つながる電話

世竹ナコ

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思い出の中に

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ガチャ

「……ただいまー。」

何か返ってくるわけではないのに、必ず言ってしまう。
僕は、ため息をつきつつ、携帯を取り出しながら、荷物を下ろし、ソファーに腰を掛けた。

(特に連絡なし…か。)
携帯を置き、冷蔵庫を漁りにキッチンへ
特に何も無いので、お茶を1杯コップに注ぐ。

ゴクリッ

♫~(着信音)

相手は分かっている。
パタパタと足早に音の鳴る方へ向かう。
素早く持ち上げ、画面をみる。
やはり、見覚えのある名前。親友だ。

「もしもしー。どうしたー?」

「うん、そっかそっか、お疲れー。おー、こっちは、さっき……」

ーーーーーーーーーーーーー

「ん?あー、高校の時の?あんまり覚えてないなー。そうだっけ?」

ザザ、ザザザ

嫌な音がした。

「…………もしもーし??」

応答は、ない。電波の悪いところにでもいるのだろうか。
いや、ありえない。
お互い家にいる。
しかも今は、無線LANというものでWi-Fiをビュンビュン飛ばしているのだ。
とりあえず一度かけ直そう。そう思い耳から小さな箱を退ける。
タップして画面をみる。

なるほど、飛んでいるはずのやつらを捕まえられなくなったらしい。
トラブルだろうか。まあ、なんでもいい。そのうち復活するはずだ。

僕は以前、家で圏外になることなど、普通のことのように何度も起こった。その時は、携帯が古くなっていたせいだった。
今回も同じ様な類だろう。

………いやいや、それは違う。僕の携帯は先日購入したばかりの新品だ。そんなことはありえない。
新品で不備が生じてはショックが大き過ぎる。
頭を抱えながら、携帯を見ていると
ふと、聞き慣れた騒がしい話し声がどこからかしてきた。
外には、誰もいない。テレビも付けていなかった。
声の聞こえるところを探すと携帯がある。
幻聴だろうか……

ザザ、ザザザ

さっきと同じ音。その音を聴きながら意識が遠のく
ザワザワ話す声が大きくなってきた。ゆっくりと目を開けてみると、懐かしい風景が広がっていた。高校卒業前まで見ていた景色だ。振り返りよく見れば制服を着ている。
さっきまで電話していたはずの親友も。

「なんの話ししてたっけ?」

僕は何故か、そう言った。

「席替えの話だよ?」

どうやら僕が今座っている席の前の席の話、つまりは、『席替えをする前の席』について話をしているようだ。

なぜそんな話しを始めたのかについては、触れないでほしい。
おそらく、特になんの理由もないだろうから。

僕は、戸惑いながらも僕らを2人を抜いた、36人を1人1人座らせていくことにした。顔と名前が一致しない人や、顔すら出てこない人もいた。

僕は、かなり楽しんでいた。
思い出の引き出しを開けて出して閉まってを繰り返し、徐々に埋まっていく席を見るのは心地が良い。
時間を掛けてクラス全員を座らせた。

僕は、思わず、喜びの声を上げた。
電話を耳に当てペンを持ち、同級生の名前で埋まった紙の中の小さな四角を眺めながら。
電話口から親友の声がしてきた。

「あれー?なんの話だっけ?」
「なんか、人がいっぱい居たような…寝てたのかな??」

僕は、少し笑いながら

「席替えの話」

と、だけ答えた。

久しぶりの電話。
もう、2時間を過ぎている。
あっという間だ。
そろそろ、終わるかと思ったが、次は高校卒業前の席について話すようだ。就寝が何時になることやら。だが、悪い気はしない。むしろ、ワクワクしている。
僕らの話が尽きることはない。





ーーーーーおわりーーーーー
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