アルと魔法の杖

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アルと魔法の杖【前編】

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『アル』は昔からよく泣く子でした。
痛いものは大嫌い、苦いものも大嫌い、人と話すのも苦手…。
そんなアルはいつもおじいちゃんと2人っきりの、この家に閉じこもっていました。
大嫌いな掃除もしてくれて、アルの嫌いなものは作らずにいつも美味しいご飯を用意してくれて、どんな事があっても怒らない。
アルが転んで泣いてしまったら優しい声で「大丈夫かい?薬を塗ってあげよう」と言ってくれる。
そんなおじいちゃんが大好きでした。

ある時、アルはおじいちゃんから1本の杖を貰いました。
「おじいちゃん、この杖はなぁに?」
アルが聞くと、おじいちゃんはこう答えます。
「それはな、魔法の杖じゃよ」
「魔法の杖?」
「そうじゃ、アルの願いをなんでも叶えてくれる杖だよ」
アルは「嘘だぁ」と言って杖をおじいちゃんに返します。
でもおじいちゃんは、
「嘘じゃない、試しに杖を振って願いを言ってごらんなさい」と言ってアルに杖を持たせました。
アルはしぶしぶ「じゃあ…ここにホットケーキを持って来て」と願いを言います。
でも、ホットケーキは出てきません。
「ほらぁ、やっぱり出てこないじゃないか」
そうアルが言うと、「違う違う、この杖はな明日になると効力が出るんだ」とおじいちゃんは言いました。
「明日?」
「そうじゃ、そりゃ魔法の杖だってその一瞬は辛かろう?」
おじいちゃんの言葉にアルは納得します。
「じゃあ、明日になったらここにホットケーキがでるんだね?」
「あぁそうじゃよ、こーんなに大きなホットケーキが出てくる」
とりあえずアルはそのおじいちゃんの言葉を信じて明日まで待ってみることにしました。

次の朝、アルが起きるとなんと昨日杖を振った所に天井につきそうな程積み上げられたホットケーキがあるではありませんか。
それを見たアルはびっくりして飛び起きました。
そして、真っ先におじいちゃんを呼びました。
「おじいちゃん!ホットケーキが!!!」
そのアルの声におじいちゃんも駆け付けます。
「言ったじゃろう?これは魔法の杖だと」
おじいちゃんは笑顔でアルに話しかけます。
「凄いやおじいちゃん!ねぇねぇ、これって他のお願い事もしていいの!?」
「あぁ良いよ、何回でもどんな願いでも叶えてくれる魔法の杖だからね」
アルは興奮しながら今度は「沢山のケーキが欲しい!」と言って杖を振りました。
そしてその夜、アルはワクワクしながら眠りにつきました。

朝になり、昨日杖を振った所を見に行くとアルの願い通り、沢山のケーキがありました。
「うわぁ!僕の大好きなケーキが沢山ある!」
アルは1個、2個、3個…と目の前のケーキを次々と食べて行きました。
「うん、どれもとっても美味しい!でも…これ以上は食べれないや…どうしよう…そうだ!おじいちゃんにあげればいいんだ!」
そう言ってアルはおじいちゃんの部屋に行きました。
「おじいちゃん!……あれ?まだ寝てるの?」
いつもはアルよりも早く起きるおじいちゃんがまだ寝ていました。
「ねぇ、おじいちゃん起きてよ」
アルはおじいちゃんの体を揺すって起こそうとします。
「アルか…どうしたんじゃ…?」
「あ!おじいちゃんおはよう!」
「あぁ、おはよう、、、して、どうしたんじゃ?」
「そう!昨日お願いしたケーキがね!たーくさんあるの!僕もう食べれないからおじいちゃんにあとはあげるね!」
そう言い残して、アルは自分の部屋に戻りました。
その言葉を聞いたおじいちゃんは慌ててアルを追いかけます。
「アル、自分が頼んだんじゃろう?ちゃんと食べないと…」
「だって僕もうお腹いっぱいなんだもん!それに、魔法の杖でいつでも出せるから良いでしょ?」
「じゃがアル…」
「もう!僕これからまたお願いするんだから!邪魔しないで!」
そう叫ぶとアルはそのまま部屋のドアを閉めてしまいました。

それからというもの、アルは何かある度に魔法の杖を使ってお願いをするようになりました。
おじいちゃんがいくら止めてもアルは言う事を聞きません。
そして、アルは今まで以上に部屋から出なくなりました。
ご飯の時間になっても部屋から出ず、魔法の杖で出したケーキや、アイスや、あまーいお菓子達を気が済むまで食べていたのです。

おじいちゃんがアルに魔法の杖を渡して3ヶ月が経った頃です。
いつも通りアルは魔法の杖にお願いをしました。
「今日は大きな大きなホットケーキが食べたいや!ホットケーキよ出てこい!」
そうお願いをして、アルは眠りにつきました。

朝になり、アルが目を覚ますといつもは出てくるはずのホットケーキがありません。
「あれ?僕昨日ホットケーキを頼んだはずなんだけど…」
アルは不思議に思いました。
なぜ、ホットケーキが出なかったのでしょうか。
「おじいちゃんに聞いてみよう」
アルはおじいちゃんに魔法の杖の事を聞くために久しぶりにリビングに行きました。
アルにとってこの部屋は1ヶ月ぶりです。
「おじいちゃ……」
リビングに行ってもいつもはこの時間にはいるはずのおじいちゃんが居ません。
「おじいちゃんまだ寝てるのかな…」
そう思いアルはおじいちゃんの部屋に行ってみることにしました。
「おじいちゃーん、起きてる?魔法の杖が…」
アルはおじいちゃんの姿を見てびっくりしました。
なんとおじいちゃんが倒れていたのです。
アルは慌てておじいちゃんの身体を起こしました。
「おじいちゃん!どうしたの!?」
声をかけてもおじいちゃんはピクリとも動きません。
それどころか、苦しそうな様子もなく、熱がある様子でもありません。
ただただスヤスヤと眠っていたのです。
「おじいちゃん…?」
でも、おかしいのです。
アルが話しかけても身体を揺すっても、おじいちゃんは目を覚まさないのです。
「ど、どうしよう…お医者さんに…」
そこでアルは止まります。
そう、アルは1人で外に出た事が無かったのです。
「僕…1人でなんて…」
それもそのはず、アルはおじいちゃん以外の人と話すのは大の苦手なのですから。
「でも……」
アルは考えます。
この辺りにはお医者さんは来ません。
「………」
もう魔法の杖は使えません。
アルは自分の足でお医者さんを呼びに行く他手段がないのです。
「…おじいちゃん待っててね、僕、お医者さん連れてくるから」
アルはついに決心しました。
おじいちゃんを助けたかったのです。

アルは急いで家を飛び出しました。
一刻も早くお医者さんを連れてくるためです。

もう日が沈んできています。






    
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