上 下
32 / 38
三杯目 疲れた体にガッツリチャーシュー麺

第10話 ラーメン屋、高級娼館で朝を迎える

しおりを挟む
■月光楼 ザビーネの部屋
 
 朝日が入らない薄暗い部屋で俺は目を覚ました。
 見知らぬベッドで寝ていたことに気づき、起き上がろうとしたら隣には寝息を立てるザビーネの姿がある。
 この世界に来てからは初めての、向こうの世界も併せれば半年くらいぶりに人のぬくもりを感じた夜を思い出した。

「そうか、ノリで金払ってやっちゃったんだったな……久しぶりだったから、だいぶ燃えた」

 タバコを吹かすと格好がつくのだが、料理人は舌が命なので俺はタバコをやっていない。
 もちろん、この異世界のタバコが向こうの世界のタバコと同じものとも限らないんだが……。
 銀色の髪を持ち子供のように無邪気な顔で寝ている女をゆすって起こした。

「おい、頼むから起きてくれ。延長料金はさすがに困るぞ」
「んぅ……悪いねぇ、久しぶりに気持ちよく寝られたもんだからさ」

 ザビーネは起き上がり、シーツで胸元を覆うと窓の方へと歩いていく。
 俺は全裸のままでザビーネの後についていき、一緒に窓を覗けばヴァルディールの綺麗な街並みが広がっていた。
 夜は早く寝るのがこの街の大半であり、明りがともっているのはダンジョンの周辺くらいである。

「街はこんなにも大きかったんだな……」
「ああ、大きな街さ。その中で一人一人一生懸命に生きている。私も、そして、貴方もね。軽い朝食を持ってこさせるわ。サービスだから安心して」

 ザビーネがベルを鳴らすと、廊下で待機していたのだろうか、小さな女の子がドアを軽く開けて部屋を覗いてきた。

「朝食を2つ用意してもらってね。あと、お客様がでていったら部屋の片づけと私の湯あみの手伝いも頼むわ」
 
 ザビーネの指示を受けた女の子は軽くお辞儀をした後、去っていく。

「冒険者が集められているな、昨日の今日だが動きが早い。さすが領主か」
「なんか大きな討伐でもするのかい?」
「ああ、火山地帯へ火竜を倒しにいくんだ。俺も後方支援要員となるがいくことになっている」

 素っ裸なのも何なので、着替えながら朝食の到着を待っているとザビーネはうつむき、綺麗な顔を曇らせた。
 どう声をかけようか迷っていると女の子が朝食を持ってきたので一緒に食べる。
 しかし、先ほどと同じくうつむいたままなので、声のかけ方がわからなかった。

(彼女も、嫁もいたことがほとんどない俺に美女をどうこうするなんて、無理だ)

 無言のまま朝食を食べえると、俺は部屋を後にしようとドアに近づいた。
 トスンという軽い音がして、俺の背中に柔らかなふくらみが当たっているのを感じる。

「必ず、帰ってきてほしい」
「大丈夫だ、さっきも言ったが冒険者ランクの低い俺が前線に出たって役に立たないさ、後方で炊き出しとかやるだけだから安心してくれ」

 若干情けないことを言っているかもしれないが、俺は異世界で強くなった覚えは全くない。
 油断してやられるのだけはゴメンなので、安全マージンだけは確保していた。

「わかった、また【トリパイタンラーメン】食べたいからね」
「美容に効く、鳥だしのスープならここにある」

 俺は〈アイテムボックス〉から鍋さら眠らせていたスープをザビーネの部屋に置く。

「も、もう! あんたって人はさぁ! こう、その……もういいよ。いって来なよ」

 鍋のことについていろいろ言いたかったようだが、言葉にするのを諦めたザビーネはぎゅっと一度抱きしめてから離れた。

「ああ、いってきます」

 夜鴉のホームでは何度も言っていたセリフだったが、今日は不思議と大切な言葉になった気がする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

園芸店店長、ゲーム世界で生産にハマる!

