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四杯目 火竜討伐
第3話 ラーメン屋、火竜と自分のやり方で戦う
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■火山のふもと
火竜の巣の近くであるふもとにまで来ると、熱気がすごかった。
最後の休憩を取り、班を編成して対応するとアルヴィンが言っている。
俺はキッチンカーの機能で入手できるようになった【運動でよく飲む清涼飲料水】を大量〈アイテムボックス〉に入れて、討伐隊の参加者に配った。
「普通の水よりも美味いな」
「汗をかいているからだな、体が塩っけとかを求めているんだ」
アルヴィンにかいつまんだ説明をしつつ、ゴミは回収していく。
俺ができることなんて、こんな雑用レベルのことだ。
「それじゃあ、行ってくる」
「ああ、俺がどうこうするわけじゃないけどな……」
「そうそう、後方支援部隊の護衛は私達【夜鴉】にお任せよ」
「本当なら、最前線に行って貰いたかったんだがなぁ……」
「何かあった時に瓦解するから私達って決めたでしょ。ほら、さっさと行った行った」
領主相手ではあるものの、ここでは冒険者としての付き合いのためかアルヴィンとカリンのやり取りは親戚のおじさんと姪っ子といった雰囲気を醸し出している。
アルヴィンは冒険者チームを3チームほど引き連れて、火山の中へと入っていった。
「まぁ、それにね……私達黒髪じゃない? こういう大事な作戦の時は縁起が悪いって思う冒険者達もいるのよ。これは領主様には秘密ね」
「なるほどな……よっぽど、前に異世界へ来た日本人はやらかしたらしいな」
アルヴィンを見送ったあと、カリンが俺に伝えた言葉が重くのしかかる。
ザビーネとの今後をどうするかということだ。
確かに慕ってくれているようだが、俺がザビーネを貰って幸せにできるのかアラフォーになってもまともに恋愛をしてきたことのない俺では判断がつかなかった。
「グギャァァァァオウ」
大きな唸り声のようなものが上空から聞こえてくる。
後方支援部隊と、その護衛や斥候をしていた冒険者達が一斉に空を見上げた。
空を我が物顔で羽ばたく、巨大な存在が目に映る。
誰かが叫んだ。
「ドラゴンだぁぁぁぁぁ!」
可能性としてはあったはずだが、実際に目の当たりにしたことで、混乱する冒険者達の方が多い。
冷静なのはカリン達【夜鴉】のメンバーくらいだ。
「作戦の当てが外れたな……ますます黒髪は不吉とかいうジンクスが広まりそうだ」
「随分と余裕ですのね。慌てふてめくよりかはいいですけれども」
俺が火竜を見上げていると、セシリアさんが驚きとも呆れともいえない表情をしているのが視線の端に映る。
そうしていると、セシリアさんが防御の魔法〈土魔法:大地壁〉を張ってくれた。
「中から出ないでくださいね?」
土壁に覆われ、上部しか空いていないところへ集められた俺達は戦闘の様子を音や声だけでしか確認できない。
セシリアさんは〈風魔法:飛行〉で上に飛び、援護で魔法を火竜に撃ち込んでいた。
「グリュゥゥウォォアァァ!」
地鳴りを起こすような叫び声をあげた火竜が炎のブレスを吐いて、あたりを焼き尽くす。
土壁の中までは届かないが、生きた心地がしないのは俺だけではないだろう。
俺の腕をザビーネがぎゅっと掴んで体を寄せてきた。
それにこたえるように俺もザビーネを抱きとめる。
「全然武器が通らないっ! なんて硬さなの!?」
「魔法を付与して攻撃しても大して効果がないのはずるいんじゃないかねぇ……」
姿は見えないが声だけが聞こえてくるのは嫌な気分だ。
それでも俺は異世界転移してきただけのただのラーメン屋、戦闘で役に立つことは……いや、ある!
