ニヤニヤとそんな事を話している。
もうこのクラス中がΩに当てられているとしか言えなかった。
「莉央?どうした?」
「…………別に、なんでもない」
「おい、なんでもないって顔してないぞ?」
「なんでもないってば!」
「あ……なんだよ」
手を伸ばし莉央の額にふれた綾人の手を払った事に不機嫌になったらしくく唇を尖らせている。
とにかく気持ち悪かった、不愉快だった。
そして香苗が不憫だった。
「……………………いやだな、なんでこんなに気持ち悪かったんだろう」
鳥肌のたった腕をさすり早く帰りたいと念じていた。
そんな莉央を綾人はまだ不機嫌そうに見ている。
「………………なんだよ莉央のやつ」
「………………ただいまぁ」
「おかえり」
「兄さん!ねぇ、こんなに早く帰ってきて大丈夫なの?」
靴を脱ぎながら聞くと、にっこり笑った里美はまるで当然のように鞄を持ち2階に上がって行った。
「大丈夫だよ、心配すんな」
そう言いながら。
うがい手洗いを済ませ部屋着に着替えた莉央はふぅ……と息を吐き出しベッドに座った。
朝、香苗を見てから妙に体がうずくのだ。
「なんだろう、ムズムズする……兄さんに聞くかぁ」
うーん……と悩み、座ったばかりだがすぐに1階に行こうと部屋を出た。
「………………なにしてるの?」
「ん?莉央の体調がまだ良さそうだから一緒に食べようかと思って」
シンプルなエプロンを着けた里美がオーブンの前に立ち中を覗いていた。
隣に行き見てみると、カップケーキらしくじんわりじんわり膨らんでいるのがわかる。
甘い香りが部屋を充満させていき、里美の香りと混じり合う。
「え、兄さんお菓子なんか作れたの?」
「カップケーキくらい作れるよ。ホットケーキミックスだけどね」
得意げに笑って腰に手を当てている里美を見たが、使い終わった台所は片付けてないようでぐちゃぐちゃのまま放置されてた。
莉央はツンツンと里美の背中をつつくと、振り向く。
「…………あれ」
「……………………あー、母さん帰るまでに片付けないと殺されるな」
「今日早番だからもうすぐ帰ってくるよ」
「え!?マジ!?やば!」
里美はオーブンから離れて汚した台所を片付け始めた。
思わずクスリと笑ってから冷蔵庫を開けると午後の紅茶が入っていてラッキーと呟く。
「紅茶でいいよね」
「あ、ありがとう!」
「いいよ……あのさ、カップケーキありがとうね」
照れながら感謝を伝える弟に兄は苦笑した。
「照れ屋だなぁ」
丁度出来上がり、置いてあったミトンを使って天板を出すと、チョコのマフィンがふっくらと膨らんでいた。
綺麗な形に膨らんだそれを小さな布巾で持ち、アチアチ……と言いながらテーブルに運ぶ。
ふーふー……あむっ……と食べたカップケーキはチョコがゴロゴロ入っていて莉央の口内は幸せでいっぱいになった。
アツアツのカップケーキをふーふーしながら食べ続ける莉央を見た里美は思わず小さく笑うと、チョコを口につけた顔のまま見る。
「………………なに?」
「いや、うまいか?」
「……………………美味いよ」
隣に座り莉央を覗き込むと、里美は息が止まる程の衝撃を受けた。
目を伏せ素直に言う莉央からふわりと香るΩの香りに目を見開く。
グッ……と里美の体が一瞬で熱くなり、はっ……と息を吐き出すと、莉央がこちらをじっと見ている。
「……兄さんどうしたの?顔が赤い……あ……い」
「大丈夫だから今は触るな……莉央、今日学校で何かあった?」
手を伸ばしてきた莉央を片手を上げて止めた里美は頬を上気させながら聞くと、艶々に変わってきた髪を払いながら困惑気味に首を傾げた。
「何かって……?」
「いつもと違う事……とか?」
「え……性分化が終わった子が登校してきたくらい」
「……………………Ω?」
「うん……なんでわかったの?」
「……なんとなく」
なるほど……と頷き前かがみになっている里美は自分の髪をかきあげた。
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