緑牙
ファンタジー
植物が好きで園芸店の店長をしている 志田良太。 ゲーム世界に飛び込んで遊べるVRMMORPGのゲームを入手して、成り行きでおこなった生産に徐々にハマっていく。 製薬・鍛冶・料理・栽培などの生産を通じて、AI搭載のNPCや他のプレイヤーと交流していく。 時には他プレイヤーに絡まれたり、 時にはNPCを助けたり、 時には仲良くなったNPCや動物達と一緒に作業したり、 周囲に流されながらも、毎日を楽しく過ごしていきます。 その中で「生産者のリョウ」として徐々に名が知れていってしまうが、そんなことはお構いなしにマイペースに突き進んでいくお話です! ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 本格的に生産を始めるのは二章からになります! タイトルに※印が付いていたら、乱暴な表現や台詞があります。 話はかなりスローペースに進んでいきます! 体の不調が続いてるため、不定期更新になります。 投稿できそうな日は、近況にてご報告致します。

陰キャでも出来る!異世界召喚冒険譚!

渡士愉雨
ファンタジー
クラスメート共々異世界に召喚された、ちょっと陰キャ寄りな少女、八重垣紫苑。 『私は陰キャだけど……困ってる人は助けないとね。これでも正義の味方大好きなので』 しかし一緒に召喚されたクラスメートは人癖も二癖もある人間ばかり(紫苑含む)。 そんな訳で時に協力時に敵対もあったりしつつ、皆で駆け抜けていく異世界召喚冒険譚、ここに開幕!

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった

ありあんと
ファンタジー
アラサー社会人、時田時夫は会社からアパートに帰る途中、女子高生が聖女として召喚されるのに巻き込まれて異世界に来てしまった。 そして、女神の更なるミスで、聖女の力は時夫の方に付与された。 そんな事とは知らずに時夫を不要なものと追い出す王室と神殿。 そんな時夫を匿ってくれたのは女神の依代となる美人女神官ルミィであった。 帰りたいと願う時夫に女神がチート能力を授けてくれるというので、色々有耶無耶になりつつ時夫は異世界に残留することに。 活躍したいけど、目立ち過ぎるのは危険だし、でもカリスマとして持て囃されたいし、のんびりと過ごしたいけど、ゆくゆくは日本に帰らないといけない。でも、この世界の人たちと別れたく無い。そんな時夫の冒険譚。 ハッピーエンドの予定。 なろう、カクヨムでも掲載

ジャック・ザ・リッパーと呼ばれたボクサーは美少女JKにTS転生して死の天使と呼ばれる

月狂 紫乃/月狂 四郎
ライト文芸
あらすじ  ボクシングの世界戦を目前にして不慮の事故で亡くなったリュウは、運命の女神に出会ってまさかの美少女JKへと転生する。  志崎由奈という新しい名前を得た転生JKライフでは無駄にモテまくるも、毎日男子に告白されるのが嫌になって結局ボクシングの世界へと足を踏み入れることになる。  突如現れた超絶美少女のアマチュアボクサーに世間が沸き、承認願望に飢えたネット有名人等が由奈のもとまでやって来る。  数々のいざこざを乗り越えながら、由奈はインターハイへの出場を決める。  だが、そこにはさらなる運命の出会いが待ち構えていた……。 ◆登場人物 志崎由奈(しざき ゆな)  世界戦を迎える前に死亡した悲運のボクサーの生まれ変わり。ピンク色のサイドテールの髪が特徴。前世ではリュウという名前だった。 青井比奈(あおい ひな)  由奈の同級生。身長150センチのツインテール。童顔巨乳。 佐竹先生  ボクシング部の監督を務める教師。 天城楓花(あまぎ ふうか)  異常なパンチ力を持った美少女JKボクサー。 菜々  リュウの恋人。看護学校を出ており、ブラックすぎる労働環境から看護師をリタイア。一般的な会社で働いている。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...