「ルーミラ、俺を風の魔法で飛ばせるか?」
「うーん、できなくはないけど……なにするの? あれと戦うなんて自殺行為だよ?」
「戦わないさ、こっちに来たならお客様だ」
「???? よくわかんないけど、死なないでよっ! らぁめん食べられなくなるのは嫌だもん!」
ルーミラは諦めたように俺の言葉に従い、俺に〈風魔法:飛行〉《ヴェントス:フライ》をかけて浮かせてくれる。
飛んで行った俺は火竜と戦い、傷ついているカリン達を見下ろしていた。
「うわ、これってあのマンガみたいじゃないか……って、そんな風に考えてる場合じゃない! おい、ドラゴン!」
『なんだ?』
呼びかけられたドラゴンは首を傾げた。
そして、声が聞こえる|。
俺の多言語理解スキルがドラゴン語を訳してくれたのだ。
「腹が減って荒れていると見た。だから美味いものを食わしてやるからおとなしくしろ」
『ほう、人間ごときがワラワを満足させるものを食わせるだと? 笑わせてくれる』
「そーら、大量のチュロスだ!」
俺はガガガと笑うドラゴンの口の中へ〈アイテムボックス〉から出したチュロスをありったけ投げ込んだ。
もぐもぐとチュロスを味わったドラゴンは大きく叫ぶ。
『うまくて、あまーい!』
これが俺の戦い方だ。
美味い物は世界を救う……多分な。
火竜の巣の近くであるふもとにまで来ると、熱気がすごかった。
最後の休憩を取り、班を編成して対応するとアルヴィンが言っている。
俺はキッチンカーの機能で入手できるようになった【運動でよく飲む清涼飲料水】を大量〈アイテムボックス〉に入れて、討伐隊の参加者に配った。
「普通の水よりも美味いな」
「汗をかいているからだな、体が塩っけとかを求めているんだ」
アルヴィンにかいつまんだ説明をしつつ、ゴミは回収していく。
俺ができることなんて、こんな雑用レベルのことだ。
「それじゃあ、行ってくる」
「ああ、俺がどうこうするわけじゃないけどな……」
「そうそう、後方支援部隊の護衛は私達【夜鴉】にお任せよ」
「本当なら、最前線に行って貰いたかったんだがなぁ……」
「何かあった時に瓦解するから私達って決めたでしょ。ほら、さっさと行った行った」
領主相手ではあるものの、ここでは冒険者としての付き合いのためかアルヴィンとカリンのやり取りは親戚のおじさんと姪っ子といった雰囲気を醸し出している。
アルヴィンは冒険者チームを3チームほど引き連れて、火山の中へと入っていった。
「まぁ、それにね……私達黒髪じゃない? こういう大事な作戦の時は縁起が悪いって思う冒険者達もいるのよ。これは領主様には秘密ね」
「なるほどな……よっぽど、前に異世界へ来た日本人はやらかしたらしいな」
アルヴィンを見送ったあと、カリンが俺に伝えた言葉が重くのしかかる。
ザビーネとの今後をどうするかということだ。
確かに慕ってくれているようだが、俺がザビーネを貰って幸せにできるのかアラフォーになってもまともに恋愛をしてきたことのない俺では判断がつかなかった。
「グギャァァァァオウ」
大きな唸り声のようなものが上空から聞こえてくる。
後方支援部隊と、その護衛や斥候をしていた冒険者達が一斉に空を見上げた。
空を我が物顔で羽ばたく、巨大な存在が目に映る。
誰かが叫んだ。
「ドラゴンだぁぁぁぁぁ!」
可能性としてはあったはずだが、実際に目の当たりにしたことで、混乱する冒険者達の方が多い。
冷静なのはカリン達【夜鴉】のメンバーくらいだ。
「作戦の当てが外れたな……ますます黒髪は不吉とかいうジンクスが広まりそうだ」
「随分と余裕ですのね。慌てふてめくよりかはいいですけれども」
俺が火竜を見上げていると、セシリアさんが驚きとも呆れともいえない表情をしているのが視線の端に映る。
そうしていると、セシリアさんが防御の魔法〈土魔法:大地壁〉を張ってくれた。
「中から出ないでくださいね?」
土壁に覆われ、上部しか空いていないところへ集められた俺達は戦闘の様子を音や声だけでしか確認できない。
セシリアさんは〈風魔法:飛行〉で上に飛び、援護で魔法を火竜に撃ち込んでいた。
「グリュゥゥウォォアァァ!」
地鳴りを起こすような叫び声をあげた火竜が炎のブレスを吐いて、あたりを焼き尽くす。
土壁の中までは届かないが、生きた心地がしないのは俺だけではないだろう。
俺の腕をザビーネがぎゅっと掴んで体を寄せてきた。
それにこたえるように俺もザビーネを抱きとめる。
「全然武器が通らないっ! なんて硬さなの!?」
「魔法を付与して攻撃しても大して効果がないのはずるいんじゃないかねぇ……」
姿は見えないが声だけが聞こえてくるのは嫌な気分だ。
それでも俺は異世界転移してきただけのただのラーメン屋、戦闘で役に立つことは……いや、ある!
「ルーミラ、俺を風の魔法で飛ばせるか?」
「うーん、できなくはないけど……なにするの? あれと戦うなんて自殺行為だよ?」
「戦わないさ、こっちに来たならお客様だ」
「???? よくわかんないけど、死なないでよっ! らぁめん食べられなくなるのは嫌だもん!」
ルーミラは諦めたように俺の言葉に従い、俺に〈風魔法:飛行〉《ヴェントス:フライ》をかけて浮かせてくれる。
飛んで行った俺は火竜と戦い、傷ついているカリン達を見下ろしていた。
「うわ、これってあのマンガみたいじゃないか……って、そんな風に考えてる場合じゃない! おい、ドラゴン!」
『なんだ?』
呼びかけられたドラゴンは首を傾げた。
そして、声が聞こえる|。
俺の多言語理解スキルがドラゴン語を訳してくれたのだ。
「腹が減って荒れていると見た。だから美味いものを食わしてやるからおとなしくしろ」
『ほう、人間ごときがワラワを満足させるものを食わせるだと? 笑わせてくれる』
「そーら、大量のチュロスだ!」
俺はガガガと笑うドラゴンの口の中へ〈アイテムボックス〉から出したチュロスをありったけ投げ込んだ。
もぐもぐとチュロスを味わったドラゴンは大きく叫ぶ。
『うまくて、あまーい!』
これが俺の戦い方だ。
美味い物は世界を救う……多分な。
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